- 著者
-
中谷 美咲
関 洋子
- 出版者
- ファンクショナルフード学会
- 雑誌
- Functional Food Research (ISSN:24323357)
- 巻号頁・発行日
- vol.16, pp.FFR2020_p65-74, 2020-08-11 (Released:2020-09-10)
- 参考文献数
- 45
野菜や果物は長時間の保存が難しく,一般的には野菜はピクルスや漬物,果物はジャムに加工して保存されてきた.しかし,加工の際の酸処理や加熱によって,野菜・果物に含まれる酵素を不活性化してしまう,加熱により総ビタミンC 量が低下するという問題があった.そこで最近では果物や野菜を生のまま砂糖漬けにして発酵させることで,有用な物質の破損なしに加工・保存する方法がある.果物や野菜を砂糖漬けにすることで,数日で野菜や果物から出てきた水分で砂糖が溶け,シロップ漬けの状態となる.このシロップは酵素シロップと呼ばれ,発酵による有用成分の増加および機能性の向上,がん細胞増殖抑制作用が期待できる.そこで,本研究ではりんごを利用した酵素シロップに着目し,発酵によるがん細胞増殖抑制作用,抗酸化作用,α-グルコシダーゼ阻害作用を調査した.また,発酵に関与している微生物の同定を行った.りんごは青森県の早生ふじりんごを用い,16 分割にした後,1.1 倍の砂糖と共にガラスの容器で2 週間室温に保存し,発酵7 日目と14 日目のシロップを用いてマウス白血病細胞株P388 の細胞増殖への影響,抗酸化活性,α-グルコシダーゼ阻害活性を測定した.がん細胞増殖抑制作用を評価するため,細胞数を調整したマウス白血病細胞株P388 に発酵7 日目と14 日目の酵素シロップまたは滅菌水を添加し,37°C で7 日間5.0% CO2 環境で培養し,p388 の細胞数を比較した.酵素シロップの抗酸化作用はDPPH ラジカル消去活性を,α-グルコシダーゼ阻害作用はα-グルコシ ターゼ阻害活性を測定した.発酵に関与している微生物を同定するため,酵素シロップを適宜希釈し標準寒天培地に塗抹し,35℃で2 日間培養した.2 日後,出現したコロニーの微生物同定を行った.その結果,がん細胞増殖抑制作用の評価では,発酵7 日目および14 日目の酵素シロップでp388 細胞の増殖抑制効果が確認された.抗酸化作用の評価では,酵素シロップの抗酸化活性と比較してリンゴ自体の抗酸化活性で高い値が確認された.α-グルコシダーゼ阻害作用の評価では,発酵7 日目および14 日目の酵素シロップで高いα-グルコシダーゼ阻害活性が確認された.また,発酵に関与した微生物を同定した結果,相同値97%でMetschnikowia pulcherrima であった.以上のことからリンゴを利用した酵素シロップはがん細胞増殖抑制作用,α-グルコシダーゼ阻害作用が確認され,発酵に関与している微生物はMetschnikowia pulcherrimaであることがわかった.