著者
中里見 敬 山根 泰志 中尾 友香梨 中里见 敬
出版者
九州大学大学院言語文化研究院言語研究会
雑誌
言語科学 (ISSN:02891891)
巻号頁・発行日
no.48, pp.95-119, 2013

九州大学附属図書館濱文庫所蔵の唱本について、これまでに第十一帙までの目録稿を作成した。本稿では引き続き第十二帙に収められる唱本について著録を行う。なお、著録の方針については、「濱文庫所蔵唱本目録稿(一)」(『言語科学』45, 2010)の前言をご参照いただきたい。 第十二帙80冊(ほかに欠本1冊)は西安刊行の唱本である。同じ西安唱本には第八帙13冊があったが、第八帙が刊本であったのに対して、第十二帙は石印本という違いがある。そのサイズは縦16.5~17cm、横10cm程度と、他の唱本が約15cm×10cmであるのと比べてやや縦長である。表紙は彩色の図画からなり、さらに黒白の挿図が冒頭に一枚置かれている(末尾の書影参照)。表紙には「陝西省城南院門德厚祥書局發行」とあるほか、第1冊から第81冊まで『千字文』の文字順に「天地元黄、宇宙洪荒」(元は玄の諱字。清康煕帝の諱・玄燁を避けた)と一文字ずつ順番が付けられている。また石印本であるために、木版本よりも一葉あたりの字数が大幅に増えた結果、一冊に三、四つの故事を掲載するものが多い。装丁について見ると、従来の木版本同様に一葉を二つ折りにして袋とじにしたものと、洋装本同様に一枚(半葉大)の両面に文字を印刷したものとが混在し、両者では紙質も異なる。唱本の印刷形態が刊本から石印本を経て鉛活字本へと変化する過渡期に位置するこのシリーズは、唱本の発展史を証する貴重な資料である。西安の唱本は、早稲田大学図書館の風陵文庫に義興堂書局および翊華書局の石印本が6種所蔵されており、濱文庫本と体裁が一致している。なお、濱一衛は1936年の旅行で西安を訪れていることから、そのときに入手した可能性が高い。