著者
中嶋 悠一朗
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

発生や病態にて観察される組織リモデリングは細胞の増殖、分化、移動、そして死といった様々な細胞の振る舞いを統合した現象である。その中で、細胞の「死」と「増殖」は最も基本的な振る舞いであり、組織を再構築し、恒常性を維持する上で互いに協調し合った両者のバランスが重要である。したがって細胞の死と増殖のバランスの破綻は発生異常にとどまらず、がんや神経変性といった疾患への関与が想定される。近年、組織リモデリングにおいて、カスパーゼの活性化を介した細胞死「アポトーシス」と細胞増殖が密接に関連し合うこと、その重要性が示唆されている。一方で、生理的条件下でアポトーシスと細胞増殖をつなぐメカニズムに焦点をあわせた研究はほとんどなく、生体内での両者の協調における細胞レベルの振る舞いや分子メカニズムに関して多くが未だ不明である。本研究では生理的に起こるアポトーシスを単一細胞レベルの解像度で可視化する系を構築し、組織内での時空間的なカスパーゼ活性化パターンを明らかにすることで、リモデリングにおけるアポトーシスの制御機構、そして周辺細胞との相互作用を解明することを目指した。これまでにショウジョウバエ蛹期における腹部表皮再構築を系として、FRET型のカスパーゼ活性化検出プローブを用いたカスパーゼ活性化パターンの詳細な記述を行った。本年度は、遺伝学的および人工的に周辺の増殖細胞に操作を施すことで、死にゆく細胞のカスパーゼ活性化パターンが増殖細胞との局所的な相互作用により制御されている可能性について検討し、実験的にその存在を示した。さらに増殖細胞の時空間的な細胞周期ダイナミクスとの相関を知るために、S/G2/M期をモニターする蛍光タンパク質プローブを導入し、細胞周期のS/G2期からM、G1期への進行が細胞非自律なアポトーシスを誘導するのに必要であることを見出した。本研究は組織リモデリングにおける細胞増殖とアポトーシスを結びつける細胞間協調の仕組みに新たなコンセプトを提示した。