著者
中江 康之
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

【目的】前年度の研究において、急性膵炎や膵石症における血中α2-macroglobulin-trypsin複合体様物質(MTLS)測定の病態解析に対する有用性を示した。本年度は引き続きMTLS高値例におけるトリプシン残存活性と血中MTLS濃度の関係について検討した。【方法】(1)血中MTLS濃度およびトリプシン活性の測定:血中MTLS濃度力塙値を示した急性膵炎18例および膵石症26例の血中残存トリプシン活性を、Boc-Gln-Ala-Arg-MCAを基質として測定した。(2)膵石症における血中MTLS存在様式の検討:血中MTLS高値膵石症患者血漿をSDS-PAGEで泳動し、膵分泌型トリプシンインヒビター(PSTI)に対するWestern blot法による解析を行った。(3)PSTIによるMm.Sトリプシン活性阻害の検討:ヒト純粋膵液より精製したトリプシンとα2-macroglobulinを混和しα2-macroglobulin-trypsin複合体(α2M-T)を作成後、PSTIによるMTLS活性阻害を検討した。【結果】(1)血中MTLSの酵素活性は、急性膵炎17.0±30.lng/ml、膵石症2.5±3.8ng/ml、健常人1.2±1.3ng/mlであり、急性膵炎では活性の上昇を認めたが、膵石症では認められなかった。(2)膵石症血漿のWcstcmbIot法による解析ではpsn単体あるいはPSTI-トリプシン複合体よりも高分子側に抗PSTI抗体陽性のバンドを認めた。(3)PSTIによりα2M-TのMTLS活性は約50%阻害された。【結論】残存トリプシン活性は血中MTLS濃度と同様に急性膵炎では重症度を反映していたが、膵石症ではMTLS濃度が高値にも関わらずトリプシン活性を認めなかった。この活性阻害は膵液中のPSTIによると考えられたが、他の阻害物質の関与も示唆された。