著者
中村 直文
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.321-334, 1982-06-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
33

急性膵障害を作製し, その初期像から進転に至る過程を明らかにする目的で実験病理学的研究を行なった.膵障害作製の為に高アミラーゼ血症を来たすことで知られるサソリ毒 (Leiurus quin-questriatus) を家兎に対しては耳静脈より致死量に近い量の2.44×10-4mg/gとその1/2量を3時間, 6時間, 12時間, 24時間間隔で投与した計8群, モルモットに対しては皮下より2.44×10-4mg/g, その1/2量, 1/4量の連日投与および1/2量を隔日にて週3回注射し, 1カ月後に1/4量を増量した計4群, 総計12群に対して投与した.これら投与群に対して, 膵を中心として病理組織学的検索を行なうとともに, 生化学, 電顕的検索, 数種の膵刺激剤を用いた対照実験を加えて行なった.病理組織学的には, 静脈投与では各群において膵における間質の水腫, 毛細血管および導管の拡張, 部分的には腺房細胞の濃縮, 膨化を認め12時間間隔2.44×10-4mg/g投与群, 3時間, 6時間間隔の1/2量投与群では, これらの所見に加えて腺房細胞の空胞形成から崩壊に至る組織像が認められた.皮下投与群では, 恒常的変化は毛細血管網の拡張による目立ちと腺房細胞の変性性障害であり, 長期投与群になるに従いこれら変化が高度になり, 多数の腺房細胞の空胞形成, 脂肪浸潤を認めた.電顕的には耳静脈投与家兎, 皮下投与モルモットの両方に, チモーゲン顆粒の減少, 腺房腟拡大, 粗面小胞体, ミトコンドリアの変性, 空胞形成が種々の程度で認められた.生化学的検索では, 膵腺房細胞の変性性病変が高度の場合には血清および尿アミラーゼ値が漸次上昇する傾向がみられ, 上昇したアミラーゼは3: 8程度で唾液腺型アミラーゼの優位な上昇を示した.以上.サソリ毒投与により, 主に膵においてその腺房細胞に変性性病変を主体とする過分泌を伴う膵障害を起こさしめ得ることを確認した.そしてサソリ毒の短期大量投与群では, 主に水腫を中心とする変性性病変を認め, 長期投与の場合は緩徐な持続分泌による機能亢進の為の細胞疲労, 消耗と思われる変性性変化の過程であり, 両者とも急性膵炎の組織表現と思考する.また当教室における膵障害分類では, 急性障害の内の変性型, すなわち急性実質性膵炎に相当するものである。