著者
蒲原 聖可
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.FFR2020_p40-50, 2020-08-11 (Released:2020-09-10)
参考文献数
68

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がパンデミック(世界的大流行)となり,ヘルスケアシステムに大きな影響を与えている.COVID-19 の予防法は,原因ウイルスであるSARS-CoV-2 への暴露機会を減らす,宿主であるヒトでの感染に対する抵抗力を高める,の2 つである.機能性食品成分には,抗ウイルス作用や免疫賦活作用,抗炎症作用などを有する成分が知られている.また,これらの成分を含むサプリメントを用いた介入試験により,ウイルス性呼吸器感染症に対する予防や重症度軽減作用が報告されてきた.COVID-19 重症化の機序として,サイトカイン・ストームの関与が注目されている.機能性食品成分の中には,サイトカイン産生調節に働く成分も存在する.本稿では,COVID-19 対策に外挿できる機能性食品成分のエビデンスを概説した.
著者
久田 孝
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.13-18, 2021-09-12 (Released:2022-01-27)
参考文献数
16

2010 年,和食好きにとって興味深いHehemann et al. による論文がNature から発表された.彼らは海洋細菌のポルフィランやアガロース分解酵素の遺伝子が,日本人の腸内のBacteroides plebeius に水平伝播されていることを示した.調べたのは日本人13 名と北米人18 名で,5 名の日本人のみから検出され,かつての日本人の未加熱の海藻を摂食する習慣がこの伝播をもたらしたのでは,と考察されている.日本の一部のマスコミでは「海藻を利用できるのは日本人だけ」と取り上げられた.はたして,海藻多糖類分解菌は日本人の腸にしかいないのだろうか? 食用の大型海藻類は光合成色素により三つ,紅藻類,緑藻類,褐藻類に分類される.緑藻類の持つ多糖類は陸上植物と共通するものが多いが,紅藻類ではアガロース,カラギナン,ポルフィラン,褐藻類ではアルギン酸,フコイダン,ラミナランなど,特徴的な水溶性多糖類が含まれている.ヒト腸内菌による各種多糖類の分解に関する研究も1970 年代から多く見られ,Salyers(バージニア工科大)らの実験では,ヒト腸内で優勢のグラム陰性菌であるBacteroides 属10 種のうち8 種のラミナラン分解能, B. ovatus 近縁種のアルギン酸分解能が示されている.われわれが自らの糞便からの分離を試みた場合も同様の菌種が分離されたが,これらの菌種は,洋の東西にかかわらず成人から普通に分離されている.通常食で飼育したラットでは,盲腸内容物からアルギン酸分解菌が検出されなかったが,2% アルギン酸食で2 週間飼育したラットではすべての個体から104-9/g レベルで検出された.また,アルギン酸とラミナランを摂取させたマウスでは,それぞれB. acidifaciens とB. intestinalis が特異的に増加し,その分離菌はそれぞれ主にコハク酸と乳酸を生成した.現在,これらの海藻多糖類とそれに感受性を持つ腸内常在菌(susceptible gut indigenous bacteria, SIB)と宿主健康への相互作用について検討中である.
著者
木村 守
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.30-35, 2018 (Released:2019-03-15)
参考文献数
11

