著者
中里見 敬
出版者
日本中國學會
雑誌
日本中国学会報 (ISSN:03873196)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.225-240, 2004

When and how was the recognition acquired that the human being is an existent endowed not only with external behavior but also with an inner world? How has Chinese literature represented the invisible inner world not yet expressed in words? Modern Western novels invented the art of melding a character's inner thoughts with the narrative voice by adopting the free indirect style. On what linguistic forms, then, have Chinese novels relied to report the characters' thoughts? In this article, we examine these questions in the context of issues that have arisen since the linguistic turn. That is to say, how did the Chinese language invent the "inner world"? And how was the "inner world" constructed in a Chinese context? In traditional vernacular stories, a character's inner world is often grasped in contrast to his or her external behavior. However, the narrator depicts both the inner and outer movements of the character from an omniscient point of view as if they are equally visible objects. In this regard, the rendering of a character's thoughts in the traditional vernacular story differs entirely from the invisible and mysterious inner world in a modern sense. In Wu 呉 dialect novels of the late Qing 淸,such as Haishang hua liezhuan 海上花列傳 (Lives of Shanghai Flowers; 1892-93), jiuwei gui九尾亀 (Nine-Tailed Tortoise; 1906-10), and jiuwei九尾狐l (Nine-Tailed Fox; 1908-10), the characters speak in the Wu dialect, but interestingly the same people think to themselves in Mandarin. This phenomenon can be linguistically interpreted as follows. Whereas their utterances are given in direct speech, thereby introducing the Wu dialect into the dialogue, their thoughts are quoted in indirect speech, which inevitably results in stylistic adjustments in Mandarin by the narrator. This linguistic fact would suggest that the assumption that interior thought is more essential than one's external voice does not apply to traditional Chinese narratives. However, the direct quotation of inner thoughts appears in the final stage of the traditional novel in the early twentieth century, in Wu Jianren's 呉趼人vernacular novel Henhai恨海 (The Sea of Regret; 1906) and in the literary novel Yuli hun 玉梨魂 written by Xu Zhenya 徐枕亞 in 1914. Significant use of the free direct/indirect style enables the character's inner emotions to be revealed to readers without any mediation on the part of the narrator. It was the stylistic innovations of these early twentieth-century novels that invented the human "inner world" in Chinese literature, and this led to the establishment of the modern vernacular style in the Literary Revolution, as well as the prolific achievements of the May Fourth novels.
著者
中里見 敬 山根 泰志 中尾 友香梨 中里见 敬
出版者
九州大学大学院言語文化研究院言語研究会
雑誌
言語科学 (ISSN:02891891)
巻号頁・発行日
no.48, pp.95-119, 2013

九州大学附属図書館濱文庫所蔵の唱本について、これまでに第十一帙までの目録稿を作成した。本稿では引き続き第十二帙に収められる唱本について著録を行う。なお、著録の方針については、「濱文庫所蔵唱本目録稿(一)」(『言語科学』45, 2010)の前言をご参照いただきたい。 第十二帙80冊(ほかに欠本1冊)は西安刊行の唱本である。同じ西安唱本には第八帙13冊があったが、第八帙が刊本であったのに対して、第十二帙は石印本という違いがある。そのサイズは縦16.5~17cm、横10cm程度と、他の唱本が約15cm×10cmであるのと比べてやや縦長である。表紙は彩色の図画からなり、さらに黒白の挿図が冒頭に一枚置かれている(末尾の書影参照)。表紙には「陝西省城南院門德厚祥書局發行」とあるほか、第1冊から第81冊まで『千字文』の文字順に「天地元黄、宇宙洪荒」(元は玄の諱字。清康煕帝の諱・玄燁を避けた)と一文字ずつ順番が付けられている。また石印本であるために、木版本よりも一葉あたりの字数が大幅に増えた結果、一冊に三、四つの故事を掲載するものが多い。装丁について見ると、従来の木版本同様に一葉を二つ折りにして袋とじにしたものと、洋装本同様に一枚(半葉大)の両面に文字を印刷したものとが混在し、両者では紙質も異なる。唱本の印刷形態が刊本から石印本を経て鉛活字本へと変化する過渡期に位置するこのシリーズは、唱本の発展史を証する貴重な資料である。西安の唱本は、早稲田大学図書館の風陵文庫に義興堂書局および翊華書局の石印本が6種所蔵されており、濱文庫本と体裁が一致している。なお、濱一衛は1936年の旅行で西安を訪れていることから、そのときに入手した可能性が高い。
著者
中里見 敬
出版者
九州大学附属図書館
雑誌
きゅうとNewsletter (ISSN:18816509)
巻号頁・発行日
vol.2, no.5, pp.3-4, 2008-02

