- 著者
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永田 和之
中島 康佑
平岡 有努
有道 真久
大下 智也
村木 亮介
内藤 善隆
姫野 麻菜美
坂口 太一
- 出版者
- 一般社団法人 日本体外循環技術医学会
- 雑誌
- 体外循環技術 (ISSN:09122664)
- 巻号頁・発行日
- vol.46, no.2, pp.131-138, 2019 (Released:2019-07-03)
- 参考文献数
- 12
【背景】心臓外科手術後に術後高次脳機能障害(postoperative cognitive dysfunction:POCD)が発生することが知られており、その原因の一つとして人工心肺が関係するとの報告がある。【方法】人工心肺を使用した心臓弁膜症手術において術前・術後の認知機能テストを施行し得た連続160例を対象とした。術前後に4種類の認知機能検査を行い、少なくとも1つにおいて術後のポイントが20%以上低下するか評価困難な場合にPOCDと判定した。POCD発症に関連する因子を多変量解析にて検討した。【結果】POCDを発症したのは49例(30.6%)であった。発症群と非発症群を比較検討したところ、発症群は有意に年齢が高く、認知症と高血圧の既往が多く、HbA1c値が高値であった。また、発症群は人工心肺中の復温時間が有意に短く、復温時の灌流指標(Perfusion Index:P・I)、ヘモグロビン値、酸素供給量(DO2i)が有意に低かった。術後経過に関しては、発症群は有意に術後最高血清クレアチニン(Cr)値、術前後血清クレアチニン(Cr)値上昇幅が高く、術後挿管時間、ICU滞在日数、入院日数が長かった。多変量解析の結果、年齢(cut off値=72歳、AUC=0.71、OR=6.09、CI=2.40-15.5、P=0.0021)および35℃復温時のDO2i(cut off値=276mL/min/m2、AUC=0.79、OR=9.28、CI=4.22-20.4、P<0.0001)がPOCD発症の独立した危険因子であった。【考察】心臓手術後のPOCDは認知能力の低下だけでなく、術後経過に悪影響を及ぼす。特に高齢者の人工心肺管理においては、復温時のDO2iを適正に維持することが重要と考えられた。【結語】心臓手術後POCD発症の要因として、年齢および人工心肺復温時DO2iの関連が示唆された。