著者
中川 壽之
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.9・10, pp.349-380, 2015-03-10

本稿は、日本近代法制史上の重要な論点の一つである明治二〇年代前半に起こった法典論争を考察の対象とし、民法・商法の施行をめぐるこの論争における延期派対断行派の構図のうちから特に延期派に視点をあて、その軌跡をたどる中で、(一)延期派が誰を対象として活動を展開していたか、(二)延期派の意見書が論争の過程でどのような意味合いを持つものであったか、断行派のそれとの比較から検討し、(三)延期派が具体的にめざしていたものが何であったか、この三つの課題の解明を試みたものである。 (一)については延期派の活動は世論ではなく政府の諸大臣をはじめ「朝野ノ名士」を対象として専ら展開していたこと、(二)に関しては、それゆえ延期派の意見書は政府や有力者への手段として戦略的に用いられ、断行派が各種の機関誌を通じて世論に訴えかけた戦術とは明確な違いがあったこと、そして(三)では政府による法典調査会の設置以前、すなわち第三回帝国議会の段階で延期派が「臨時法典修正局」の設置を建議し、その実現に向けて官制草案の作成に着手していたことを明らかにした。