著者
根本 伸洋 大橋 夏美 湖東 聡 松永 勇紀 角本 貴彦 柿崎 藤秦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1258, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】胸郭の運動性は、呼吸において重要であるが、身体全体に対して0.479の質量比を持つ体幹の約半分を占める部分である為、歩行などの身体運動にも影響すると考える。実際の臨床においても、胸郭全体の運動性低下や、運動性の左右差が生じている患者では、それに見合った呼吸や身体運動しか出来ないことが観察される。また、そのような患者に対して、胸郭と接する肩甲骨位置を修正することで、運動性や左右差の改善を図ることができ、良好な呼吸や身体運動を獲得できることを経験する。そこで今回は、肩甲骨内外転位置が胸郭の運動性に与える影響を検討したので、ここに報告する。【方法】対象は、本研究の内容を十分に説明し同意を得た健常成人8名とし、各条件での坐位姿勢をゼブリス社製3D-Motion Analysis CMS20Sを用いて測定した。測定した姿勢は、1)安静坐位姿勢、2)安静坐位から胸郭を右側へ並進移動させた坐位姿勢(以下、右変位姿勢)、3)右肩甲骨を外転誘導しての右変位姿勢、4)右肩甲骨を内転誘導しての右変位姿勢とした。なお、右変位姿勢は、骨盤帯が動かない範囲で胸郭を並進移動させ、肩甲骨位置の誘導は、右上肢を内旋位にすることで肩甲骨外転位置へ誘導し、右上肢を外旋位にすることで肩甲骨内転位置へ誘導した。また、測定の順番は、最初に安静坐位を測定した後は、無作為の順で各右変位姿勢を測定した。測定したランドマークは、両PSIS、両ASIS、両腸骨稜、Th1棘突起、Th11棘突起、胸骨頸切痕、剣状突起、第11肋骨先端とし、最も突出した部分または最も陥没した部分に十分注意を払いマーキングした。検討項目は、各ランドマークの空間座標から、1)胸骨頸切痕と第11肋骨先端の距離(以下、胸郭距離)、2)Th11棘突起と剣状突起を結ぶ線とTh11と第11肋骨先端を結ぶ線が水平面上でなす角(以下、肋骨角度)を左右で求め、対応のあるt検定を用いて、それぞれ危険率5%未満を有意とした。【結果】胸郭距離は、肩甲骨の誘導がない右変位姿勢と比較し、肩甲骨外転位での右変位姿勢で、変位させた側の右胸郭距離が有意に増大した。また、肋骨角度の左右差の平均は、肩甲骨内転位での右変位姿勢、右変位姿勢、外転位での右変位姿勢の順に増大し、それぞれ安静坐位と比較し有意に増大していた。【考察】胸郭距離、肋骨角度の左右差が肩甲骨内転位で増大していた結果から、胸郭の運動性が増大したと考えた。これは、肩甲骨外転位では肩甲骨が胸郭側方に位置する為に、胸郭側方の運動性を妨げるが、肩甲骨内転位にすると肩甲骨は胸郭後方に移動し、胸郭側方の運動を妨げない為であると考えた。今回の結果から、肩甲骨の位置を考慮することで、胸郭の運動性を引き出し、呼吸や身体運動の改善に繋げられる可能性が考えられた。
著者
生友 聖子 島野 幸枝 松田 史代 池田 恵子 川﨑 一弘 宮崎 雅司 山﨑 芳樹 吉田 義弘 坂江 清弘 森本 典夫
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0545, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】 スポーツの各場面において選手は刻々と変化する状況を瞬間的に判断しながら体を動かす。このスポーツに重要な『視る能力』とスポーツの関係を、統合的に研究する学問をSports Vision(以下SV)という。先行研究では、男性のSVは女性よりも全体的に優れているとの報告がある。しかし、これは対象が不特定多数の競技者であり、特定競技の同等競技力レベルの男女を対象とした報告はない。今回、全国でもトップレベルの実力を有する高校男女サッカー部員のSVを調査し、同一種目競技者間の男女差について比較・検討を行なった。【方法】 対象は、K県内の高校サッカー部に所属する経験年数3年以上の男子31名(経験年数:10.45±1.84)、女子24名(経験年数:8.38±2.67)である。測定項目は、スポーツビジョン研究会の報告に準じて、静止視力、縦方向の動体視力であるKVA動体視力、横方向の動体視力であるDVA動体視力、眼球運動、深視力、瞬間視、眼と手の協応運動の7項目とし、特にDVA動体視力は右回転と左回転、深視力は指標が近づく場合と離れる場合に分けて測定した。また、測定は競技を行う際の眼の状態(裸眼、コンタクト、眼鏡)で行った。統計手法は、対応のないt検定(p<0.05)を用いた。【結果】 DVA動体視力は右回転・左回転共に男性群が女性群と比較し有意に優れていた。また、指標が近づく場合の深視力と眼と手の協応動作で男性群が女性群に比較し優位である傾向にあった。一方、眼球運動では女性群が男性群に比較し有意に優れており、指標が離れる場合の深視力と瞬間視で女性群が男性群に比較し優位である傾向にあった。【考察】 今回、高校生サッカー部員の男女間比較では、DVA動体視力、眼球運動において両群間に有意差がみられた。先行研究においては、視機能は全体的に男性が優れているとされ、今回の研究でも、特にDVA動体視力において有意に男性が女性より優れていた。同等競技年数でトップレベルの選手間においても、先行研究と同様に男女差が見られたことから、これは運動習慣の差異ではなく生得的な原因によるものではないかと考えられる。また、眼球運動に関しては女性が有意に男性より優れており、先行研究と異なる結果が得られた。このことから、女性は跳動的に動く像を正確に目で追う能力は男性よりも優れているが、動いている像がどのようなものかを識別する能力は男性より劣っている可能性が示唆された。今後、男女間のみならず、種々の競技間での比較・検討なども行い、スポーツビジョンの分野をさらに追求していきたい。
著者
田中 武一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0627, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】ストレッチングの効果や生理学的な検討は様々な観点で研究されている。その中で可動域の変化を指標とした報告は多いが、そのほとんどが強度を明記していないことが多く、痛みを伴わない程度など主観的に設定している。また、ストレッチングは伸張痛を出現させないのが一般的であると言われているが、伸張痛を伴う強度でのストレッチングでも可動域の向上を認めるという報告もあり一貫していない。そこで本研究では、膝関節伸展位での股関節屈曲(SLR)ストレッチングにおけるハムストリングの筋活動電位(いわゆる防御性収縮)を定量化し、ストレッチング効果を検討することによって、筋活動電位の度合いが客観的な強度として使用できるかを明らかにすることを目的とした。【対象と方法】本研究に同意を得た健常男性10人(平均年齢29.2±4.7歳)を対象とし、測定姿位は背臥位とした。等尺性最大股関節伸展筋力を100%MVCとし、ストレッチングにおける筋活動電位は100%MVCに対する割合で定量化した。SLR角度は2.5%MVCの筋活動電位を認めた時点とし、ストレッチング前後で三回ずつ測定した。ストレッチングとSLR角度測定はBIODEXsystem3(酒井医療)を用いて、等速運動モードで設定速度2°/secにて実施し、ストレッチングは3セット行った。