著者
小林 由佳 井上 彰臣 津野 香奈美 櫻谷 あすか 大塚 泰正 江口 尚 渡辺 和広
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.225-250, 2021 (Released:2021-01-01)
被引用文献数
1

多様化する産業保健上のニーズに応える能力として、産業保健専門職のリーダーシップが注目されている。本稿では産業保健専門職がリーダーシップをさらに向上させ、活動を展開していくための指針となる考え方を提案することを目的とし、リーダーシップ研究の文献レビューから産業保健専門職のリーダーシップにふさわしい概念を検討し、活動事例による例示を行なった。文献レビューでは、これまでの変遷から、近年提唱された「権限によらないリーダーシップ」に着目し、適応型および共有型リーダーシップの産業保健専門職への適用の有用性を掘り下げた。さらに事例検討から、両リーダーシップは産業保健専門職が日常的に発揮できるものであり、課題解決に有効となり得ることが示された。
著者
桃谷 裕子 大塚 泰正
出版者
一般社団法人 日本キャリア・カウンセリング学会
雑誌
キャリア・カウンセリング研究 (ISSN:24364088)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.91-99, 2022-03-31 (Released:2022-08-19)
参考文献数
30

本研究は,McAllisterによる情緒的・認知的信頼尺度(affect- and cognition-based trust measure:ACTM)の日本語版を作成し,日本の労働者を対象にその信頼性と妥当性を検証することを目的とした。情緒的・認知的信頼尺度日本語版(ACTM-J)は,原版を日本語に翻訳し,原版著者によるその逆翻訳のレビューを経て作成した。インターネット調査で得られた日本人労働者291名のデータを用いて,ACTM-Jの信頼性(内的整合性)と構成概念妥当性(因子分析と相関分析)を検証した。確認的因子分析の結果,ACTM-Jは原版と同様の2因子モデルがデータによく適合していた。Cronbachのα係数は情緒的信頼が.94,認知的信頼が.89であり,いずれも内的整合性が高かった。相関分析の結果,この2つのタイプの信頼は,リーダー・メンバー交換関係,職務満足感,組織コミットメント,組織市民行動と正の関連を示し,離職意図と負の関連を示した。これらの結果から,ACTM-Jは一定の信頼性と妥当性を有しており,日本の職場における上司に対する部下の情緒的信頼と認知的信頼を適切に評価できる尺度であることが示された。
著者
島津 明人 川上 憲人 宮本 有紀 大塚 泰正 種市 康太郎 西 大輔 津野 香奈美
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では,米国およびカナダで開発されたCREW(Civility, Respect & Engagement with Work)プログラムに関して,(1)日本版CREWプログラムの開発,(2)日本の職場での適用可能性の検討,(3)実施効果の検討,の3点を目的とした。某大学病院の2つの病棟を対象にプログラムを実施し(2014年9月~2015年2月の6か月間)中間解析を行った結果,参加者の大部分を占める看護職において,ワーク・エンゲイジメントの得点が上昇する傾向が認められた。
著者
櫻谷 あすか 津野 香奈美 井上 彰臣 大塚 泰正 江口 尚 渡辺 和広 荒川 裕貴 川上 憲人 小林 由佳
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2022-015-E, (Released:2023-07-15)

