著者
中村 和恵
出版者
明治大学大学院教養デザイン研究科
雑誌
いすみあ
巻号頁・発行日
vol.1, pp.83-87, 2009-03

ゾンカ(Dzongkha)という耳慣れない単語がブータソの国語を指すことばであると知ったのは、ある匂いがきっかけだった。最初に気づくお香のような、やや湿り気と苦味のあるたたずまいはたしかに東洋風だが、ふと横を向くと甘い花の蜜のようなこじんまりした植物の空間がひろがり、記憶をたどると香菜(コリアンダー)にいきあたる、そんな癖のある匂い。匂いというものは不思議で、連想されるのは草花や果物、スパイス、動物、樹木や土といった具体的なものだけではない、空間の広さ、親密さ、風と雨の気配、見たことのない国の印象、時間や速度や精神状態といった抽象的な概念まで、空気中の微量な物質が一瞬にしてこれだけの感覚につながっていく。
著者
中村 和恵
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

先住民族とは誰かと問うことは、文明、民族、進化といった概念、さらに欧米中心主義と近代日本人の民族観の複雑な関係の再検討でもあった。方法としては現地調査と文学テキスト分析の両方を用いて具体的な個人の声を重視し、カリブ居留地とジーン・リースのカリブおよび日本人描写、オーストラリア先住民の「秘密の聖物」出版・展示に関する論争、アイヌ文化の現在ほか、インド、タヒチ、マルティニーク、エストニア等でも調査研究を行った。