対象群はストレッチングをしない群(C群)、2.5%MVCの強度で20秒ストレッチングする群(S1群)、5.0%MVCの強度で20秒ストレッチングする群(S2群)の3群とし、各群はランダムに日を変えて行った。なお、S1群とS2群ではストレッチング中の伸張痛をVAS変法を用いて評価した。表面筋電図はMyoResearch(酒井医療)を用い、電極設置部位は半腱様筋の遠位1/3とした。統計学的検討には、対応のあるt検定、分散分析、多重比較を用いた。【結果】各群の平均変化率は、C群102.2±3.8%、S1群111.0±5.2%、S2群120.2±11.9%であり、ストレッチングの前後の角度は各群とも有意に増加した。また各群間の多重比較では、C群よりS1群が、C群よりS2群が、S1群よりS2群が有意に増加した。VASはS1群6.8±1.5よりS2群8.1±1.7の方が有意に増加した。【考察】一般的にストレッチングは伸張反射が起こらない痛みのない範囲で行うと言われている。しかしS1群よりS2群に有意な可動域改善を認めたことから、ゆっくりとした速度で5.0%MVCまでの強度であれば、伸張痛を伴ってもより強いストレッチングの方が効果的であることが示唆された。これは、SLRの可動性制限因子が主にハムストリングスだけであることに加え、防御的な筋収縮が起こることでより張力が増し、Ib群線維による自原抑制を助長したのではないかと考えられる。 今回の結果により、ストレッチングに対する客観的な強度設定として、ストレッチングにおける筋活動電位を指標とすることの有用性は示唆されたが、短期的な効果であり、その後の筋の弾力性の評価や長期的経過を今後検討していく必要がある。
著者
中村 泰陽 横井 輝夫 井上 敦史 滝井 里栄 加藤 浩
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0573, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】コップでは飲水することは出来ないが、ストローでは飲水が可能な脳卒中後遺症者や認知症者がいる。しかし、ストローでの飲水の嚥下動態や誤嚥の危険性についての報告はほとんど見られない。そこで健常成人を対象に、表面筋電図、喉頭運動、呼吸軌跡の時系列的解析を用いてストローでの飲水の特徴を検討した。【方法】被験者は研究参加に同意が得られた学生10名。測定手順は鎌倉らの方法を参考にし、ストローの使用の有無の2条件で測定した。嚥下は口唇を閉じ、舌骨上筋群が収縮し、喉頭が前上方に移動することで始まる。そこで、口唇を閉じる口輪筋と舌骨上筋群に表面筋電図を、喉頭運動は喉頭を構成する甲状軟骨に圧電センサーピエゾフィルムを貼付し、呼吸軌跡はairflowセンサーを鼻孔に取り付けて測定した。ストローを使用しない条件では、椅子座位姿勢の被験者に「コップの水10ml全量を口に含み、測定者の“はい”の合図後3回の呼吸周期後に飲み込み、飲み込んだ後3呼吸はそのままの状態を保持するよう」依頼した。ストローでの飲水では、同様の手順で全量を一度にストローで吸い上げ、水分を口腔内で留める事なく嚥下するよう」依頼した。今回測定したパラメータは、嚥下性無呼吸を含む呼吸周期と舌骨上筋群と喉頭運動の活動持続時間、口輪筋の活動開始から舌骨上筋群活動開始までの時間など7項目である。統計処理はストロー使用の有無別にそれぞれのパラメータについてt検定を用いて比較した。有意水準は5%未満とした。【結果】ストローを使用しない条件に比べストローでの飲水では、舌骨上筋群と喉頭運動の活動持続時間が有意に延長していた。またストローを使用しない条件では、舌骨上筋群と喉頭運動の活動は共に一峰性であり、ストローでの飲水では、両パラメータともに二峰性の活動がみられた。そしてストローを使用しない条件での一峰性の喉頭運動持続時間に比べ、ストローでの飲水の二峰目の喉頭運動持続時間は有意に短縮していた。呼吸軌跡は、ストローでの飲水では、吸気‐呼気‐嚥下性無呼吸‐呼気、及び吸気‐嚥下性無呼吸‐呼気の2通りの呼吸型が多く認められた。【考察】ストローを使用しない条件では嚥下相のみであるが、ストローでの飲水では、水分を吸い上げる相と、嚥下相の2相から構成される。その結果、ストローでの飲水では、舌骨上筋群と喉頭運動の活動持続時間が延長したものと考えられる。しかし、嚥下相であると考えられるストローでの飲水の二峰目の喉頭運動持続時間が、ストローを使用しない条件の喉頭運動持続時間に比べて有意に短縮していたことは、ストローを使用した場合、嚥下に要する時間が短縮することを意味していると考えられる。また、ストローでの飲水の呼吸軌跡は嚥下性無呼吸後呼気で再開され、誤嚥を予防する機制が働いていると考えられる。つまりストローでの飲水は、誤嚥への防衛機制が働く方法であると考えられた。
著者
神尾 博代 中俣 修 古川 順光 信太 奈美 来間 弘展 金子 誠喜 柳澤 健
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1243, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】転倒の危険が少なく、より安定した立ち上がり動作を獲得することは重要である。片麻痺患者の場合、麻痺側を前方に位置した立ち上がり動作を日常生活活動として指導することが多い。そこで、足部位置を変化させることによって、その動作を遂行するためにどの程度の下肢関節モーメントが必要とされるのか把握することが必要であると考えられる。本研究では、足部を平行位にした場合と前後に置いた場合の立ち上がり動作を比較し、下肢関節モーメントについて分析することを目的にした。【方法】対象は健常成人11名(男性7名、女性4名)とした。ヘルシンキ宣言に基づいて、被験者に実験の目的・危険性等を説明し書面にて承諾を得た。立ち上がり動作の計測には、三次元動作解析装置VICON370(Oxford Metrics社製)および床反力計(kistler社製)を用いた。背もたれのない座面高を下腿長の高さとする、椅子からの立ち上がり動作を課題とした。このとき、上肢は体側に自然下垂位とし、スピードは被験者の最も楽に立ち上がれる速さとした。また、足部位置は肩幅の広さとし、一側足部を前方に置いた右前型、左前型、平行位に置いた揃え型の3種類とした。各試行とも3回ずつ行った。この時の下肢の股関節・膝関節の伸展モーメントの最大値をもとめ、各試行間での比較検討を行った。統計解析は分散分析および多重比較を行った。有意水準は5%未満とした。【結果および考察】揃え型、右前型、左前型における股関節・膝関節の最大伸展モーメントの平均値(SD)は、左股関節では揃え型が74.5(16.0)Nm、右前型が107.7(22.7)Nm、左前型が79.9(29.5)Nmであった。右股関節では揃え型が69.1(17.7)Nm、右前型が77.3(25.8)Nm、左前型が93.6(20.1)Nmであった。左膝関節では、揃え型が57.1(11.9)Nm、右前型が83.4(15.6)Nm、左前型が7.7(8.0)Nmであった。右膝関節では揃え型が63.1(18.0)Nm、右前型が11.1(10.1)Nm、左前型が91.8(22.6)Nmであった。一側下肢を前方に出すことで前方側の膝関節モ-メントは有意に小さくなった。しかし、前方側の股関節伸展モーメントは揃え型と比べてほとんど変化が見られず、後方側の股関節・膝関節モーメントは揃え型よりも有意に大きなモーメントを必要とすることがわかった。臨床場面で、麻痺側下肢を前方に出した位置での立ち上がり動作を指導する場面があるが、これらの結果から非麻痺側である後方側の股関節・膝関節伸展モーメントが十分に発揮できないと立ち上がることが困難になると考えられる。今後、片麻痺患者について検討することで確認を行いたいと考える。なお、本研究は本学の研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した。