目的:近年,質の高い産業保健活動を展開するために,産業保健専門職がリーダーシップを発揮することが求められている.本研究では,産業保健専門職が権限によらないリーダーシップを発揮するために必要な準備状態を測定するチェックリスト(The University of Tokyo Occupational Mental Health [TOMH] Leadership Checklist: TLC)を開発し,TLCの信頼性・妥当性を統計的に検証することを目的とした.対象と方法:文献レビューおよび産業保健専門職を対象としたインタビューに基づき,6因子54項目(自己理解10項目,状況把握10項目,ビジョン9項目,心構え12項目,業務遂行3項目,人間関係構築10項目)から構成される尺度のドラフト版を作成した.次に,産業保健専門職(人事労務,安全衛生,健康管理のいずれかの部門に所属する者)300名を対象に,webによる横断調査を実施し,信頼性・妥当性を検証した.結果:主因子法・プロマックス回転を用いた探索的因子分析を実施した結果,5因子51項目が得られた(自己理解8項目,状況把握10項目,ビジョン9項目,心構え12項目,業務遂行12項目).次に,確認的因子分析を行った結果,適合度指標はCFI = 0.877,SRMR = 0.050,およびRMSEA = 0.072となった.また,TLCの5つの下位尺度のCronbach’α 係数は,0.93~0.96となった.TLCの合計および下位尺度はいずれも,ワーク・エンゲイジメント,職務満足度,および自己効力感との間に有意な正の相関が認められた(p < .05).一方,心理的ストレス反応との間に有意な負の相関が認められた(p < .05).加えて,「権限によらないリーダーシップを発揮したことはあるか」という質問に対して「はい」と回答した群は,「いいえ」と回答した群に比べて,TLCの合計得点および下位尺度得点が有意に高かった(p < .001).考察と結論:本研究で産業保健専門職向けに新たに開発したTLCは一定の内的一貫性,構造的妥当性,構成概念妥当性(収束的妥当性および既知集団妥当性)を有することが示唆された.
著者
安部 主晃 川人 潤子 大塚 泰正
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.29-37, 2014-07-30 (Released:2014-08-26)
参考文献数
30
被引用文献数
2

従来の研究では,再確認傾向の高い者が対人ストレスイベントを経験しやすく,さらに抑うつを悪化させやすいことが報告されている。しかし,再確認傾向と対人ストレスイベントとの関連を詳細に検討した研究はほとんど認められない。本研究では,対人葛藤,対人劣等,対人摩耗という対人ストレスイベントの三つの側面に対する再確認傾向の影響を検討した。そして,対人ストレスイベントが,再確認傾向から抑うつに対する影響を媒介するかについても検討した。102名の大学生が第1回調査(Time 1)と3週間後の第2回調査(Time 2)において質問紙に回答した。その結果,対人劣等が,再確認行動から抑うつに対する影響を媒介した。大学生の抑うつを予防するために,再確認傾向やそれに伴い発生する対人劣等を改善することが重要である可能性がある。
著者
中村 志津香 大塚 泰正
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.77-84, 2014 (Released:2014-11-20)
参考文献数
19
被引用文献数
1

ストレスフルな状況において、数あるコーピングの中のどのコーピングが有効であるのかは状況に依存する。そのため、状況に応じてコーピングを柔軟に使い分ける能力であるコーピングの柔軟性の重要性が指摘され、研究が進められてきている。これまでの研究では、コーピングの柔軟性における認知機能の役割を理解することが重要であるといわれ、認知機能の中でも1つの認知活動に固執することを避けたり、認知活動を柔軟に切り替えたりする能力が重要であると指摘されている。さらに、個人が実行することのできるコーピング方略が多様であることだけでは不十分であり、ストレッサーの変化に応じてコーピング方略の有効性をモニタリングする能力としてのメタ認知能力が必要であることが指摘されている。また、コーピングの柔軟性を規定するもう一つの要因として自己注目が挙げられ、自己注目の高い人はストレスフルな状況におかれた場合でも、自己へ注意が向かいやすく、柔軟なコーピングを行うことができない可能性が考えられる。こうした先行研究を踏まえ、本研究では、5つのメタ認知(認知能力への自信のなさ、心配に対するポジティブな信念、認知的自己意識、思考統制の必要性に関する信念、思考の統制不能と危機に関するネガティブな信念)と自己注目が抑うつに与える影響について、大学生396名(男性230名、女性166名)を対象に調査を行った。メタ認知と自己注目がコーピングの柔軟性と抑うつに影響を与えるモデルを作成した。共分散構造分析の結果、思考統制の必要性に関する信念からコーピングの柔軟性に正の関連が認められ、思考の統制不能と危機に関するネガティブな信念からコーピングの柔軟性に負の関連が認められた。さらに、コーピングの柔軟性は抑うつと負の関連があること、認知能力の自信のなさ、思考の統制不能と危機に関するネガティブな信念、自己注目は抑うつと正の関連があることが認められた。これらの結果から、非適応的な思考やコーピングを止める必要があると考えることができる人は、コーピングの柔軟性が高いことが明らかになった。一方、非適応的な思考やコーピングを止めることができないと考える人は、それを適応的な思考やコーピングに切り替えることができないことも明らかになった。また、自己注目とコーピングの柔軟性には関連が認められなかった。さらに、コーピングの柔軟性に富む人は抑うつが低いことが明らかになった。
著者
大塚 泰正
出版者
広島大学大学院教育学研究科心理学講座
雑誌
広島大学心理学研究 = Hiroshima psychological research (ISSN:13471619)
巻号頁・発行日
no.13, pp.243-249, 2013

