- 著者
-
野副 鉄男
瀬戸 秀一
高瀬 嘉平
松村 進午
中沢 知男
- 出版者
- 公益社団法人 日本化学会
- 雑誌
- 日本化學雜誌 (ISSN:03695387)
- 巻号頁・発行日
- vol.86, no.4, pp.346-363, 1965-04-10 (Released:2009-02-05)
- 参考文献数
- 38
- 被引用文献数
-
13
2-クロルトロポンまたは2-メトキシトロポン(Ia, b)にアルコラートやアミンなどの触媒の存在下に2mol当量のシアン酢酸エチル(ECA)を働かせ一挙に2-アミノアズレン-1, 3-ジカルボン酸ジエチル(XV), 2-オキシ-3-シアンアズレン-1-カルボン酸エチル(XVI), 2-アミノ-3-シアンアズレン-1-カルボン酸エチル(XIX)および2-オキシ-1, 3-ジシアンアズレン(XX)の混合物が得られた。この反応で塩基の量の少ない場合はXVが,また多い場合はXXが主成物となる。トロポン核にアルキル基やその他の官能基の存在する場合にも反応は同様に進行し, 2-メトキシトロポン体からは正常置換, 2-クロルトロポン体からは異常置換を経て縮環したアズレンを与えることも明らかになった。このアズレン合成の反応機構を解明する目的でECAのかわりに,その二量体を働かせたところ,アズレン類は得られずに1-オキサアズラン-2-オンおよび1-アザアズレン誘導体(XX XVIIIおよびXX XIX)が得られた。一方ECAのかわりに,マロン酸ジエチル(DEM)を用いるときは塩基の量が少ない場合は3-エトキシカルボニル-1-オキサアズラン-2-オン(XX XIII)が得られるのみであるが,塩基の量を3~4mol当量用いると,こんどは2-オキシアズレン-1, 3-ジカルボン酸ジエチル(XX XIV)が得られ, XX XIVはまたXX XIIIにさらに過剰の塩基の存在下にDEMを作用しても得られた。このことから,このアズレン合成反応はつねに1-オキサアズラン-2-オンまたは2-イミン類を中間体として進行することが推定され, XX XIIIとECAやマロンニトリル(MNL)あるいはシアン酢酸アミド(CAA)とを反応させてそれぞれXV, XVI, XIXおよび2-アミノ-3-カルバモイルアズレン-1-カルボン酸エチル(LXVII)が得られることから,その推定の正しいことが実証された。さらに適当な条件下ではIa, bとECAから3-シアン-1-オキサアズラン-2-オン(L XX)および3-エトキシカルボニル-1-オキサアズラン-2-イミン(C VI), MNLでは3-シアン-1-オキサアズラン-2-イミン(L X XI), CAAでは3-カルバモイル-1-オキサアズラン-2イミン(L XX VI)がそれぞれ好収率で得られた。この際塩基や試薬の量を変えることによって一挙にアズレン体も得られるが,その詳細な検討もなされた。これらのオキサアズラノン体にさらに種々の活性メチレン化合物を作用して種々のアズレン誘導体が得られたが,その結果の詳細な検討から,活性トロポノイド(Ia, b)からのアズレン合成反応の機構は大きくわけて4段階で進行し,最後のアズレン生成の段階を除けばすべて平衡反応と考えられ,試薬の種類によっては各中間体は種々の型をとり得,その割合が塩基の量で左右されることなどがわかった。しかも各段階は非常にすみやかに進行し,第1段階を除けば各中間体を単離することはできない。すなわち第1段階では活性トロポノイドと1mol当量の活性メチレン化合物からそれぞれ最大2種の1-オキサアズラノン体(第1次中間体)が生成し,第2段階ではさらにそれぞれの9位を別の1molの活性メチレン化合物が攻撃して5員環が開き, 1位に活性メチン基を有すろ8, 8-ジ置換ヘプタフルベン体を与える。それぞれのオキサアズラノン体から得られるこの第2次中間体は最大4種の空間配置をとり得るが,その割合は各反応中心の官能基の求核性,求電子性のほか,さらには立体的な因子に支配されると考えられる。第3段階では第2次中間体の求核中心のメチン基がヘプタフルベン体の8位の官能基を攻撃して1, 1 , 3-トリ置換アズラノン体となる。さらに第4段階では1位の置換基を塩基が攻撃し,そのうちの脱離しやすい基が2位の置換基の分極にうながされて脱離して最終生成物のアズレン体が生成することになると考えられる。この反応は複雑でまだ完全な解明にはいたっていないが,ここではそれぞれの場合について実験事実を主体として考察する。この際各段階における反応速度も当然問題になってくると思われるが,その方面の研究は今後の問題としたい。このアズレン合成法は脱水素の段階を経ずに初めから2位にアミノや水酸基のような反応性に富んだ官能基をもつアズレン体が得られる点でいままでの合成法にはまったく見られない特徴がある。さらにこれらの官能基はあとで種々変形することができ,種々のアズレン誘導体の合成に利用されている。本論文は従来他の学会誌に発表した主題の研究1)~11)を総合的にまとめたものである。