著者
西村 朋美 蒲田 和芳 横山 茂樹 杉野 伸治 一瀬 浩志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0897, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】肩関節挙上動作における肩甲上腕リズムについてはInman(1944)以降、それに付随する脊椎伸展運動についてはKapandji以降、数多くの文献に記載されている。しかしながら、肩甲上腕リズムと脊椎伸展の運動学的な連鎖については十分検証されていない。我々は「肩甲骨が胸郭上で安定した肢位を得るには接触面積を増大させる必要があり、脊椎伸展は肩甲骨の位置と安定性を最適化するための胸郭の形状変化に貢献する」という仮説を立てており、本研究では脊椎伸展運動の主要な貢献部位を特定することを目的とした。【方法】本研究は対照群のない縦断研究であり、対象の選択基準を脊柱及び肩関節に既往のない20代男性10名(平均年齢25.4±2.5歳、平均体重60.7±6.34kg、平均身長171.0±6.27cm、平均BMI 20.78±2.09)とした。測定項目は、肩関節屈曲肢位0°30°60°90°120°150°、最大屈曲位における脊柱矢状面弯曲とした。脊椎弯曲の計測にはインデックス社製スパイナルマウスを用い(文献1)、第1胸椎から第3仙椎間の各分節角度を2回計測して各セグメントの屈曲角の平均値を求めた。得られた結果から、上位胸椎、下位胸椎、および腰椎の3つのセグメントの屈曲角度の合計を算出し、肩関節の肢位による弯曲の変化を比較した。統計分析には分散分析およびTukey/Kramer法を用い、有意水準をp<0.05とした。【結果】下位胸椎後弯角では分散分析で有意(p<0.05)であり、屈曲0度と比較して最大屈曲位において有意な後弯角の減少(脊椎伸展)が認められた。上位胸椎および腰椎には有意な運動は認められなかった。【考察】肩関節最大挙上に伴う脊椎伸展の主要貢献部位は下位胸椎であることが示された。スパイナルマウスについては、後弯に対して信頼性高く、前弯を過小評価することが示された(文献1)。しかしながら、前弯部位であっても個人内の変化は十分検出できるため、我々は腰椎伸展が生じないという結果は信頼性のある結果であると解釈している。本研究の対象は、肩関節や脊椎に疾患のない健常者若年成人であり、この結果は正常な肩関節運動における脊椎・肩甲骨リズムを反映しているものと結論付けられる。今後、下位胸椎の伸展が胸郭の形状および胸郭と肩甲骨の接触面積への貢献について検証を進める必要がある。【臨床的意義】この研究の結果、肩関節疾患の治療においては、最大挙上位を獲得させるためには脊椎の中でも特に下位胸椎の伸展可動性および胸椎部の脊柱起立筋の機能改善が必要であることが示唆された。また下位胸椎伸展に伴う胸郭の可動性についても考慮が必要である。【引用文献】 文献1:松尾礼美ら(第41回日本理学療法学術大会、2006)
著者
生友 尚志 永井 宏達 大畑 光司 中川 法一 前田 香 綾田 裕子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0604, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】広背筋は背部の複数の部位から起始し、停止部で上下の筋線維が反転して付着する。このような広背筋の筋線維による解剖学的な違いはよく知られているが、運動学的な違いについては知られていない。Patonらは広背筋を6つの部位に分けて肩関節運動時の筋活動を測定し、部位別の差異があることを報告している。我々は第41回日本理学療法学術大会において、広背筋を5つの部位に分け、肩関節運動に加え体幹側屈運動時の筋活動を調べ、運動学的に上部線維と下部線維の2つに分けられることを報告した。今回の研究の目的は、前回の測定項目に体幹伸展、体幹回旋運動を加え、広背筋を上部線維(ULD)と下部線維(LLD)に分けて筋活動を測定することで、ULDとLLDの作用について明らかにすることである。【対象と方法】本研究に同意を得た健常成人男性14名(平均年齢20.9±2.4歳)を対象とした。筋電図の測定はNoraxon社製MyoSystem1400を使用し、右側のULDとLLDの2ヶ所にて行った。第7頚椎棘突起と上前腸骨棘を結んだ線上で、ULDは第7胸椎レベル、LLDは第12胸椎レベルの位置にそれぞれ筋線維に平行に表面電極を貼付した。測定項目は肩関節運動として腹臥位にて右肩関節内旋・水平伸展・内転・下方突き押しの4項目、体幹運動として腹臥位体幹伸展、側臥位体幹右側屈、端座位体幹右回旋・左回旋の4項目の計8項目とした。各運動項目を5秒間最大等尺性収縮させた時の安定した3秒間の積分筋電図値(IEMG)を求め、それらを徒手筋力検査に準じて測定した肩関節伸展最大等尺性収縮時のIEMGを100%として正規化し、各筋線維ごとに%IEMGを求めた。また、各運動項目のULDとLLDの筋活動比(LLDの%IEMG/ULDの%IEMG)を求め、Friedman検定を用い比較検討した。【結果と考察】ULDの%IEMGは水平伸展で61.6±20.8%と最も大きく、以下内転41.3±15.6%、体幹右回旋35.4±29.8%、下方突き押し34.7±26.1%、体幹側屈30.5±20.6%、内旋29.5±17.1%、体幹伸展28.1±9.3%、体幹左回旋4.9±3.1%であった。LLDの%IEMGは体幹側屈で100.7±28.4%と最も大きく、以下下方突き押し83.2±28.9%、体幹右回旋66.3±27.5%、内転54.6±21.9%、体幹伸展42.2±11.7%、水平伸展36.8±16.5%、内旋19.8±10.7%、体幹左回旋8.0±5.0%であった。筋活動比は運動項目間において有意な差がみられ(p<0.01)、体幹側屈で最も大きな値を示し、反対に肩関節内旋や水平伸展で最も小さな値を示した。今回の研究により、ULDは肩関節内旋や水平伸展時に選択的に作用し、LLDは体幹側屈時に選択的に作用することが明らかになった。
著者
袴田 さち子 今村 安秀
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0922, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】サッカー選手の傷害発生部位は、その競技特性から顕著に足関節・足部から膝関節にかけてが多いと報告される。特に成長期の選手では未完成な骨関節に、硬いスパイクで衝撃を繰り返し受けることからトラブルが生じるケースも少なくない。 今回我々は中学生サッカーチームにおいて、入部年時の膝関節・足関節・足部についてのメディカルチェックとチェック後のシューズサポートを行った結果、若干の知見を得たので報告する。【方法】対象は過去9年間に当院でメディカルサポートを行った同一サッカーチームの男子選手(年齢12~13歳)273名。これを、チーム全員にシューズサポートを行うようになった年度の前後2群に分類した。方法として入部年時のメディカルチェックの結果集計と質問紙法でのシューズに関する調査を行い、2群を比較した。