著者
中村 和恵
出版者
明治大学大学院教養デザイン研究科
雑誌
いすみあ
巻号頁・発行日
vol.1, pp.83-87, 2009-03

ゾンカ(Dzongkha)という耳慣れない単語がブータソの国語を指すことばであると知ったのは、ある匂いがきっかけだった。最初に気づくお香のような、やや湿り気と苦味のあるたたずまいはたしかに東洋風だが、ふと横を向くと甘い花の蜜のようなこじんまりした植物の空間がひろがり、記憶をたどると香菜(コリアンダー)にいきあたる、そんな癖のある匂い。匂いというものは不思議で、連想されるのは草花や果物、スパイス、動物、樹木や土といった具体的なものだけではない、空間の広さ、親密さ、風と雨の気配、見たことのない国の印象、時間や速度や精神状態といった抽象的な概念まで、空気中の微量な物質が一瞬にしてこれだけの感覚につながっていく。
著者
早川 与志子
出版者
明治大学大学院教養デザイン研究科
雑誌
いすみあ
巻号頁・発行日
vol.2, pp.60-64, 2010-03

古希を過ぎてなお、テレビの第一線で、しかも第一級の番組を作り続けているディレクターはそうはいない。石橋冠さんは、テレビが新しい娯楽として定着した六〇年代後半に民放のテレビ局に入社し、半世紀以上制作現場に関わってきた。テレビの最盛期を体験し、現在も現役で活躍するドラマの演出家は、彼が最後ではないかとも言われている。 作品を見ながら、テレビの変遷と時代について語っていただいた。僕の敬愛しているビートたけしさんが明治大学出身なので、今日はちょっとドキドキしてやってきました。僕らの学生時代とはうって変わって、設備の良い、整った校舎なので、眼を丸くした次第です。「振り向くな、振り向くな、後ろには夢がない」と寺山修司が言っていますけど、今日は学生時代のことをふんだんに思い出しています。
著者
鳥居 高
出版者
明治大学大学院教養デザイン研究科
雑誌
いすみあ : 明治大学大学院教養デザイン研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.9, pp.35-38, 2017-03

本作品は、一九四五年二月にフィリピンのマニラを戦場とし、日米両軍間で展開されたマニラ市街戦の「その後」をテーマにしたドキュメンタリー作品である。講演者の金本麻理子氏は、本作品の前にその正編とも言うべき『マニラ市街戦』という長編のドキュメンタリー作品をディレクターとして、制作にも携わった。この作品はそれを踏まえた、続編と言う位置づけになっている。本来であれば、正編にあたる『マニラ市街戦』を踏まえての視聴が好ましいのだが、時間の制約上、今回は続編にあたる本作品のみを上映した。そこで、作品の前提となる「マニラ市街戦」について、まず簡単に触れておこう。マニラ市街戦とは、アジア・太平洋戦争の終盤にあたる一九四五年二月、日本の軍政下にあったフィリピンを奪還するために上陸したアメリカ軍と日本軍の間で行われた市街戦である。
著者
浅賀 宏昭
出版者
明治大学大学院教養デザイン研究科
雑誌
いすみあ
巻号頁・発行日
vol.1, pp.110-116, 2009-03

いわゆる健康食品に「~に効く」と表示して販売して捕まったという記事が年に何回か出る。薬事法違反である。日本では、食べたり飲んだりするもののうち、医薬品・医薬部外品以外のものは全て食品扱いである。食品だからその効用を謳って販売してはならないということだ。しかし、食品が何らかの効果・効能を全く持たないかというと、そうではない。例えば、現在は栄養素とされているビタミンB1は、今から約百年前の一九一〇年に鈴木梅太郎が米ぬかから抽出して命名したオリザニソのことだが、これは後に脚気の治療薬として使われた。もちろんこれは脚気が、ビタミンB1の欠乏による病気だからであるが、代わりに米ぬかや玄米を食べても効くはずである。