著者
中村 志津香 大塚 泰正
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.77-84, 2014 (Released:2014-11-20)
参考文献数
19
被引用文献数
1

ストレスフルな状況において、数あるコーピングの中のどのコーピングが有効であるのかは状況に依存する。そのため、状況に応じてコーピングを柔軟に使い分ける能力であるコーピングの柔軟性の重要性が指摘され、研究が進められてきている。これまでの研究では、コーピングの柔軟性における認知機能の役割を理解することが重要であるといわれ、認知機能の中でも1つの認知活動に固執することを避けたり、認知活動を柔軟に切り替えたりする能力が重要であると指摘されている。さらに、個人が実行することのできるコーピング方略が多様であることだけでは不十分であり、ストレッサーの変化に応じてコーピング方略の有効性をモニタリングする能力としてのメタ認知能力が必要であることが指摘されている。また、コーピングの柔軟性を規定するもう一つの要因として自己注目が挙げられ、自己注目の高い人はストレスフルな状況におかれた場合でも、自己へ注意が向かいやすく、柔軟なコーピングを行うことができない可能性が考えられる。こうした先行研究を踏まえ、本研究では、5つのメタ認知(認知能力への自信のなさ、心配に対するポジティブな信念、認知的自己意識、思考統制の必要性に関する信念、思考の統制不能と危機に関するネガティブな信念)と自己注目が抑うつに与える影響について、大学生396名(男性230名、女性166名)を対象に調査を行った。メタ認知と自己注目がコーピングの柔軟性と抑うつに影響を与えるモデルを作成した。共分散構造分析の結果、思考統制の必要性に関する信念からコーピングの柔軟性に正の関連が認められ、思考の統制不能と危機に関するネガティブな信念からコーピングの柔軟性に負の関連が認められた。さらに、コーピングの柔軟性は抑うつと負の関連があること、認知能力の自信のなさ、思考の統制不能と危機に関するネガティブな信念、自己注目は抑うつと正の関連があることが認められた。これらの結果から、非適応的な思考やコーピングを止める必要があると考えることができる人は、コーピングの柔軟性が高いことが明らかになった。一方、非適応的な思考やコーピングを止めることができないと考える人は、それを適応的な思考やコーピングに切り替えることができないことも明らかになった。また、自己注目とコーピングの柔軟性には関連が認められなかった。さらに、コーピングの柔軟性に富む人は抑うつが低いことが明らかになった。