著者
中条 健実
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.158, 2004

1 はじめに<br><br> 発表者は昨年人文地理学会において広島県福山市の閉鎖百貨店の再利用について報告したが、今回は福山事例と異なる特徴をもつ愛知県豊田市の閉鎖百貨店再利用について述べる。中心市街地空洞化・経営破綻による大型店の店舗閉鎖などにより、ここ数年で各地の中心市街地に大規模な商業空白が発生した。その中で、撤退した大型店の跡地・建物を再利用することで中心市街地の利便を維持する事例が増えてきた。民間業者間での大型店転用がうまく進まない場合、地元自治体の何らかの関与が必要となるが、自治体主導での大型店の詳しい転用の経緯・合意形成過程については、各地の中心市街地の業務・居住などの利便を維持するために重要と考えられるにもかかわらずほとんど報告がされていない。本研究では閉鎖百貨店という商業空白が再利用される過程を地域の特徴を踏まえつつ明らかにし、その効果も考察する。<br><br>2 研究事例での再利用経緯<br><br> 愛知県豊田市の旧豊田S百貨店は、大型店を求めていた市と経営拡大を図る旧Sグループの意向により、1988年名鉄豊田市駅前中心市街地再開発の一環として開業した。しかし開業以来一度も黒字を計上することなく、2000年秋の旧Sグループ経営破綻を受け、同年12月の閉鎖が決まった。<br> 豊田市の構想では、駅地区の再開発事業は豊田市商業の中心核と位置付けられていた。大型店を長期に欠くと、同地区への集中投資により交流施設群として蓄積を進めてきていたこれまでの豊田市の政策全体が破綻しかねないとの理由で、市は旧S百貨店の後継体制を速やかに構築する必要があった。<br> 豊田市はS百貨店グループ経営破綻の直後すなわち豊田S百貨店閉鎖発表前から、市長のトップダウンで市三役と商工部・都市整備部代表者などで百貨店閉鎖対策プロジェクトチームを構成、事態の変化に瞬時に対応しつつ関係者との交渉を行うことにした。<br> まず豊田市は可能な支援政策を検討、代替百貨店誘致を試みたが複雑な債権債務関係から失敗し、結局、地元資本が旧S百貨店の債権債務を整理、土地建物を全て購入して新事業を誘致する以外に大型店存続の可能性が無いとの結論に至った。<br> そこで豊田市は既存のTMOまちづくり会社を利用、市から公的資金を貸し付け、購入に充当する方法をとることにした。公的関与による大型店再生・変則的な資金利用を行う具体的な再生スキームを組み立て、それに従い市民の理解を得ることにした。市民アンケート・意見募集などを通し、市民の意見を旧S百貨店購入にまとめ、2001年3月市議会で購入予算案を可決した。代替のM屋百貨店は2001年10月開業した。<br><br>3 考察<br><br> 豊田市は建物管理の第3セクター「豊田まちづくり」とともに主導的に新規店舗探しを行うことで、比較的短期に代替のM屋百貨店を誘致できた。専門店導入による店舗面積の適正化のほか、販売品目の特化・賃料引下げの工夫により代替百貨店をテナントとして入居しやすくしている。名古屋に本拠地を置くM屋百貨店にとっても中京経済圏での集中出店、地元自動車メーカーとの関係強化への貢献というメリットがあった。<br> 町村合併を繰り返し成長してきた豊田市では、豊田市駅前の再開発地区は中心地ではあるが吸引力が強いわけではない。また、名古屋方面への自動車通勤の多い同市では近隣自治体の大型小売店利用も多く、駐車場の少ない豊田市駅前中心地域は商業的にも不利な場所である。それにもかかわらず、市議会および市民の意見を短期間で駅前大型店は必要であるとまとめあげ、また今回豊田市が百貨店を維持することを通して中心地を強調する政策をとったことは特徴的である。<br>