近年,肌の保湿や関節痛改善を目的としたサプリメントとしてのヒアルロン酸の活用が増加してきている.経口摂取による有効性やメカニズムを考える際には,注射や皮膚への塗布などの直接的な効果と異なり,腸管での消化吸収などの過程も加味する必要がある.本総説では,ヒアルロン酸を経口摂取した際の腸管での分解,吸収および分布に関して報告する. これまでの研究で,14Cでラベルしたヒアルロン酸をラットに経口摂取させることにより,少なくとも88%以上のヒアルロン酸が体内に吸収されること,および吸収されたヒアルロン酸は関節や眼,皮膚を含めた全身に分布することが確認されている. その一方で,分子量の大きいヒアルロン酸がどのように分解,吸収され,体内に分布するのか明確になっていなかった. まず,どのように分解されるのかを調べるために,人工胃液,人工腸液およびラットの盲腸内容物に分子量約30万のヒアルロン酸を添加してその変化を分析した.その結果,ヒアルロン酸は人工胃液,人工腸液では分解されないが,盲腸内容物に含まれる腸内細菌によってオリゴ糖まで分解されることが確認された. 次にオリゴ糖まで分解されたヒアルロン酸が大腸で吸収されるかどうかを,CaCo-2細胞を用いた試験とラットの大腸を用いた試験で評価したところ,両試験ともにオリゴ糖レベルのヒアルロン酸は透過する結果となった. さらに,分子量約30万のヒアルロン酸をラットに経口摂取させた後,血中および皮膚中の2糖および4糖ヒアルロン酸を経時的にLC-MS/MSで分析したところ,2糖ヒアルロン酸は経口摂取後4時間目以降の血中および6時間目以降の皮膚中に確認され,4糖ヒアルロン酸は6時間目以降の皮膚中にのみ確認された. これらのことから,経口摂取したヒアルロン酸は盲腸の腸内細菌でオリゴ糖まで分解された後,大腸で吸収され血中あるいはリンパなどを介して皮膚を含めた全身に分布し,作用を発揮することが示唆された.
著者
野村 義宏
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.FFR2020_p28-34, 2020-08-11 (Released:2020-09-10)
参考文献数
28

変形性膝関節症(knee OA)モデルの紹介とコラーゲン摂取による効果について解説した.Knee OA モデルは,自然発症型と外傷性のモデルが報告されている.いずれのモデルも一長一短があり,実験に即したモデルを用いるのが重要である.当研究室では,自然発症型kneeOA モデルにコラーゲン加水分解物を投与した研究を報告している.加水分解コラーゲン摂取によりOA 症状が改善しており,その効果は血中移行したコラーゲン特有のペプチドに寄る可能性があることを示している.
著者
富成 司 市丸 亮太 松本 千穂 平田 美智子 宮浦 千里 稲田 全規
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.59-66, 2019 (Released:2020-01-01)
参考文献数
20

カテキンは緑茶に含まれるポリフェノールであり,エピカテキン(epicatechin, EC),エピガロカテキン(epigallocatechin, EGC),エピカテキンガレート(epicatechin gallate, ECG),エピガロカテキンガレート(epigallocatechin gallate, EGCG)の4種類が含まれる.これらカテキンは抗酸化作用などさまざまな生理活性を示すことが明らかとなっているが,骨代謝に対する効果については不明な点が多い.これまで,筆者らは,天然由来因子の骨代謝調節作用の解析や骨系統疾患への効果に着目し,ポリフェノールやカロテノイドについて,骨粗鬆症や歯周病への予防効果を検討してきた. カテキン類の中で,ガレート基を持つEGCGは強い生理活性を持つことが知られている.近年,特定の茶品種に高含有のメチル化EGCG(methylated EGCG, EGCG3’’Me)に生理活性があることが示された.筆者らは,これらカテキンに破骨細胞の分化抑制作用があることを見いだした.その作用機序として,EGCGおよびEGCG3’’Meが骨芽細胞に作用することで,IκBキナーゼ(inhibitor of NF-κB kinase, IKK)の活性阻害を介してNF-κB(nuclear factor κB)の活性化を抑制し,プロスタグランジン(prostaglandin, PG)E2産生,破骨細胞分化誘導因子(receptor activator of NF-κB ligand, RANKL)の発現を抑制することが明らかとなった. In vivo実験における歯周疾患のモデルマウスにおいては,歯周疾患原因子であるリポ多糖(lipopolysaccharide, LPS)の投与により誘導される歯槽骨吸収において,EGCGまたはEGCG3’’Meの投与によってその歯槽骨吸収が改善されることを明らかにした. 現在,日本の超高齢社会において,骨と歯の健康増進は生活の質(quality of life, QOL)の向上に繋がるため国民的課題となっている.EGCGの経口投与実験では,閉経後骨粗鬆症モデル動物におけるエストロゲン欠乏性の骨量減少が改善されたという報告もある.茶に高含有のカテキンは日常的な摂取が可能であり,歯周病など骨系統疾患に有用な機能性成分として期待される.そこで,本総説では,カテキンの中でも特に強力な生理活性を持つEGCGおよびEGCG3’’Meの骨代謝調節作用について最近の知見を紹介し,骨の健康増進作用について解説する.
著者
内藤 裕二
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.4-10, 2019 (Released:2020-01-01)
参考文献数
13