九州大学附属図書館六本松分館に所蔵される濱文庫は、1930年代の中国演劇に関する生の資料を多く含む特色ある文庫である。その中から戯単、レコード、唱本などを数点、写真と解説を加えて紹介する。
著者
中里見 敬
出版者
東北大学
巻号頁・発行日
1994

博士論文
著者
中里見 敬
出版者
九州大学附属図書館
雑誌
九州大学附属図書館研究開発室年報 (ISSN:18813542)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.1-11, 2017-08

2016年に中国で出版・公開された劉承幹『求恕齋日記』および「1939年周作人日記」の中に,濱一衛に関する記述が見つかった.九州大学附属図書館濱文庫に所蔵される中国演劇資料を収集した濱一衛の中国留学・再訪に関するこれらの新資料を紹介し,あわせて「1939年周作人日記」によって由来が明らかになった濱文庫所蔵『春水』手稿本について論じる.
著者
中里見 敬 太田 一昭 波多野 真矢 田村 容子 松浦 恒雄 藤野 真子 森平 崇文 長嶺 亮子 平林 宣和 三須 祐介 加藤 徹 西村 正男
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

1.昨年決定した戯単の解説執筆の分担に基づき、戯単解説の執筆を進めた。原稿の完成した6点の解説は、中里見敬・潘世聖編『「『春水』手稿と日中の文学交流――周作人、冰心、濱一衛」国際シンポジウム論文集』(第3冊資料編)に収録し、あわせて中国語訳も掲載した。2.濱文庫所蔵のレコードについて、基礎的なデータの採録をほぼ終えた。レコードの音声をデジタル化する作業については、音質その他の技術的な問題があり、作業が中断している。早期に開始できるよう対策を講じたい。3.濱文庫に所蔵される冰心の詩集『春水』(1923)が、作者自筆の手稿本だと判明した。さらにこの手稿が周作人から日本人留学生・濱一衛に贈られた経緯も明らかになり、『中国現代文学研究叢刊』2017年第6期(総第215期)に中里見敬「冰心手稿藏身日本九州大学:《春水》手稿、周作人、濱一衛及其他」として発表した。その後、周家・濱家双方の尽力により、書簡15通が発見された。さらに周作人から濱一衛に贈られた書4点(周作人、銭玄同各1点、兪平伯2点)も見つかり、九州大学附属図書館に寄贈されることとなった。このように、周作人と濱一衛の交流に関する研究は短期間のうちに大きな進展を見せた。4.研究会・シンポジウムを2回開催した。(1)研究集会「演劇アーカイブの最前線:イギリスと中国」平成29年6月17日(九州大学伊都キャンパス)発表者:三須祐介、松浦恆雄、太田一昭。(2)「『春水』手稿と日中の文学交流――周作人、冰心、濱一衛」 国際シンポジウム、平成30年2月6日(九州大学新中央図書館)基調講演:周吉宜、趙京華、小川利康、李莉薇。学術シンポジウム:顧偉良、平石淑子、佐藤普美子、濱田麻矢、松岡純子、牧野格子、岩﨑菜子、宮本めぐみ、虞萍。あわせてシンポジウム論文集(全3冊、554頁、28名執筆)を刊行し、戯単をはじめとする濱文庫資料の展示を行った。
著者
中里見 敬
出版者
山形大学
雑誌
山形大學紀要. 人文科學 (ISSN:05134641)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.233-249, 1994-01

