著者
中本 新一
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.171-181, 2007-07

わが国における15歳以上の国民1人当たりの酒類消費量は、7.38ℓ(純アルコール換算値)近辺であり、世界では国別順位は20位台後半である。日本人には酒に弱い者が多いが、しかし、過飲者が約3,400万、多量飲酒者が約860万であるといわれている。また、アルコール関連問題による国家的損失が、単年度で6兆6千億円だとする研究もあった。さて、日本では個人の責任で上手に飲む「適正飲酒」政策がとられてきたが、そのことは厚生労働省の政策意図が反映されている『健康日本21推進のためのアルコール保健指導マニュアル』で明らかである。わが国のアルコール政策の難点は、個人に問題を投げ返し、酒類販売・広告などの国家的規制が非常に不足していることにある。自販機の存在や飲む場面を放映するテレビCMから、そのことは了解できるだろう。筆者は、わが国のアルコール政策は転換されなければならないと考えている。この視点を深めるためにスウェーデンとアメリカのアルコール政策を研究していく。前者は世界でもっとも酒害の小さい国であり、後者は多彩な政策に力を投入している。まず、アメリカ。禁酒法(1920-1933)の廃止後、AAとアルコール医療が誕生した。1970年にはヒューズ法が制定され、アルコール依存症への対策が総合的に追求された。そして、法定飲酒可能年齢21歳、「国立アルコール乱用・依存症研究所」、血中アルコール濃度0.8パーミル、警告ラベルなどが生みだされた。スウェーデンでもかつては酒害が深刻であった。そこで、1920年から割当て配給制が施行され、1956年以降、酒類の製造、販売に専売制が導入された。2つの外国を比較すると、アメリカは営業の自由ならびに飲酒と自己決定の自由に大きな価値を置いている。スウェーデンでは酒害を小さくすることを目的にして、入手規制、接近規制、購買欲求抑制という3領域で総量抑止が図られている。