腸内微生物叢あるいは腸内環境が健康増進や生活習慣病の発症に密接に関与することが次第に明らかになりつつある.次世代シーケンサーや質量分析計などの計測技術の進歩は,食機能評価にも新たな方法論をもたらしつつある.腸内マイクロバイオーム研究の現状や腸内環境を標的にした研究の具体例を紹介した.
著者
蒲原 聖可
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.34-42, 2022-09-12 (Released:2023-01-26)
参考文献数
22

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として,ウイルスへの暴露機会を減らす予防策が実践されており,ワクチン接種も進められている.一方,ヒトの側でのウイルス感染への抵抗性を高める対策も重要である.つまり,生体防御機構の維持・亢進による感染防御策,抗炎症や抗凝固といった作用による軽症者の重症化予防である.具体的には,適切な食事あるいはサプリメントの適正使用により,ビタミンやミネラル,その他の機能性食品成分を摂取することがCOVID-19 対策のもう一つの柱となる.これらは,後遺症対策としても重要である.機能性食品成分には,抗ウイルス作用や免疫賦活作用,抗炎症作用などを有する成分が知られており,ウイルス性呼吸器感染症の予防や重症度軽減作用が報告されてきた.すでに,ビタミンC,ビタミンD,亜鉛,クルクミン,コエンザイムQ10(CoQ10),ラクトフェリンなどでは,COVID-19 の罹患リスクや重症化リスクを抑制することが示されている.ワクチン接種による集団免疫獲得などにより,COVID-19 のパンデミックは収束に向かうと期待される.一方,COVID-19 変異株への懸念や,新興感染症の周期的・局地的な流行は,今後も継続 する.したがって,COVID-19 も含めた新興感染症対策として,セルフケアおよび補完療法での機能性食品成分の利活用が重要である.本稿では,COVID-19 の感染予防および重症化予防の視点から,機能性食品成分のエビデンスを概説した.
著者
楠畑 雅 桑葉 くみ子
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.44-47, 2018 (Released:2019-03-15)
参考文献数
6

コラーゲンペプチド経口摂取の効果として免疫系への作用を検討した.ヒト試験においては免疫 力を総合的に判定できる免疫力スコアの向上が認められた.卵白アレルギーモデルマウスを使った 抗アレルギー試験では,Th1 を優勢にさせることでアレルギーを抑制できる可能性を示した.
著者
中谷 祥恵 藤井 彬 古旗 賢二
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.14-18, 2018 (Released:2019-03-15)
参考文献数
29

骨髄中の体性幹細胞には間葉系幹細胞 (Mesenchymal Stem Cell : MSC) や造血幹細胞 (Hematopoietic Stem Cell : HSC) などが存在している.MSC は主に骨芽,脂肪,軟骨細胞への分 化能を有し,HSC は血球系の細胞や破骨細胞などに分化する. 従来,体性幹細胞は外部環境から隔絶したニッチに存在しているため,加齢に伴う外部環境変化 の影響を受けにくいと考えられていた.しかし,最近の研究で,加齢による骨髄環境の変化が骨髄 中の体性幹細胞の性質を変化させ,結果として骨密度を低下させることが明らかになってきた.ま た,加齢だけではなく生活習慣病や食生活によっても体性幹細胞の性質が変化することも明らかに なってきたので紹介する.
著者
山本(前田) 万里
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.FFR2020_p11-20, 2020-08-11 (Released:2020-09-10)
参考文献数
19