法國語言學者 Émile Benveniste 指出的一對著名概念,即叙述文 discours 與歴史文 histoire 闡明了語言的普遍性的一個側面。漢語沒有形態變化,所以不可能像印歐語那樣根據時制和入称等形態來區別。但漢語的時間指示詞的用法却明確地反映出述文/歴史文的不同。漢語文本中也有敍述文/歴史文這雙重性質,它把敍述者的敍述時間/作中人物的故事時間表現得十分清楚、不會發生混乱,從而使敍述故事或故事被敍述得以成立。 本文將探討辨別敍述文/歴史文時用來作爲指標的時間指示詞。在現代漢語中,''如今"現在" "昨天~今天~明天" 這一系列是屬於敍述文的,而"此時" "前日~此日~次日" "這時候""前一天~這一天~第二天" 這一系列是屬於歴史文的。同様的現象也存在於古代漢語的白話文和文言文當中,但作爲指標的個別指示詞由於詞語的歴時性變化有些感變動。 Benveniste 的理論後來發展成熱奈特 Gérard Genette 的敍事 récit/ 敍述 narration/ 故事 Histoire 之分,從而也可以看出以語言學爲基礎的文學研究能不斷開拓新的領域的可能性。只有正確地把握語言的基本性質,纔能進行踏踏實實的文學文本分析。巴爾特 Roland Barthes 曾説 : "研究文學的人有時要求還沒有出現的語言學也是很有必要的。" 這句話對文學研究者是極富有啓發意義的。
著者
石 汝杰 中里見 敬 西山 猛
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.『呉語読本』音声データ作成の準備研究代表者の石汝杰が、7-8月に中国へ渡航し、『呉語読本』の一部について録音を行った。しかし、音声の著作権の問題の解決、および音声データの整理に、さらに時間を要するため、公開には至らなかった。2.『呉語読本』増訂本作成の準備『呉語読本』初版本に未収録で、呉語文献として重要なものを選定し、校訂のうえ電子テキスト化し、注釈作成の準備を行った。この増訂本については、平成16年度の出版をめざして、科学研究費研究成果公開費を申請した。また、これ以外にも、呉語資料を発掘・収集すべく、関連する資料の調査を行った。3.研究会の定期的開催本科研費メンバーを中心に、九州大学の大学院生等を含めて、呉語の研究会を毎週水曜日午後に、定期的に継続して開催した。研究会において上記2の作業を行うとともに、『呉語読本』初版本の一部を日本語に翻訳した。常時参加者は、平田直子(学術振興会特別研究員・北九州大学非常勤講師)、朴春麗(九州大学大学院生)。この研究会は、本研究課題を推進する母体であるとともに、若手の呉語研究者を育成する格好のトレーニングの場ともなった。4.研究成果報告書の作成以上の研究活動の成果として、論文・翻訳編と資料編の2冊からなる研究成果報告書を作成し、呉語研究者・研究機関に送付した。第一冊に収録した論文は、《江蘇新字母》同音字表、川沙方言同音字表(以上、石)、古代漢語文法研究における時期区分の再設定(西山)、呉語小説における内面引用(中里見)、『古今韻表新編』における中古上声全濁音字について(平田)ほかの各編。翻訳は『九尾亀』第163回(一部)、『九美図』第28回除夕、『鉢中蓮』第8出の各編、さらに石による呉語文献書目札記を収めた。第二冊は「蘇州評弾記言記譜」で、蘇州評弾を歌詞と楽譜によって再現するものであり、音声データの書面版ともいえる貴重な記録である。