本研究は,公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が指定する臨床心理士養成大学院に対してアンケート調査を行い,産業領域に関する臨床心理士養成の現状を明らかにすることを目的とした。48校から得られた回答をもとに分析を行った結果,産業臨床を専門とする専任教員は27.1%の大学院に配属されていることが明らかになった。産業臨床に関する講義科目は25.0%,実習科目は4.2%,課外実習は10.4%,セミナ一等の開催は8.3%,研究所・研究会などの設置は4.2%の大学院に認められた。一方,大学院生については,22.9%の大学院に産業臨床に関する研究テーマを持つ大学院生が存在し,8.3%の大学院に調査時点において何らかの産業臨床に関する活動を行っている大学院生が存在した。また,過去5年間のうちに産業領域に就職した大学院生は38名存在したが,その多くは大学院生時代に産業臨床に関する講義や実習などを受講することなく,現場に配属されている可能性が示唆された。産業臨床に関する専門家を養成するには,今後さらに大学院における教育プログラムを充実させる必要があるといえる。
著者
小森 國寿 大塚 泰正
出版者
一般社団法人 日本産業精神保健学会
雑誌
産業精神保健 (ISSN:13402862)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.156-165, 2023-09-20 (Released:2023-09-20)
参考文献数
45

トラウマ体験をした後に経験されるポジティブな心理的変容である心的外傷後成長(Posttraumatic Growth: PTG)は,トラウマ体験で崩れた世界観を書き換える認知プロセスの副産物として得られる.この認知プロセスの促進要因は,当事者の社会的状況との組み合わせにより理解・解釈され,新たな認知的枠組みに組み込まれるため,軍人等においても独自の特徴があると考えられる.軍人等のPTGの促進要因に関する17件の文献を整理した結果,属性,苦痛・症状,ポジティブな文脈,個人の内面的性質およびネガティブな文脈の5つがPTGの促進要因となることが示唆された.軍人等のPTGを促進するためには,軍隊等における価値観を理解しようとする環境を整えて自発的な自己開示を促したり,逆境に意味を見出そうとする資源を増やしたりすることが有効である可能性が示唆された.
著者
廣田 奈穂美 大塚 泰正
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.94.22017, (Released:2023-09-01)
参考文献数
32

This study investigated how Japanese cancer survivors adapt to their bodies and jobs and find meaning in their work while dealing with various mental distresses after a cancer diagnosis. Semi-structured interviews were conducted with 16 working cancer survivors. The analysis of the interviews using the Modified Grounded Theory Approach generated 38 concepts, 12 subcategories, and 3 categories. The process by which cancer survivors found meaning in their work included three stages: “questioning the self,” “restarting life,” and “integration of work and life.” They embarked on a new life journey, determined to live as cancer survivors. Their journey can be described as a process in which cancer survivors seek the meaning of life and work through their cancer experience and foster their life careers while gradually acquiring these meanings.
著者
川人 潤子 大塚 泰正
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.138-140, 2011-11-30 (Released:2012-05-22)
参考文献数
16
被引用文献数
4

