著者
中川 さやか
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

生物の多様性をもたらす進化プロセスを総合的に理解するためには、研究に適した対象生物と進化現象を選択して研究を行う必要がある。ツツザキヤマジノギク(以後ツツザキ)は、花形態が近縁種と大きく異なる上に、集団内で著しい変異がある。この変異にCYC相同遺伝子(以後C}℃)の関与が予測され、また、予備的な調査により、花形態の違いによって送粉者誘引効率効率が異なることによる自然選択が生じる可能性が考えられた。本研究ではまず、ツツザキにおいて、候補遺伝子を用いた形態変異の遺伝的基盤を明らかにし、形態間に適応度の差があるかどうかを確認することで、集団内変異が適応進化の文脈で理解できるかどうかを検討する。さらに、花形態変異がどのようなプロセスで生じているのかを理解するために、集団の歴史的背景の解明を行う。これらの研究からツツザキ集団の花形態進化プロセスを包括的に理解することを目的とする。具体的には以下の3つの問題設定に沿い研究を行う。:【1】花形態の変異に遺伝的基盤はあるか/【2】花形態の違いが適応度の差をもたらすか/【3】集団内の花形態のばらつきはどのように生じたのか【1】に対する成果ツツザキの筒状花個体と舌状花個体より、CYCの単離を行い、配列にアミノ酸変異があることが明らかになった。【2】に対する成果野外において、筒状花個体と舌状花個体の訪花昆虫の訪花頻度と結実率の調査を行った。解析の結果、筒状花個体よりも舌状花個体の方が訪花頻度、結実率が高いことが明らかとなった。花タイプによって適応度の違いがあることが示唆された。【3】に対する成果野外集団において、各パッチの増殖率や各花タイプの出現頻度の調査を行った。その結果、筒状花個体の頻度が減少していることが明らかとなった。パッチ間で環境が異なることや、筒状花個体の結実率が暗いパッチより明るいパッチで高くなることなどが、集団内変異の存在を可能にしていると考えられた。起源については、今後さらなる解析が必要である。