- 著者
-
中島 尚樹
- 出版者
- 調布学園女子短期大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1994
本研究(今年度実施分)では、英語における受動文の意味的条件となる概念の明確化、および、日本語の「テアル」の構文において「受動化」という性質がどのように導入されたか、という点を検討した。前者に関しては、これまでの研究から「影響性(Affectedness)」と「主語の特徴づけ」という概念を取り上げて検討した。まず、これらの概念が「状態/非状態」、stage/individualという概念、また、意味役割とどのような関係にあるかを調べた。一般に「主語の特徴づけ」という性質を持つ状態動詞の受動文は、受動化で移動する要素がその動詞の項でなくてもよいが、影響性に従う受動文のタイプにも、小節をとる知覚動詞の受動化の例など、その動詞の項でないものがあることが分かった。これらの意味概念を明確にするには、その概念が統語的にどの項との意味合成から得られるかということを明示することが有益であると思われる。この点をTenny(1987,1982)の「限定性(delimitedness)」stage/individualという概念を取り上げて検討した。また、これらの意味的条件の適用範囲を調べるために、統語的、意味的性質による受動文タイプの細分化を行なった。後者に関しては、受動化の性質を持つ補助動詞「テアル」をserial verb constructionとして分析し、本動詞「アル」の等位構造から補助動詞の「テアル」が生まれたという分析を動的文法理論の枠組みで検討した。この分析は、補助動詞「テモラウ」などにも一般に拡張して適用することが出来ると考えられ、今後この可能性も検討する必要がある。