調査内容は1)チーム加入前の膝関節・足関節・足部の傷害既往歴、2)メディカルチェック時の同部位傷害状況、3)スパイク購入時の問題の有無とスパイク使用開始年齢、4)シューズサポートの内容、5)シューズサポート施行前後群それぞれの年間傷害発生率、とした。【結果】2群の分類はシューズサポート施行前群(以下「前群」)97名、同施行後群(以下「後群」)176名であった。1)傷害既往有は前群40名(41.2%)、後群101名(57.4%)であった。傷害の内容は捻挫・骨折・踵部痛・膝関節部痛が主だった。2)メディカルチェック時の傷害状況は脛骨粗面の突出または痛み/外脛骨/偏平足/種子骨/踵部痛/その他で、前群が10/11/6/1/3/7(件)、後群が21/28/8/3/5/8(件)となった。何らかのチェックを受けた者は前群38名(39.2%)、後群66名(37.5%)であった。3)シューズに関する調査では「スパイク購入時に問題がある」と答えたのは、回答のあった99名のうち46名で46.5%は何らかの問題を感じていた。また、スパイク使用は74名(74.7%)が4年生までに開始していた。4)行ったサポート内容は、インソールの挿入が42名、スパイクのポイントの形状選択が68名、スパイクのアウトソールの形状修正が14名であった。5)2群の年間傷害発生は前群が45件で46.4%(件数/人数)、後群が24件で13.6%となった。【考察】選手の半数は当チーム入部前の小学生の段階で何らかの傷害経験があることがわかった。また、メディカルチェックでも、前後群ともに約40%の選手が発症しないまでも問題を有していた。しかし、その後1年間の傷害発生率はシューズに関するサポートを施行した後に顕著に減少しており、成長期のサッカー選手においてはシューズのフィッティングが傷害予防の観点においても非常に重要であることが示唆された。
著者
朴 文華 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0255, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】自転車エルゴメーターによるトレーニングは主に持久力のトレーニングとして用いられているが、高負荷で行うことにより筋力トレーニングとして用いることができると報告されている。しかし、高負荷ペダリングトレーニングの下肢筋への影響は、膝伸展筋力に関しては等尺性、等速性ともに意見が一致しておらず、また、体幹筋にどのような影響を及ぼすかについての報告は見当たらない。さらに、これらの報告はトレーニング期間が6~8週で行われており、4週間という短期間で行われたものはない。本研究の目的は、4週間という短期間での高負荷のペダリングトレーニングが下肢および体幹筋力と下肢のパフォーマンスに与える影響を検討することである。【対象と方法】本研究に同意を得た健常学生17名を対象とした。トレーニング群として10名(男5名、女5名:平均年齢22.8±2.8歳、平均体重55.4±6.3kg)に自転車エルゴメーター(COMBI POWERMAX V)によるトレーニングを実施した。残りの7名(男4名、女3名:平均年齢23.6±4.2歳、平均体重60±16.5kg)はコントロール群とした。トレーニング期間は週4回、4週間とし、体重の7.5%の負荷(平均4.2±0.5kp)で30秒間最大速度でのペダリングを30秒間の休息をはさみ4回行わせた。4週間のトレーニング前後に等速性膝屈伸筋力(角速度60,180,300deg/sec)、等尺性膝屈伸筋力、脚伸展筋力(CKC筋力)、腹筋力、背筋力、ストレングスエルゴを用いた回転数20,40,60,100rpmでの最大トルク、エルゴメーターによる体重の7.5%の負荷を用いた最大パワー、パフォーマンステスト(幅跳び、垂直跳び、6m hop、stepping test)を評価した。統計処理にはトレーニング前後で対応のあるt検定を用いた。【結果と考察】等速性の膝屈曲及び伸展筋力においてはどの角速度でも有意差は認められなかった。等尺性伸展筋力は207.5±48.8Nmから222.7±63.8Nmへと、CKC筋力は1144.7±409.8Nから1404.4±197.7Nへと有意に筋力が増加した。また、腹筋力においても143.4±47.7Nから175.0±87.0Nとなり筋力増加が認められたが背筋力は有意な差は認められなかった。ペダリング筋力においては、ストレングスエルゴによる等速性の全ての速度で筋力の変化はなく、エルゴメーターによる最大パワーの変化も見られなかった。パフォーマンステストにおいては6m hop, ステッピングテストにおいて有意にトレーニング効果が認められたが、その他は認められなかった。以上の結果より、4週間の高負荷ペダリングトレーニングは、1)等尺性膝伸展筋力だけでなくCKC筋力と下肢パフォーマンスを改善させることができること、2)下肢だけでなく腹筋筋力を増加させることができることが示唆された。
著者
宮前 茜 新井 悠里江 井上 大介 青柳 恵三子 後閑 浩之
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1217, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】立位時に唯一の支持面である足底には、身体運動遂行と状況変化に対応して足底の感覚情報を集積する多数のメカノレセプターが存在する。足趾把持練習によるバランスの向上にはメカノレセプターの賦活が関係し、メカノレセプターは筋伸張と速度変化によって活動頻度が増加するといわれている。今回タオルギャザーにおいて、筋を伸張させかつ快適な速度で実施、さらに肢位を坐位と立位で行い、肢位の違いによる固有受容覚及びバランスへの影響を検討することを目的とした。【方法】対象は同意が得られた当院スタッフ健常者16名で平均は25.8±3.0歳。測定項目は固有受容性テストの変法(以下PPT)、functional reach(以下FR)、片脚立位の30秒間の総軌跡長と外周面積をAnima社製重心動揺計にて計測し、これらを介入前後に計測した。PPTは立位の施行内容を坐位の姿勢で変法として考案した。方法は閉眼坐位で左右どちらか一方の脚の股関節を最大屈曲し、最初の位置に戻す方法で実施した。逸脱した距離を2.5mm刻みで測定し、回数は14回で3回目以降の平均値を採択(ICC=0.851)した。介入はタオルギャザーを実施し、両足75回/分の速度で足趾の伸展を意識し20秒間実施、1分の休憩を挟んで3セット実施した。学習効果を配慮し、同一対象者で坐位と立位での介入・計測に2日以上の間を空けた。PPTの挙上した下肢と、介入肢位の順序は無作為に決定した。統計処理は対応ありのt検定を用い、有意水準は5%未満とした。【結果】PPTの逸脱した距離は介入肢位が坐位、立位ともに介入前に比べて介入後に有意に減少した。片脚立位での総軌跡長は、介入肢位が立位でのみ介入前に比べて介入後に有意に減少した。FRにおいては介入肢位に関わらず介入前後で有意な差は認められなかった。【考察・まとめ】タオルギャザー実施後に介入肢位が坐位と立位の両方でPPTの逸脱した距離の減少が有意に認められたことから、介入肢位には関係なく下肢全体のメカノレセプターの賦活の可能性が示唆された。また介入肢位が立位において片脚立位での動揺が制御され総軌跡長が減少したのは、立位が荷重肢位であり、足底圧増大や重心移動が加わることによる姿勢保持のための筋出力が増大したためと考える。このことからタオルギャザー介入肢位は坐位よりも立位の方が有用である可能性が示唆された。
著者