Relationship between positive self-complexity (P-SC), satisfaction, happiness, and depression was investigated in university students (N=485). Participants completed a questionnaire on satisfaction, happiness, depression, and P-SC. Covariance structure analysis revealed that P-SC was positively associated with satisfaction and happiness, and satisfaction and happiness were negatively associated with depression. These findings suggest that satisfaction and happiness mediated between P-SC and depression. It is concluded that interventions to increase P-SC might increase satisfaction and happiness, and improve depression among university students.
著者
小林 由佳 渡辺 和広 大塚 泰正 江口 尚 川上 憲人
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.43-58, 2019-03-20 (Released:2019-03-25)
参考文献数
40
被引用文献数
2

目的:従業員参加型職場環境改善(以下,参加型職場環境改善)はメンタルヘルス不調の一次予防として有効性が示された手法であり,ストレスチェック制度の施行に伴い関心が高まっている.しかし,従業員の関与,上司の姿勢,職場の風土などにより活動の効果が一貫しないことが指摘されており,運用上の課題解決が求められる.本研究では,職場環境改善の実施手法の検討に際して職場の準備状態を見立てる観点,および組織を発達させるという組織開発の観点が有効と考え,参加型職場環境改善が有効に機能するまでに発達した職場の定義およびその獲得に必要な要因の検討と,機能する状態に向けた準備状態を段階別に把握するためのチェックリストを開発することを目的とした.対象と方法:専門家間の議論,および実務者からの意見にもとづき,参加型職場環境改善の機能する職場の状態(理想的な状態)の定義を行った.そしてその状態の獲得に必要な要因に関するアイテムプールを作成し,日本人労働者300名(男女比1:1)を対象にインターネット調査を行い,探索的因子分析にて因子構造を確認した.さらに,職場の状態のチェックリストを作成するため,理想的な状態を外生変数,その獲得に必要な要因に関する項目を内生変数としたロバスト最尤法推定によるカテゴリカルパス解析を実施し,項目ごとに閾値(threshold, θ),およびパス係数(γ)を推定した.項目ごとの閾値にもとづいて項目のレベル(その項目を達成することの難易度)を設定し,そのレベルごとに最もパス係数が高く,かつパス係数が0.60以上の項目をチェックリストに採用した.最後に各レベルと理想的な状態,および関連項目(職場の心理社会的要因,ワーク・エンゲイジメント,心理的ストレス反応)との関連を分散分析にて確認した.結果:収集された77項目のアイテムプールにおける探索的因子分析の結果,71項目3因子構造が妥当であった(第1因子「職場の受容度」,第2因子「上司のリーダーシップ」,第3因子「職場での議論の熟達」).チェックリスト作成のためのカテゴリカルパス解析の結果,第1因子から3項目,第2因子から2項目が抽出された.第3因子では理想的な状態との関連が十分でなかったため該当項目はなしと判断した.最終的に,肯定的回答率をもとに設定された4段階のレベルを5項目から判断するBODYチェックリストが作成され,各レベルと理想的な状態,および関連項目とで分散分析を行った結果,すべての指標において有意な差が認められた.考察と結論:参加型職場環境改善が有効に機能する状態の獲得に必要な要因は,職場の受容度,上司のリーダーシップ,職場での議論の熟達に整理され,これらを日常的に高めることでより有意義な改善活動につながることが示唆された.また,BODYチェックリストを用いて職場の準備状態を測定することにより,職場環境改善活動を企画する際に各職場にあった目標を設定することが可能になった.今後は,BODYチェックリストの職場単位の分布の確認および参加型職場環境改善の実施効果との関連を確認していく必要がある.
著者
大塚 泰正
出版者
広島大学大学院教育学研究科心理学講座
雑誌
広島大学心理学研究 (ISSN:13471619)
巻号頁・発行日
no.8, pp.121-128, 2008

