著者
中川 貴皓
出版者
奈良大学史学会
雑誌
奈良史学 (ISSN:02894874)
巻号頁・発行日
no.30, pp.58-83, 2012

一般的に松永久秀と言えば、下剋上の申し子であり、戦国時代を象徴するようなイメージでよく語られる。しかし、そのもとになった逸話は、江戸時代に形成されたものであり、久秀の実態とは、かなりかけ離れている。ただ留意したいのは、久秀が当時の武士のあり方とは異なる経歴を持つということだ。彼は先祖伝来の所領・経済的基盤・人的関係を持たず、己の才覚で「大名」にまで登りつめた人物なのである。そのため、出自はわからず、まさしく戦国の世を体現したかのような実力者という従来の評価の一部分は、あながち間違っているとは言えない。