著者
中道 圭一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.92, 2004

_I_.はじめに<br> 森林には,様々な植物群落が存在するが,気温・水・風・日射量・土壌など,多くの環境要因に対応した植生を持っている.なかでも山地や丘陵地では,斜面の方位,地形などによって地表面での水や熱の配分が変わり,局地的に環境が変化し,植生が変わり,土壌も変わることが知られている(ex.吉良,1983).そこで,山地や丘陵地の植生を明らかにするには,斜面の方位と斜面型の分類を行い,それに対応した植生調査が必要である.<br>_II_.研究地域概要と研究目的<br>瀬戸市南東部「海上の森」は,総面積約540ha,植生の約3分の2がコナラやアカマツなどの二次林で,その他はスギやヒノキの人工林が占める.多様性がある生態系を持ち,名古屋大都市圏で有数の里山である.航空写真判読から,戦中まで海上の森の樹木は,燃料として一様に伐採(丸刈り)され,森林は人間活動の影響を受けていたことがわかるが,その後,約50年間は石油・ガス燃料の普及に伴ってほとんど人為的影響が及んでいない.よって現在みられる森林は,自然の遷移に任された二次林である.<br> しかし,海上の森の植生は砂礫層地域と花崗岩地域で,明瞭に異なっている.砂礫層地域はモチツツジ‐アカマツ群集に属し,樹木の密度が低く,生育が不良な森林である.それに対して,花崗岩地域の植生は非常に豊かで,ケナザサ‐コナラ群集に属する生育の良い森林が広がっている.海上の森は,比較的狭い範囲で二次的遷移のスタートが同時であるのにも関わらず,現存植生に大きな違いが生じた点で重要であり,地質要因が植生の配置構造になんらかの作用をしている事が確認できるフィールドである.これらを踏まえて,海上の森の里山二次林について植生を定量的にあらわし,〔地形_-_地質_-_植生〕の関係性を明らかにすることを目的とした.<br>_III_.調査方法<br> 上記の2つの地質で,田村(1996)に従い,南向きの斜面を上部,中間,下部の3つに分類し,北向きの斜面からも1つ選定し,10m×10mの方形区を設定した.次に設定した計8方形区で毎木調査を行ない,種構成,胸高直径と樹高,材積などを明らかにした.また,ボーリングステッキを用いて土壌層を調査した.<br>_IV_.結果<br> 花崗岩地域は,全斜面型の高木層と南斜面の亜高木層・低木層の種構成に大きな変化はなかったが,北斜面の亜高木層・低木層は,特に常緑樹が多かった.また,全体に高木層と亜高木層の樹高に大きなギャップが見られた.一方,砂礫層地域では,上部斜面において高木層の優占種はアカマツだが,下部斜面に向ってアカマツとコナラの混合林へと変化していった.北斜面は,下部斜面と同様に混合林であった.全体に亜高木層・低木層は,人為的影響を受けた所に生育する種や,乾燥に強い種が見られた.各階層の生長量に差はなく,低木層から高木層まで連続的な生長分布を示した.また,花崗岩地域全体と砂礫層地域全体の材積を比較すると,花崗岩地域は,砂礫層地域の約3倍であり,最も生長のよい花崗岩上部の方形区と最も生長の悪い砂礫層上部の方形区を比較すると約8倍もの差があった.花崗岩地域の材積の大部分は,コナラ・アベマキが占めるが,砂礫層地域の大半は,アカマツが占めていた.花崗岩地域の北斜面は,南斜面に比べて生長が悪く,砂礫層地域の北斜面は,上部斜面に比べて生長が良くなっていた.<br>_V_.考察<br> 同一の気候下で遷移のスタートが同時であっても,約50年間で地形・地質要因の違いにより,植生の生長や種構成に違いが現われることが明らかとなった.それらの原因は,水分・土壌・日照条件などを反映していると考えられる.花崗岩地域の土壌は,岩石の風化により多大な植物有用元素が供給され,土壌層も厚いために保水力が高く,日射量の多い南斜面においては生長が非常に良くなる.北斜面では日射量が少ないので陰樹の生長が卓越する.一方,砂礫層地域の土壌は,チャート主体である為に風化されにくく,植物有用元素の供給が乏しい.その上,土壌中の空隙が多いので,降雨は素早く排水してしまい,土壌は常に乾燥状態であるので,樹木の生長は不良で環境耐性の強い種が多くなる.降雨は,上部斜面から下部斜面に向かって排水するので,上部斜面の土壌ほど水分量は少なく,薄くなることが,樹木の生長や遷移を緩やかにしている.