著者
亀井 裕子 三木屋 良輔 田中 毅 畠中 耕志 中川 司 森野 恭典
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D0214, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】末期肺癌患者1症例の理学療法を担当した。余命が1~2ヶ月であり、理学療法開始時より安静時から呼吸困難感の訴えが強く、呼吸困難感の改善を目的としてスクイージングを行ったので、その効果を検討した。【症例・経過】症例は83歳、男性。身長158cm、体重35kg。診断名は肺癌、慢性肺気腫、慢性心不全、肺炎。主訴として呼吸困難がある。現病歴は2004年11月に肺癌と診断され、2005年6月21日に症状悪化により外来通院から入院に至った。安静時から呼吸困難感の訴えが強く、ほぼベッド上での生活をされており、経鼻4L/分で酸素療法を実施していた。MRCはGrade5。胸部単純X線所見では左上中葉中枢に腫瘤が認められた。また横隔膜は低平化、肺は過膨張しビール樽状胸郭を呈していた。胸部CT所見では両上葉で気腫性変化、左上葉中枢に腫瘍が認められた。肺機能検査では呼吸困難度(ボルグ)3、動脈血酸素飽和度(%SpO2)98%、脈拍(HR)80回/分、呼吸数(RR)26回/分、平均血圧(MBP)73.3mmHg、胸郭拡張差1.75cmであった。理学療法プログラムとしては、2005年7月16日~8月24日(3~4回/週、23回介入)の間でスクイージングを行い、その前後でボルグ、%SpO2、HR、RR、MBP、胸郭拡張差を測定した。【結果】スクイージングの前後でボルグ、%SpO2、HR、RR、胸郭拡張差が有意に改善し、MBPは有意に低下した(P<0.01)。そしてRR、胸郭拡張差はボルグと有意な相関(P<0.05)がみられた。【考察】スクイージング前後でHR、RR、%SpO2が改善されたことから、呼吸筋の仕事率が軽減したことが予想され、これによりボルグの改善が得られたと考える。その結果、リラクゼーションが得られ胸郭拡張差の改善にも関与したことが示唆された。また、MBPに有意な低下がみられ、RR、胸郭拡張差はボルグと有意な相関がみられたことからリラクゼーションとの関連が示唆された。指標ではないが「少し楽になった」という声も聞かれ、タッチングによる心理的効果によってもリラクゼーション等の相乗効果による呼吸困難感の改善が得られたと考える。【まとめ】終末期になると肺癌による肺障害が進み通常の理学療法が実施困難になる場合が多い。しかし、スクイージングを行うことで呼吸困難感の改善がみられ、リラクゼーションの効果も示唆された。本症例においてADLに対する効果は認められなかったが、スクイージングが末期肺癌患者に対する緩和的な治療としても適応と考えられた。今後は末期肺癌患者に対して動的な改善の検討が必要性であると感じた。