- 著者
-
中嶋 敦
- 出版者
- 慶應義塾大学
- 雑誌
- 特定領域研究
- 巻号頁・発行日
- 2008
本研究では、芳香族有機分子ナノ集合体について、内部温度を制御した有機結晶や薄膜の電子物性を微視的に理解するための構造相転移現象を解明することを目的として研究を推進した。平成21年度は、孤立分子とバルクの橋渡しを実現する観点から分子の有限多体系に着目し、特に温度を規定した環境下で、その構造の秩序性を解明するための実験研究に取り組んだ。特に、有機金属クラスターをプローブとすることによって、表面上に形成される2次元自己組織化単分子膜(SAM)の2次元融解に関する成果を得た。アルカンチオールSAMにおいて注目されることは、2次元炭化水素鎖が表面上で「相」に対応する秩序状態をもつかという点である。この自己組織化したSAMの秩序性の挙動を明らかにするために、鎖長の異なる様々なアルカンチオールSAM基板を調製し、その表面上にバナジウム(V)-ベンゼン(Bz)1:2組成サンドイッチクラスター正イオンV(Bz)_2^+を10-20eV程度の入射エネルギーで打ち込み、蒸着されたサンドイッチクラスターの熱力学的安定性や配向特性を評価した。昇温脱離スペクトルの測定からSAMの炭素鎖長がC4からC22まで長くなるにつれて、脱離しきい温度が高温側にシフトし、ナノクラスターの脱離の活性化エネルギーは、C4-,C8-SAMで約60.0kJ/molであったが、C22-SAMでは、化学吸着熱に匹敵する~150kJ/molへと著しく増大していることがわかった。また、反射型赤外スペクトル測定から、C22-SAMのように鎖長が長い場合には、V(Bz)_2クラスターは蒸着時にSAM内に進入することによって捕捉されることがわかった。そして、室温以上まで固体基板上に固定される原理は、アルキル分子鎖の自己組織化に基づく秩序化によっていることを明らかにした。これらの成果を含めて、第四回公開シンポジウム(5/30-31、東京)、および、国際シンポジウム(1/7-9、京都)においてポスター発表を行ない、さらに、成果報告会(3/7-8、東京)において研究成果について講演を行った。