浪尾 美智子 守安 由香 小川 円 木村 英輝 金谷 親好 森近 貴幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0714, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】足底は手掌部よりも知覚神経分布が優勢で、姿勢制御に影響を及ぼすと言われている。今回、感覚障害を呈した脳卒中片麻痺患者の足底感覚に着目したアプローチを行った結果、坐位姿勢に変化がみられたので報告する。【対象】左右頭頂葉と左放線冠領域の脳梗塞両片麻痺患者の女性。触覚は右足底重度鈍麻、左足底中等度鈍麻で四肢重度鈍麻、運動覚は全て重度鈍麻であった。ラップボードを用いることで車椅子坐位を保持していた。また、端坐位保持は不可能で全介助であった。食事動作では坐位が安定しておらずリーチ動作が困難であった為、ほぼ全介助であった。【方法】端坐位の安定化を図るため机上に両前腕部を置き、足底は床面に接地させた。より多くの刺激を与える為に、感覚受容器が多数存在する母趾に様々な素材の板を接触させ刺激に変化を加えた。深部感覚受容器を刺激するには圧変化や関節運動が関与してくる為、足底で床面を押す寝返り動作を行った。また背臥位にて足底と壁の間に枕やボールを置き、壁に対して垂直方向に、足底で踏むことを繰り返し行った。【結果】触覚は右足底中等度鈍麻、左足底軽度鈍麻となり、運動覚は足、膝関節は中等度鈍麻となった。坐位姿勢は右足底全面接地が行えず、左下肢で床面を押すため骨盤は後傾し、右殿部後方に荷重していた。アプローチ後は右足底全面接地が可能となり、左下肢で床面を押さなくなった為、左殿部にも荷重が行えるようになった。また机上に両前腕部を置き坐位を保っていたが、アプローチ後は端坐位保持が1分程度可能となった。車椅子坐位は左下肢でフットプレートを押すため骨盤が右に後退し、殿部が前方に滑っていたが、アプローチ後はフットプレートを押す動作が見られなくなり、坐面上に殿部を保持することが可能となった。また坐位が安定してきたため、リーチ動作が行いやすくなり、食事動作は中等度介助になった。【考察】足底に様々な素材の板を接触させ刺激に変化を与えたことで、能動的感覚受容器が活性化され、足底感覚が改善し、右足底全面接地が可能となったと考えられる。寝返り動作や足底で枕やボールに圧をかけることで、足底の圧受容器が刺激され深部感覚が改善したと考えられる。足底からの感覚情報が増加し、自己のボディーイメージが確立され始めたことで、左下肢の過剰努力が軽減し、骨盤帯の後傾や後退も改善した。また体幹を支持基底面内で保持させることが可能となった為、坐位保持も可能となったと考える。【まとめ】足底感覚は脳卒中患者の姿勢制御に影響を与える感覚であることが示唆された。本症例では足底感覚へのアプローチにより坐位姿勢に変化が認められ、食事動作の改善にもつながった。
著者
永井 宏達 生友 尚志 大畑 光司 中川 法一 前田 香 綾田 裕子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0605, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】我々は第41回日本理学療法学術大会にて広背筋を5つの部位に分けて筋活動を調査し、運動学的に上部線維と下部線維に分けられることを報告した。さらに広背筋下部線維においては体幹側屈作用があることを示唆した。体幹側屈運動については、通常、腹斜筋、脊柱起立筋が主動作筋に挙げられるが、これらと広背筋下部線維との関係については明確ではない。本研究の目的は、さまざまな体幹側屈動作における腹斜筋、脊柱起立筋と広背筋下部線維の筋活動比を調べ、体幹側屈動作時における側屈筋群の動員の特徴を明らかにすることである。【対象と方法】対象は上肢、下肢及び体幹に整形外科的疾患のない健常成人男性10名(平均年齢25.9±4.0歳)とした。被験者には本研究の趣旨を説明し研究参加への同意を得た。筋電図の測定にはNORAXON社製MyoSystem 1400を使用し、表面電極による双極誘導を行った。測定筋は、右広背筋下部線維(以下LLD)、右外腹斜筋(以下EO)、および右腰部脊柱起立筋(以下LES)とした。LLDは第7頸椎棘突起と上前腸骨棘を結んだ線上で第12胸椎レベルの位置、EOは臍より右へ15cm外側、LESは第3腰椎棘突起の3cm外側に電極を貼付した。測定動作は各肢位における側屈運動(側臥位体幹右側屈、端座位体幹右側屈、仰臥位右骨盤引き上げ)、および体幹側屈モーメントを生じる上下肢の動作(側臥位同側股関節外転、端座位対側肩関節外転)の計5項目とした。測定は3秒間最大等尺性収縮した時の積分筋電図値(以下IEMG)を求め、各筋の徒手筋力検査の肢位での最大等尺性収縮時のIEMGを100%として、各筋ごとに%IEMGを求めた。その上でLLDとEO、LESの関係を明らかにするため、LLDの%IEMGをEO、LESそれぞれの%IEMGで除した値(LLD/EO、LLD/LES)を筋活動比として求めた。統計処理には、動作ごとの筋活動比を比較するためにFriedman検定を用いた。なお、有意水準は5%未満とした。【結果と考察】統計より、LLD/EO、LLD/LESのそれぞれにおいて、運動項目間で有意な差が見られた(p<0.01)。LLDとEOの筋活動比は、対側肩外転1.52±0.99、側臥位側屈1.33±0.48、座位側屈0.99±0.62、同側股関節外転0.50±0.29、骨盤引き上げ0.48±0.43であった。LLDとLESの筋活動比は、側臥位側屈1.48±0.54、対側肩外転1.16±0.42、座位側屈0.74±0.38、同側股関節外転0.40±0.21、骨盤引き上げ0.37±0.27となった。本研究では、側臥位側屈と端座位対側肩関節外転においてEO、LESに対してLLDの筋活動が他の動作よりも相対的に大きくなることが示唆された。一方、同側股関節外転や骨盤引き上げといった、骨盤の固定や動きが生じる動作ではLLDの関与が小さくなることが示唆された。
著者
成田 崇矢 釜谷 邦夫 長谷川 惇 小田 桂吾 野村 孝路
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0224, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】飛込競技は水面から高さ10mの固定された台や高さ3mに設置した弾力のある飛板を使用し高所より水面に飛び込む競技であり、特徴として技術獲得に多くの時間を要する採点競技であるため傷害発生の頻度は他の水泳競技と比べて極めて高いと報告されている。今回、より具体的な傷害予防策を講じる事を目的とし、3年間のナショナルジュニア合宿時における、ジュニア強化選手の外傷、障害の状況を調査したのでここに報告する。【対象】2003年から2005年の3年間に日本水泳連盟より選抜されナショナルジュニア合宿に参加した男性21名(平均年齢15.3±1.4歳、平均身長 164±8.2cm 平均体重 56.7±9.8kg 競技歴 5.9±1.7年)、 女性17名(平均年齢15.5±1.7歳 平均身長 153±5.3cm 平均体重 48.2±6.2kg 競技歴6.6±2.6年)計38名である。 【方法】合宿参加者個別に面談し、障害、外傷に対する治療・相談を行う中でアンケートを交え外傷・障害の調査を実施した。【結果】対象者38名中合宿中に痛みを有した者は33名(86.8%)であった。複数回答による疼痛部位の総数は56件で、腰背部が最も多く25件(44.6%)次いで膝関節7件(12.5%)母指6件(10.7%)肩関節5件(8.9%)手関節3件(5.6%)下腿部3件(5.6%)その他7件(12.5%)であった。