2015 年に施行された機能性表示食品制度は,生鮮食品も対象となった届け出制で「身体の特定の部位の表現」や「主観的な指標による評価」が認められた.2020 年3 月16 日現在2,801 品目あり,そのうち生鮮食品では,みかん(機能性関与成分はβ-クリプトキサンチン;骨の健康の維持),大豆もやし(イソフラボン;骨の健康の維持),リンゴ(プロシアニジン;体脂肪低減),メロン,ブドウ,バナナ(γ- アミノ酪酸<GABA >;高めの血圧低下,記憶力の維持),カンパチ,ぶり,卵(DHA/EPA;血中脂質低減),米,トマト,ケール(GABA,ルテイン;目の健康の維持),ホウレンソウ(ルテイン),唐辛子(ルテオリン;血糖上昇抑制),メロン(GABA;精神的ストレス緩和),鶏胸肉,豚肉(イミダゾールジペプチド;ストレス緩和)など62 品目が,また,単一の農林水産物のみが原材料である加工食品では,緑茶(メチル化カテキン;ハウスダストによる目や鼻の不快感軽減),冷凍ホウレンソウ,蒸し大豆,大麦,無洗米,みかんジュース,数の子,寒天などが届け出・受理された.2019 年3 月にガイドラインの修正が行われた.生鮮食品に関わる主な修正点は次のとおりである.生鮮食品について,機能性が報告されている一日当たりの機能性成分の摂取量の一部(50% 以上)を摂取できると表示可能になったこと,届け出確認の迅速化,軽症者データの取り扱い範囲の拡大,専ら医薬品として使用される原材料を元から含む生鮮食品や加工品について届け出しようとする食品の機能性関与成分が「専ら医薬品リスト」に含まれる場合の消費者庁における確認過程の明確化(医薬品に該当しなければ上記リストに記載されていても機能性表示食品として届け出可能<成分例:デオキシノジリマイシン,γ- オリザノール>),届け出対象成分の拡大など.今後の生鮮食品開発では,機能性関与成分のばらつきに対する栽培・加工的制御技術開発,農産物の全数検査システムの開発,複合的な作用の検証方法,消費者が「食による予防,医食同源」の考え方を身につけて機能性食品を適正に喫食するための教育と消費者への正しい情報発信などの課題がある.
著者
五十嵐 庸 中村 果歩 坂本 廣司 長岡 功
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.29-33, 2019 (Released:2020-01-01)
参考文献数
15

ヒト軟骨培養細胞株における,オートファジーマーカー分子の発現に対するグルコサミン(glucosamine,GlcN)の効果を検討した.その結果,LC3-IIやbeclin-1などの発現が,GlcNにより有意に増加することが明らかとなった.また,同時にサーチュイン(sirtuin,SIRT)1遺伝子の発現も,GlcNにより有意に増加した.さらに,GlcN添加によるLC3-IIの発現増加が,SIRT1阻害剤であるEX527で阻害された.さらに,mammalian target of rapamycin(mTOR)の関与を検討するために,mTORの標的分子であるS6 キナーゼ(S6 kinase,S6K)のリン酸化を調べたところ,S6Kのリン酸化に対してGlcNは影響しないことが明らかとなった.そこで,mTORを介さずにオートファジーを負に制御するp53のアセチル化状態を検討したところ,p53のアセチル化がGlcNによって有意に減少することが明らかとなった.なお,SIRT1は脱アセチル化酵素としてp53を脱アセチル化し不活性化することが知られている.以上の結果より,GlcNは軟骨細胞においてSIRTタンパク質の発現を亢進し,その標的分子であるp53を脱アセチル化し不活性化することによって,オートファジーを誘導するというメカニズムが考えられた.
著者
中谷 美咲 関 洋子
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.FFR2020_p65-74, 2020-08-11 (Released:2020-09-10)
参考文献数
45

