著者
中村 純夫
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.57-66, 1997-03-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

1.大阪府高槻市でハシボソガラスについて,1990年から1992年まで親子関係の変化を調べた。変化の過程は,4つの段階に分けることができた。2.第1段階:巣立ちから,幼鳥が独自に餌を取るようになるまで。親は子の接近を受容し,攻撃的反応を示さなかった。3.第2段階:まず雄親が幼鳥の接近に対して,牽制や威嚇で応じるようになり,親子の間合いが広がった。雌親は始めは受容的だったが,後に雄親と同じ反応を示した。幼鳥は親のなわばりの外での活動時間を増やしてゆき独立に向った。4.第3段階:両親ともに幼鳥に対してにわかに攻撃的になり,幼鳥は家族ねぐらから出て,生活の中心を親のなわばりの外に移した。その後,同腹の幼鳥は別々に行動するようになった。5.第4段階:親のなわばりへの滞在は更に減少し不規則になり,接近時には必ず牽制や威嚇を受けた。次の繁殖開始までには,親のなわばりに寄り付かなくなった。6.雄親は第2段階と第3段階で雌親より攻撃性が高かった。第2段階の始めに雌親が受容的であったのは,急激な変化を避ける効果があった。第3段階で両親がそろって厳しい態度になったことが,幼鳥の独立を決定づけた。7.幼鳥の発達に応じて親は次の段階への移行を調節している可能性がある。また幼鳥が独立してゆく節目である,親のなわばり内での観察時間が減少し始めた時期と同腹の幼鳥が別行動を取るようになった時期が両年で一致していた。独立を決定する要因が親子間の対立だけではないことを示唆している。8.幼鳥が第2段階以降のどこで独立するかを決める要因としては,親のなわばりの餌条件や親がなわばりを保持する期間などが考えられる。