特に多い腰背部に着目すると、腰背部筋に痛みを生じているものが16件。椎間関節周囲7件。その他2件。であった。慢性的に腰背部筋に痛みが生じている者は12名でそのうちの10名のアライメントは頭部前方位、胸椎後彎増強、腰椎前彎増強、骨盤前傾位を呈していた。また、椎間関節周囲に痛みが出ている者7名中6名が合宿中もしくは過去に入水を失敗し、腰椎の過伸展を経験後痛みが生じていた。【考察】飛込競技において正しいボディーアライメント(耳垂、肩峰、大転子、外果前方が一直線上)を体得することは非常に重要である。そしてアプローチやテイクオフ、入水時にその姿勢を保持することは高いパフォーマンスを得る事に不可欠な要素とされている。今回強化合宿時の調査により、腰背部筋痛を有している者は正しいボディーアライメントが取れなかったり、入水時の衝撃により椎間関節を痛めている者が多いことが分った。腰背部痛の改善、予防トレーニングとして最近、腹圧を高め、頚部、上肢、体幹、下肢の協調性を向上させるコアトレーニングが推奨されているが、正しいボディーアライメントをとることで腰背部筋群へのストレスを軽減すると予想される。腹圧の強さと外傷・障害の関連性は今後の調査が必要であるが、より効果的なトレーニング方法を作成し、良姿勢を獲得することが傷害予防においても重要であると考えられる。
著者
宮木 陽介 坂田 禮一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0168, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】頭部外傷は主に交通事故により発症し、身体・認知・行動に影響を及ぼす。今回、日々の活動性の向上が心身両面の改善に結びついた一症例を報告する。【症例紹介】10代女性。バイクで通学中に乗用車と正面衝突。急性硬膜下血腫と診断。障害として右片麻痺・右顔面神経麻痺・高次脳機能障害を呈した。昨年高校を卒業。来年には看護学校進学を希望。現在、受傷後1年半経過し自宅での受験勉強が中心の生活。今後のことを考え、足のふらつき防止やバランス改善を目的として当院にてリハビリを希望される。【PT評価】ADLや屋外歩行は自立。軽装具を着け自家用車を運転して通院。右片麻痺の影響から右足関節と足指の軽度感覚鈍麻と随意運動遅延、右大腿四頭筋や下腿三頭筋の筋力低下、歯磨きや書字などでは右肩の筋緊張が亢進しやすい。長時間歩行での右足指の痛みがあり、バランス障害により右支持片脚立位時間が開眼25秒、閉眼2秒で動揺が強く、閉眼足踏みでは麻痺側へ90度の回転が生じる。高次脳機能ではいくつか聞いたこと覚えておいてから後で書き写すことが苦手で記憶面に不安を残す。なお看護学校進学レベルの知能や教養は身につけているとのこと。現在、老人ホームにてタオルたたみなどのボランティアをしている。【PTプログラム】立位バランスでは上下肢に徒手的抵抗を加え反応を引き出すことや足底の感覚入力をしながら足部内荷重や重心移動を学習。筋力低下にはフィジオボールを使い、弱化筋と体幹筋を強化。歩行では片脚での支持性改善や重心移動を念頭に爪先立ち歩きや骨盤歩き、木を足底に入れて滑らす歩行を行なう。自宅練習では片脚立ちや腕立て伏せ、スクワットを指導。【本人の行動や言動】週1回のリハビリを始めて1ヶ月で右足内側への荷重感をつかみ、歩行時の右下肢分回しは減少。しだいに活動性が向上し陶芸やお花、エアロビクス、アルバイトを始める。これ以降、台所や家の中で履いている草履が以前は脱げてしまっていたものが足指で挟んで落ちないようにすることが感覚でつかめてくる。歯磨きでも以前は歯にあてた感じがなく、たださすっているものだったのが最近ではしっかり歯にあてて磨いている感じがする。右片脚立位時間が延長し手摺につかまらないでも階段で歩けるようになるなど機能的回復が見受けられた。中でも商品の品だしや重いものを運ぶ作業、走ること、話すことが多いなど本人は楽しいと話しているスーパーでのアルバイトが良い体験となったと思われる。【まとめ】意欲的にアルバイトやエアロビクスなど様々な体験をすること、勉強以外での楽しみや活動の場をみつけたことが心身への刺激となり体力の向上・機能的回復を手助けしたものと考えられる。今後、目標としている看護学校進学では精神的・肉体的に最大限の集中が求められてくる。理学療法士としてどのようなサポートをしていけるかよく考え行動していきたい。
著者
槌野 正裕 濱邊 玲子 山下 佳代 辻 順行 高野 正博
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0570, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】 近年,排泄障害に関する研究が進み,排泄障害における骨盤底機能障害の関与が示唆されている.また,臨床の現場では,排泄障害を有する患者において,脊椎の視診において,腰椎の生理的前彎の減少や骨盤の後傾など,姿勢制御機構の障害が示唆される症例を多く経験する.今回われわれは,排便障害を有する患者における骨盤底機能と姿勢に関して調査を行ったので報告する.【対象と方法】 2004年4月から2005年4月までの期間で,排便障害を主訴として当院を受診した70歳以下の42例(男性13例,女性29例,平均年齢54歳±16歳)を対象とした.方法は,まずDefecography(排便造影)検査を通して,骨盤底機能障害の指標となるPerineal Descent (以下PD)を,擬似便を直腸内に注入した後ポータブルトイレ上座位にて,安静時,肛門収縮時,怒責時の3動態における腰部骨盤帯部の単純X線側面像を撮影し,その画像上で恥骨下縁と尾骨下縁を結んだ線から肛門縁までの距離を測定した.更に肛門内圧を行い,左下側臥位にて,圧センサー(スターメディカル社製直腸肛門機能検査キットGMMS-200)を用いて,安静時の肛門内圧(以下静止圧)と外肛門括約筋随意収縮時の肛門内圧(以下随意圧)を測定した.姿勢に関しては,仰臥位にて安静時の腰部骨盤帯部MRIT1 saggital像を撮影し,その画像上で腰椎前彎角度と仙骨角度を計測した.診断には安静時におけるPDが50mm以上を骨盤底機能障害群(以下E群),PDが50mm未満の骨盤底機能正常群(以下C群)として統計学的に比較した.なお統計学的解析にはMann-Whitney’s U testを用い,P値<0.01は有意とした.【結果】 C群25例(男性11例、女性14例、平均年齢53±16歳),E群17例(男性2例、女性15例、平均年齢54±15歳)では,両群間で平均年齢と年齢分布に有意差はなかった.C群と比較してE群は女性に多かった.肛門内圧に関して,静止圧,随意圧は, C群では91.5±34.9,273.4±143.7,E群では62.1±33.7,140.8±108.1で,ともにC群に対してE群で有意に低下していた.姿勢に関しては,腰椎前彎角度,仙骨角度ともにC群が39.8±8.5,37.0±6.6,E群が31.4±8.5,30.9±6.3で,ともにC群に対してE群で有意に減少していた.【考察】 排便障害を有する患者のなかには骨盤底機能が障害されている症例が存在し,それらの症例において認められる肛門内圧の低下は排便障害の一因となっていることが示唆された.さらに,骨盤底機能障害を有する症例において認められる腰椎前彎角度および仙骨角度の減少は,姿勢と骨盤底機能との関連性を示唆するものであり,骨盤後傾位における骨盤底筋群への伸張負荷の増大など,姿勢制御機構の障害による骨盤底機能障害発生の可能性が考えられた.