野菜や果物は長時間の保存が難しく,一般的には野菜はピクルスや漬物,果物はジャムに加工して保存されてきた.しかし,加工の際の酸処理や加熱によって,野菜・果物に含まれる酵素を不活性化してしまう,加熱により総ビタミンC 量が低下するという問題があった.そこで最近では果物や野菜を生のまま砂糖漬けにして発酵させることで,有用な物質の破損なしに加工・保存する方法がある.果物や野菜を砂糖漬けにすることで,数日で野菜や果物から出てきた水分で砂糖が溶け,シロップ漬けの状態となる.このシロップは酵素シロップと呼ばれ,発酵による有用成分の増加および機能性の向上,がん細胞増殖抑制作用が期待できる.そこで,本研究ではりんごを利用した酵素シロップに着目し,発酵によるがん細胞増殖抑制作用,抗酸化作用,α-グルコシダーゼ阻害作用を調査した.また,発酵に関与している微生物の同定を行った.りんごは青森県の早生ふじりんごを用い,16 分割にした後,1.1 倍の砂糖と共にガラスの容器で2 週間室温に保存し,発酵7 日目と14 日目のシロップを用いてマウス白血病細胞株P388 の細胞増殖への影響,抗酸化活性,α-グルコシダーゼ阻害活性を測定した.がん細胞増殖抑制作用を評価するため,細胞数を調整したマウス白血病細胞株P388 に発酵7 日目と14 日目の酵素シロップまたは滅菌水を添加し,37°C で7 日間5.0% CO2 環境で培養し,p388 の細胞数を比較した.酵素シロップの抗酸化作用はDPPH ラジカル消去活性を,α-グルコシダーゼ阻害作用はα-グルコシ ターゼ阻害活性を測定した.発酵に関与している微生物を同定するため,酵素シロップを適宜希釈し標準寒天培地に塗抹し,35℃で2 日間培養した.2 日後,出現したコロニーの微生物同定を行った.その結果,がん細胞増殖抑制作用の評価では,発酵7 日目および14 日目の酵素シロップでp388 細胞の増殖抑制効果が確認された.抗酸化作用の評価では,酵素シロップの抗酸化活性と比較してリンゴ自体の抗酸化活性で高い値が確認された.α-グルコシダーゼ阻害作用の評価では,発酵7 日目および14 日目の酵素シロップで高いα-グルコシダーゼ阻害活性が確認された.また,発酵に関与した微生物を同定した結果,相同値97%でMetschnikowia pulcherrima であった.以上のことからリンゴを利用した酵素シロップはがん細胞増殖抑制作用,α-グルコシダーゼ阻害作用が確認され,発酵に関与している微生物はMetschnikowia pulcherrimaであることがわかった.
著者
蒲原 聖可
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.16, 2020

<p><b>背景</b>:地方自治体とヘルスケア企業との公民連携による健康寿命延伸産業創生および課題解決型保健事業の取り組みが散見されるようになった.</p><p><b>目的</b>:公民連携による健康づくり事業としての非対面型減量プログラム「さかいまちメタボ脱出プロジェクト」(茨城県境町)の有用性を検証する.</p><p><b>方法</b>:茨城県猿島郡境町在住の成人肥満者を対象に,ICT(Information and Communication Technology;情報通信技術)対応・非対面型減量プログラムを構築し,2017 年11 月から2018 年2 月の間に,機能性食品素材を含むフォーミュラ食(置き換え食)の利用を通じた,肥満改善施策を「さかいまちメタボ脱出プロジェクト」として実施した.本プロジェクトでは,(1)管理栄養士を中心とした医療有資格者による非対面型支援,(2)1 日1 食を目安にフォーミュラ食を利用,(3)減量に関する啓発情報の定期配信,(4)運動の啓発動画を提供,(5)低エネルギー食品や機能性食品成分の利用に関する案内を行った.なお,フォーミュラ食として用いた「DHC プロティンダイエット」の標準的な製品は,1 袋50 g 当たりのエネルギー量が167 kcal であり,タンパク質20.1 g,推奨量の約3 分の1 のビタミン類およびミネラル類,その他の機能性食品素材を含有する.また,希望者に対して,プログラム実施前後において,腹部CT撮影による内臓脂肪面積を測定した.さらに,プロジェクト終了時に,住民参加型イベント「さかいまちダイエットアワード」を開催した<sub>.</sub></p><p><b>結果</b>:87 名(男性42 名,女性45 名,平均年齢47.2 歳)がプロジェクトを完了した.12 週間のプログラム前後の変化(mean ± SE)は,BMI(kg/m <sup>2 </sup>)が29.0 ± 0.3 から27.1 ± 0.4 へ,体重(kg)が77.0 ± 1.3 から71.4 ± 1.3 へ,腹囲(cm)が96.1 ± 0.9 から89.1 ± 0.9 へ,それぞれ有意に減少した(<i>p</i><0.01).なお,参加者全員の減量の総計は,12 週間で337.8kg に達した.さらに,52 名が腹部CT撮影による内臓脂肪面積の評価を受け,介入前の145.62 ± 7.62 cm<sup> 2 </sup>から,介入後に119.65 ± 8.04 cm<sup> 2 </sup>へ有意な減少を認めた(<i>p</i><0.01).</p><p><b>考察</b>:肥満の改善という行政課題に対する取り組みとして,公民連携による健康づくりとして,非対面型減量プログラムを実施し,一定の有効性が認められた.今後,ファンクショナルフード素材を扱うヘルスケア企業の可能性として,公民連携に基づく健康寿命延伸産業創生および課題解決型保健事業の取り組みを継続する.</p>
著者
染谷 明正 坂本 廣司 長岡 功
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.67-71, 2019 (Released:2020-01-01)
参考文献数
10