理論的作成方法による代表的なコーピング尺度として, C.S.CarverによるCOPE, Brief COPEを紹介した。COPE, Brief COPEは, Lazams & Fo1kman(1984 本明他訳 1991)の心理学的ストレスモデルと, Carver & Scheier(1981, 1998)による行動自己制御モデルに基づき, 作成された尺度である。COPEは15下位尺度60項目, Brief COPEは14下位尺度28項目で構成される。筆者らは, COPE, Brief COPEの日本語版を作成し, 信頼性・妥当性の検討を行った。その結果, まずまずの信頼性・妥当性を確認することができたものの, 一部α信頼性係数が低い下位尺度が認められるなど, 今後再検討が必要である点も認められた。
著者
小杉 正太郎 大塚 泰正
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.55-62, 2001-05-20
参考文献数
6
被引用文献数
8

我々は1980年以来, 総計約10,700名の従業員を対象として, 積極的メンタルヘルス活動に依拠する心理カウンセリングサービスを展開している. 我々のカウンセリング方法は, 心理ストレスモデルに基づくものであり, 以下の3段階に分割される. 第1段階は, 職場ストレス・スケール(JSS)による一斉調査である. 一回の調査は500名程度の従業員を対象として実施され, 調査結果は, 結果通知表によって社内便により全従業員に通知される. 第2段階は, 不適応状態にある従業員に対して実施される半構造化面接である. 面接対象となる従業員は, JSSの心理的ストレス反応得点によって判断される. 面接者は, JSSの構成要因, すなわち, 職場ストレッサー, コーピング方略, ソーシャル・サポート, 心理的ストレス反応, のそれぞれについて被面接者に説明を行う. 第3段階は, 心理カウンセリングである. カウンセリングの対象となる従業員は, 以下の基準により判断される. 1)来室者自らがカウンセリングを希望する場合, 2)精神疾患が疑われる場合, 3)職場ストレッサーが低得点であるにもかかわらず, 心理的ストレス反応が高得点である場合, 4)家庭における問題が認められる場合. これら4段階を踏襲することによって, 従業員のカウンセリングに対する抵抗を低減することが可能となると考えられる.
著者
大塚 泰正
出版者
関西福祉科学大学EAP研究所
雑誌
関西福祉科学大学EAP研究所紀要 (ISSN:21854947)
巻号頁・発行日
no.6, pp.27-30, 2012-03

職場におけるポジティブ・メンタルヘルス活動は、労働者の健康を向上させるために有益である。感謝の手紙を書く、楽観的な思考法を学習する、ポジティブな経験を反芻するなどといったポジティブ心理学的介入は、抑うつだけではなく、ウェルビーイングの改善にも効果的であることが示されている。ワーク・エンゲイジメントは、職場においてプロアクティブなメンタルヘルス対策を行う際に鍵となる概念の一つである。ワーク・エンゲイジメントは、既に多くの企業で組織的な一次予防対策として実施されている職場環境改善を通して、高めることができる可能性が示唆される。今後、労働者の健康を考える際に、ポジティブ心理学的介入やワーク・エンゲイジメントを用いたプロアクティブな職場メンタルヘルス活動がさらに必要となるだろう。Positive mental health activities at work may bebeneficial improving workers' health. Positive psychology interventions, such as writing gratitude letters, learning optimistic thoughts, or ruminating positive experiences, were found to be effective to ameliorate not only depressive symptoms but also well-being. Work engagement is one of the key issues for conducting proactive mental health activities at work. Work engagement may be able to be enhanced through work environment improvement interventions, which were already conducted in many workplaces as an organizational primary intervention. More proactive mental health activities at work, especially using positive psychology interventions and concepts of work engagement, should be needed considering workers' health in the future.
著者
堀田 裕司 大塚 泰正
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.B15001, (Released:2015-07-07)