著者
木口 大輔 坂根 照文 田内 秀樹 首藤 貴 吉野 一弘 片木 祐志 渡辺 好隆 門田 詩織
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1203, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】暗い色が明るい色に比べ重く感じるという重さ判断に及ぼす色の違いは様々な分野で述べられているが、報告されている先行研究は少ない。そこで、リハビリテーションで使用されている重錘バンドの色に着目し検討した。【方法】参加者:2006年9月から2006年10月の間に当院に入院し、リハビリテーションを受けた患者22名とした。男性9名、女性13名、平均年齢63.8±16.0歳であった。手続き:OG技研社製1kgの重錘バンドで通常販売品のGF-115黄色と、同社製で特別注文品である濃紺色で1kgの重錘バンドを使用した。重錘バンドは長さ435mm×幅120mmであった。当院で行なわれている通常のリハビリテーションの一環として下記の実験を行なった。実験は午前10時頃から開始された。まず、参加者に現在の下肢の疲労感を尋ねた。疲労感は、「非常に疲れている」、「かなり疲れている」、「やや疲れている」、「あまり疲れていない」、「全然疲れていない」の内から1つ選択させた。次に参加者を端座位にさせ、両側下腿遠位部に重錘バンドを巻き、膝関節完全伸展位を左右の足で交互に5秒間ずつ保持させた。これを10分間行なわせた。このリハビリテーション終了直後に、下肢の疲労感をリハビリテーション開始前に行なわせたのと同じ評定用紙に回答させた。続いて、リハビリテーションで使用した重錘バンドの重さの印象を「かなり重い」、「やや重い」、「どちらともいえない」、「やや軽い」、「かなり軽い」の内から1つ選択させた。このリハビリテーションを4日間行なった。黄色と濃紺色の2種類の重錘バンドを、交互に使用した。参加者の半数については黄色の重錘バンドでリハビリテーションを始め、次の日には濃紺色の重錘バンドでリハビリテーションを行なった。残り半数の参加者は濃紺色の重錘バンドでリハビリテーションを始め、次の日には黄色の重錘バンドでリハビリテーションを行なった。【結果】下肢の疲労感は、「かなり疲れている」から「全然疲れていない」の5段階尺度を、それぞれ5点から1点と得点化し、リハビリテーション開始前と終了直後の差を求め、Wilcoxonの符号付順位検定を行った。その結果、重錘バンドの色の違いの効果はp>.05で、有意ではなかった。リハビリテーション後での疲労感に色の違いは影響しなかった。重錘バンドの重さ判断は、「かなり重い」から「かなり軽い」の5段階尺度を、それぞれ5点から1点と得点化し、Wilcoxonの符号付順位検定を行った。その結果、重錘バンドの色の違いの効果はp<.05で有意であった。暗い色がより重く感じられた。【考察】リハビリテーションにおける重錘バンドを利用した筋力トレーニング場面において、重錘バンドの色の違いは、下肢の疲労感には影響がないが、重さの印象に影響があった。一般的に重錘バンドは、重量別に色分けされ販売されていることが多いが、明度の高い色の使用が望ましいことが示唆された。
著者
原田 和宏 齋藤 圭介 津田 陽一郎 井上 優 佐藤 ゆかり 香川 幸次郎
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0742, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】中枢神経疾患に伴う易疲労(rapid fatigability)は臨床的に重要な症候であり、客観的評価と併せて主観的疲労の程度と質についても検討がなされている。脳血管障害(以下、脳卒中)既往者も疲労に悩まされることは理解されており、国外のレビューでは疲労の有訴率が発症1年前後から3~4割になり、機能的な予後に悪影響を及ぼすと指摘されている。有訴率の算出はうつ気分の者を除外した対象を用いて行われ、脳卒中既往者は対照群の2倍以上の有訴率となることが報告されている。脳卒中後の中枢性疲労や末梢性疲労に関する研究の中で、本邦では主観的疲労の実態資料が依然少ない。本研究は、脳卒中既往者における主観的疲労の実態を把握するために、地域高齢者の調査結果を基に疲労の有訴率について検討することを目的とした。【方法】調査対象は中国地方にある1町の住民で入院・入所中を除く65歳以上の在宅高齢者全員2,212名であった。調査は心身機能や活動状況を内容とし、2005年12月に留置方式で行った。当該調査は岡山県立大学倫理委員会にて了承され、対象には同意を得た。回収された1,864票から基本属性、ADL状況、関連質問の有効回答が確認できた者のうち、いつもうつ気分であるとした者を除外した1,229名を集計対象とした。主観的疲労はスエーデン脳卒中登録Risk-Strokeに従い、「日頃、しんどいと感じますか(4件法)」等で評価した。脳卒中既往者は「脳卒中既往の有無」と「加療中の病気」の質問から選定した。有訴率はクロス集計一元表にて求め、統計処理は多項確率の同時信頼区間に従い95%信頼区間(以下、95%CI)を推定後、脳卒中既往者以外の者と比較した。また脳卒中既往者において主観的疲労との関連変数を検討した。【結果】脳卒中既往者として選定できた者は51名(男性78.4%)で平均76.5歳、対照群と仮定したそれ以外の者は1,178名(同40.6%)で平均74.9歳であった。ADL状況では要介助者は脳卒中既往者の35.2%、対照群の11.8%であった。疲労の有訴率は脳卒中既往者が37.3%(95%CI: 22.0-53.4)で、対照群の16.0%(同: 13.6-18.5)と比し2.3倍高く、統計的に割合の差が認められた。脳卒中後にそれまでよりも早く疲れを感じるようになったとする回答者は67.4%(同: 48.4-81.9)であった。脳卒中既往者の主観的疲労と属性・ADLとの関連は認めなかった。【考察】今回は高齢者に限定された資料であったが、脳卒中既往者の疲労の特徴は有訴率において北欧での地域ベースの調査結果と類似し、対照群の2倍以上で、その程度は属性等との関連が少ないという知見に整合した。この結果から脳卒中後の易疲労は看過できないことが再認識され、障害の評価として重要でないかと考えられた。
著者
真鍋 由美子 石崎 祐子 高木 菜波 窪田 幸生 竹井 仁
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0624, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】臨床では、大殿筋の簡便な強化方法として、ブリッジ動作が用いられる。しかし、ブリッジ活動では、大殿筋だけでなく脊柱起立筋やハムストリングスなどの体幹背面の筋も活動する。実際にブリッジ動作を行うと、大殿筋と比較してハムストリングスが優位に活動していると感じることがある。本研究では、足関節の肢位を変化させることで、ブリッジ活動におけるハムストリングスの活動に変化が見られるか検討したので報告する。【方法】対象は、実験の趣旨を説明し、同意を得た健常者17名(男性9名・女性8名、平均年齢27.8歳、平均身長165.8cm、平均体重58.0kg)とした。運動課題は、3条件(1.足関節中間位による足底接地、2.足関節背屈位による踵接地、3.足関節底屈位による足先接地)によるブリッジ動作とした。3条件とも、背臥位にて上肢を体幹前面で組み、股関節を50度とした膝立て位を開始肢位とした。ブリッジ動作は、肩甲骨を床に接地した状態にて肢位の安定が得られてから5秒間保持し、10秒の休憩を挟んで5回反復した。3条件の順番は無作為とした。