著者
中村 朗
出版者
東海大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

甲幅約210mm、甲長約180mmのタカアシガニ(雄ガニ2尾、雌ガニ3尾)5尾を用い、バイオテレメトリによって、前年度までの行動調査結果の確認と長時間の追跡による生態行動の解明と製作した機器類の性能検証を目的とした。実験は、通算30日にわたって行われた。前年度までの結果を含めて今年度についてまとめると1.移動は、絶え間無く続けられ移動方向は、沿岸に沿って沿岸線と平行しており、移動速度、移動方向はほぼ一定である。2.移動途中にタカアシガニが存在した水深は、70mから430mの範囲にあり、その大部分は、水深200mが中心であった。3.環境温度は、6℃から13℃の範囲であり、水温の変化が行動の変化に影響を与える関係は、見られなかった。4.移動中の環境照度は、0.1から0.01ルクスオーダーであり、水中照度の変化と行動と間に相関は認められなかった。5.移動速度に注目すると、雌雄ともに夕刻6時から朝6時にかけての移動速度が朝6時から夕刻6時までの移動速度に比較して大きく夜行性であることが示唆された。一方、雌雄で比較すると雌の移動速度が、雄の移動速度に比較して1.5から2倍程度大きく雌の移動速度の平均は、おおむね時速5-60mであった。6.タカアシガニを放流してからバイオテレメトリで位置を特定し、その後2週間経過してから移動速度ならびに移動方向を推定して探索すると再度推定位置付近で発見できることが多い。これらの結果は、漁業者の漁獲の際にカニ籠漁が行われると一方向に移動するタカアシガニが籠に捕獲されてしまい、移動方向の後方で操業される一方の底引き漁での漁獲がほとんど無くなる事実と符合する。さらに、漁業者の話によれば底引き漁では、海域によらず親ガニの漁獲の際に小ガニ、稚ガニが混獲される。一方、過去に調査に供したカニの中に抱卵した親ガニも数個体あったことから推定して移動が索餌と産卵を兼ねたものであると考えられた。