目的:職場のソーシャルサポートを高める可能性のある要因として,組織市民行動における対人的援助がある.本研究の目的は,職場における対人的援助向上プログラムの実施により対人的援助が上昇すること,および,対人的援助の上昇により量的負担が増加するものの,ソーシャルサポートも増加し,心理的ストレス反応が低下することを検証することである.対象と方法:製造業A社に所属する労働者72名を調査対象とした.per-protocol解析を行うために,調査票への欠損回答者,退職者および研修の欠席者の24名を除いた介入群26名(男性22名,女性4名,B事業所所属)と統制群22名(男性19名,女性3名,C事業所所属)を最終的な分析対象とした.また,intention-to-treat解析(以下ITT解析)を行うために,pre-testでの欠損回答者10名を除いた介入群35名(男性30名,女性5名,B事業所所属)と統制群27名(男性23名,女性4名,C事業所所属)を分析対象とした.調査票は,日本版組織市民行動尺度の対人的援助,職業性ストレス簡易調査票の量的負担,心理的ストレス反応,ソーシャルサポートを使用した.介入群の参加者のみ心理教育とロールプレイ,4週間のホームワーク(以下HW)を実施した.両群の参加者に pre test(以下pre),post test(以下post),follow-up test(以下follow-up)を同一時期に実施した.プログラムの効果を検証するために,各効果評価指標を従属変数,時期(pre,post,follow-up)と群(介入群,統制群)を独立変数とし,per-protocol解析については2要因分散分析を,ITT解析については混合効果モデルによる分析を行った.結果:per-protocol解析では,対人的援助および同僚サポートにおける介入群のpost時,follow-up時の得点がpre時よりも有意に高かった.また,同僚サポートにおいて,post時に介入群の得点が統制群よりも有意に高かった.ITT解析では,対人的援助における介入群のpost時,follow-up時の得点がpre時よりも有意に高かった.また,同僚サポートにおける介入群のpost時の得点がpre時よりも有意に高かった.結論:対人的援助向上プログラムの実施の結果,介入群の対人的援助および同僚サポートが有意に増加することが明らかとなった.しかしながら,上司サポート,量的負担の有意な増加,および,心理的ストレス反応の有意な低下は認められなかった.対人的援助を上昇させることで,特に同僚からのサポートを向上させることができる可能性がある.
著者
大原 慧美 大塚 泰正
出版者
広島大学大学院教育学研究科心理学講座
雑誌
広島大学心理学研究 (ISSN:13471619)
巻号頁・発行日
no.10, pp.245-255, 2010

職場において受動喫煙防止対策が講じられ, 職場の喫煙環境が急速に変化しつつある現在, 非喫煙者は受動喫煙に曝される機会が減った。しかし, 職場における受動喫煙問題とは別に, 新たな喫煙者・非喫煙者間の問題が生じつつあり, 非喫煙者の中には喫煙者に対して否定的なイメージを持つ者も少なからず存在する。本研究では, 職場において非喫煙者が喫煙者に対して持つイメージに影響を及ぼす要因について, 全国の非喫煙者211名(男性55名, 女性156名)を対象に, 職業性ストレスや喫煙に対する態度等を指標として探索的に検討した。重回帰分析の結果, 非喫煙者の外在的な報酬の低さは, 喫煙者に対する否定的な外見イメージや周囲への配慮不足イメージ, そして反社会的イメージの高さと関連することが明らかとなった。また, 非喫煙者の仕事の要求度の高さは, 喫煙者に対する肯定的イメージの低さと関連することが明らかとなった。以上のことから, 外在的な報酬が高く, 仕事の要求度が低い場合には, 非喫煙者の喫煙者に対する否定的なイメージが改善される可能性が示唆された。