ブリッジ動作中に、バイオモニターME6000(日本メディックス)を使用し、表面筋電図を記録した。被験筋は、蹴り足側の外腹斜筋・腹直筋・大腿直筋・前脛骨筋・腰腸肋筋・大殿筋・大腿二頭筋長頭・腓腹筋外側頭とした。表面筋電から全波整流平滑化筋電図を求め、後に2~4回目のブリッジ動作中の1秒間の積分筋電値を算出し、3回の平均値を解析に用いた。解析にはSPSS(ver.14)を用い、条件1の積分値に対する条件2と3それぞれの積分値の割合を算出し、分散分析と多重比較検定を実施した。有意水準は5%未満とした。【結果】条件1と比較して条件2の背屈位では、前脛骨筋(平均7.35)が有意に増加し、大腿二頭筋長頭(0.65)が有意に低下した。条件1と比較して条件3の底屈位では、外腹斜筋(平均1.28)・腹直筋(1.22)・大腿直筋(1.44)・前脛骨筋(3.59)・腰腸肋筋(1.29)・大殿筋(1.5)・大腿二頭筋長頭(1.98)・腓腹筋外側頭(5.33)の全筋で有意に活動が増加した。【考察】ブリッジ活動には、殿部を持ち上げるために膝関節と股関節の伸展が必要である。しかし、条件2では、前脛骨筋の筋収縮によって脛骨が前方に引き出されて大腿骨は尾側に引かれ、さらに、腓腹筋が伸張されることで膝関節に屈曲の力が加わる。このことで、ブリッジ活動による膝伸展に伴う股関節伸展が制御され、股関節伸展作用を持つハムストリングスの活動が低下したと考える。一方、底屈位では、肩甲骨と足部がなす支持点の距離が中間位に比べて長くなり、かつ殿部を挙上する高さが中間位に比べて高くなるため、位置エネルギーも増加する。また、中間位に対して足関節の安定性を増やす必要も増え、全ての筋活動が大きくなったと考える。よって、ハムストリングスの活動を抑制するためには、足関節背屈位でのブリッジ動作が有効であることが示唆された。
著者
石田 恵子 天野 徹哉 阿部野 悦子 中嶋 正明
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F1016, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】 我々は,これまで末梢循環障害,褥瘡などの症例に人工炭酸泉浴を適応し,高い効果を確認してきた。人工炭酸泉浴を負荷すると一時的に皮膚血管拡張作用が得られ,皮膚血流が促進することがわかっている。しかし,人工炭酸泉浴負荷によるこのような末梢循環障害,褥瘡改善効果が一時的な血管拡張作用によるとは考えられない。これには,他の持続する作用が関与していると考えられる。今回,我々は人工炭酸泉浴負荷後の深部組織酸素飽和度(StO2)を経時的に評価した。【方法】 対象は健常成人3名(平均年齢28.3±1.3)とした。被験者は半仰臥位のリラックスした肢位をとり,不感温度34°Cのさら湯浴と同温度の人工炭酸泉浴に両下腿(腓骨頭まで)を浸水した。測定プローブは非浸水部の左前腕内側と浸水部の左下腿後面部に添付した。浸水前の安静時10分間,浸水時20分間,浸水後2時間の皮膚血流,深部組織血液動態(oxy-Hb,doxy-Hb)を測定した。室温は24±1°Cに調整した。人工炭酸泉は高濃度人工炭酸泉製造装置(MITSUBISHI RAYON ENGINEERING CO.,LTD)を用いて作製し,その濃度は1000ppmとした。皮膚血流および深部血流,StO2(Oxy-Hb,doxy-Hb)の測定には,それぞれレーザードップラー血流計(ADVANCE RASER FLOWMETER),近赤外線分光器(OMEGA MONITOR BOM-L1TR)を用いた。【結果】‹皮膚血流›浸水部;さら湯浴においては経時的変化はみられなかったが,人工炭酸泉浴では入浴負荷時にのみ上昇が認められた。非浸水部;さら湯浴,人工炭酸泉浴ともに経時的変化はみられなかった。StO2浸水部;さら湯浴においては経時的変化はみられなかったが,人工炭酸泉浴では入浴負荷時に上昇を認め,出浴後もほぼ同値を2時間継続して示した。非浸水部;人工炭酸泉浴では浸水部と同様に入浴負荷時から出浴2時間後まで高値を示した。【考察】 人工炭酸泉浴の入浴負荷により皮膚血流は増加したが持続性は認められなかった。それに対し,StO2は2時間後も高値を維持した。人工炭酸泉浴では,炭酸ガスの経皮進入によりpHが酸性に傾きBohr効果による酸素供給促進作用が得られる。この効果により組織中に通常の状態に比べて深部組織のStO2が上昇する。今回の実験からこの効果が持続することが明らかとなった。閉塞性動脈硬化症や褥瘡などの循環障害に対する人工炭酸泉浴による改善効果においては,持続するStO2上昇作用がその一役を担っているのではないかと考えられる。また,非浸水部においても同様にStO2の上昇が起こったことから患部を直接,入浴負荷しなくても改善効果を得られると予想される。
著者
橋田 剛一 井上 悟 阿部 和夫
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0151, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】感染後横断性脊髄炎では感染後に脊髄が横断性に障害され、運動麻痺・感覚障害及び膀胱直腸障害などが生じ、後遺症が問題となる。今回、対麻痺症状を呈した2例を経験したので報告する。【症例1】36歳、女性。感冒症状発現の10日後頃より排尿障害、対麻痺が出現し、近医から当院に転院し、急性横断性脊髄炎と診断され、入院後12日より、往診で理学療法(PT)開始。筋力は下肢近位部1~1+、遠位部2-~2、上肢は4であり、弛緩性対麻痺とTh7以下での表在感覚中等度鈍麻、深部感覚は軽度鈍麻を認めた。坐位・起居動作は介助が必要であり、ADLでは食事動作以外で介助が必要であった。尿意はなくバルーン留置状態であった。開始時ASIA(motor)は52点、FIM は62点であった。車椅子移乗動作、坐位、起居動作練習からPTを開始した。開始後15日頃より下肢の痙性が出現したため立位練習を展開し、開始後22日より、ロフストランド杖等を用いて歩行練習も行った。開始後37日のリハビリ転院時には筋力は上肢5、下肢は近位部3+~4-、遠位部4-~4、表在・深部感覚は軽度鈍麻に改善した。起居動作全般は自立し、立位保持は軽度wide baseで可能となった。歩行は両ロフストランド杖レベルとなった。ADLは最少介助レベルで可能、自己導尿管理が自立した。終了時ASIAは84点、FIMは 94点であった。【症例2】43歳、女性。頭痛、下肢のしびれ感出現、近医に入院。その後対麻痺が出現、徐々に臥床状態になった。発症後2ヶ月で当院に転院し、横断性脊髄炎と診断され、入院後16日より、往診でPT開始。筋力は下肢近位部で右1、左1+、遠位部で右0~1、左1~2であった。上肢は4-~4であった。Th7以下での表在及び深部感覚の重度鈍麻を認めた。ADLはほぼ全介助で、尿意はなくバルーン留置状態であった。開始時ASIA(motor)は 51点、FIM は60点であった。PTでは、早期離床目的でベッド上動作、坐位練習から開始、開始後10日には、車椅子移乗まで進めた。開始後37日より車椅子出診を開始し、下肢痙性の出現に応じ立位練習も進めた。開始後55日のリハビリ転院時には、筋力は上肢5、下肢近位部で右2~3+、左2+~4-、遠位部で右0~2-、左2+~3+となった。移乗動作は修正自立、床上動作は監視下で自立し、立位練習レベルまで至った。ADL全般は介助レベル、排尿はバルーン留置のままであった。終了時ASIAは69点、FIMは 72点であった。【まとめ】やや異なった経過を辿った2症例を比較することで、早期からPT介入する必要性と痙性の出現、機能回復に応じて立位・歩行へのアプローチにつなげていく重要性を認識した。また、脊髄炎後遺症の長期的な回復を見越したPT介入も求められることが示唆された。