著者
中西 國夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.109-123, 1984

フッ化物歯面塗布液およびフッ化物洗口液とエナメル質との反応により生成するフルオロアパタイトの定量的観察を行うことにより, 両フッ化物応用法のエナメル質への作用機序を比較検討することを目的として, X線回折法を用いてtemplate法により検索を行った。フッ化物歯面塗布液としてはフッ素濃度9,000ppm, pH3.6のリン酸酸性フッ化ナトリウム溶液を, フッ化物洗口液にはフッ素濃度500ppm, pH5.0のリン酸酸性フッ化ナトリウム溶液を用いた。<BR>フッ化物溶液作用エナメル質および各種標準試料を1,000℃にて5時間加熱してX線回折線の尖鋭化を行い, 生成フルオロアパタイトについてa軸格子定数の測定を行ったのち, その定量は標準試料の (410) 回折線について作製したtemplateと実験試料のline profileおよびpeak shiftの状態を対比することにより行った。<BR>また, エナメル質の加熱により生成するβ-リン酸三カルシウム量の測定を行い, エナメル質アパタイトの結晶性との関連性についても検討を加えた。<BR>その結果, フッ化物溶液作用によりエナメル質中に生成するフルオロアパタイトはHydroxyfluoragatite (HFA) であり, フッ化物歯面塗布液作用エナメル質では作用後8週でエナメル質中に生成したフルオロアパタイトは約20%, フッ化物洗口液作用エナメル質では約35%であることが示された。<BR>また, フッ化物歯面塗布液作用エナメル質では多量のフッ化カルシウムの生成を認め, その後, フッ化カルシウムの流出と同時にHFAの生成という過程をたどるのに対し, フッ化物洗口液作用エナメル質ではフッ素取り込み量の増加にともない, かなり結晶性の高いHFAが多量に生成することが認められ, エナメル質アパタイトの結晶性向上 (格子不整修復) が示唆された。