グルコサミンは,関節の痛みや違和感などの症状を緩和することを期待し,サプリメントとして使用されている.そして,このような関節症状の緩和にはグルコサミンの抗炎症作用が関与していると考えられている.われわれは,グルコサミンが関節滑膜細胞からの炎症性サイトカインの産生を抑制すること,そして,その抑制には O -N-アセチルグルコサミン( O -GlcNAc)修飾が関与していることを報告している.一方,炎症性サイトカインの産生には,転写因子NF-κBが重要な役割を果たしている.本研究では滑膜炎症におけるグルコサミンの炎症抑制機構を調べるため,ヒト関節滑膜細胞株MH7Aを用い,NF-κBの活性化に及ぼすグルコサミンの影響および, O -GlcNAc修飾との関連性について調べた. その結果,グルコサミンは,IL-1β刺激で起こるNF-κB p65サブユニットのリン酸化(活性化)や核への移行を抑制した.一方, O -GlcNAc修飾を阻害するアロキサンは,グルコサミンによるこれら抑制作用を消失させた.またグルコサミンは,IL-1β刺激によって起こるNF-κBとIκBα(NF-κBと結合して核移行を阻害するタンパク質)との解離を抑制し,アロキサンはこの抑制効果を消失させた. これらのことからMH7A細胞において,グルコサミンは O -GlcNAc修飾を介して,IL-1β刺激によって起こるNF-κBからの IκBαの解離を阻害し,NF-κBのリン酸化や核への移行を抑制することで,炎症性サイトカイン遺伝子の転写を抑制し,その産生を低下させる可能性が示唆された.
著者
工藤 倫子 小林 久美子 内藤 健太郎
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.34-41, 2019 (Released:2020-01-01)
参考文献数
19

生薬の一種であるオウゴンは,主に炎症の軽減やウイルス感染の治療のための漢方薬として伝統的に用いられている.近年の研究により,メラニン色素の産生を抑制する効果を持つことが新たに示され,色素沈着を改善する美白剤としても期待されている.しかしながら,それらの生理活性成分についての検証や作用メカニズムについての詳細な研究はあまりなされていない.本研究では,初めに137種類の植物抽出物中において,オウゴン抽出物がメラニン産生を最も強力に抑制する効果を持つことを示し,次いでメラニン産生抑制効果を示す生理活性成分がwogoninであること,その作用機序がメラニン産生に対し律速的に働く転写因子であるmicrophthalmia-associated transcription factor (MITF)の発現抑制であることを示す.また,これに加え,wogoninはメラノソーム輸送に対する阻害効果も併せ持つ二機能を有する成分であることを偶発的に見いだした.この効果はオウゴンの主成分であるbaicaleinなど他のフラボノイドでは見られないほか,メラノソーム輸送関連タンパク質であるmelanophilin (MLPH)を特異的に減少させるメカニズムによって生じていることを発見した.われわれの知見はオウゴン抽出物の美容分野における有益性を示唆するものであり,新しい色素沈着改善剤の開発の可能性が期待できるものである