著者
中野 一茂 人見 優子 Kazushige Nakano Hitomi Yuko
巻号頁・発行日
no.26, pp.39-53, 2010-03-31

介護の現場では、2000 年の介護保険法導入を契機に、施設ではより多くの介護福祉士を求め、そのニーズは高まっている。しかし現実には、施設における介護職員の確保は非常に困難な状況にあり、介護職の労働条件・労働環境の整備の劣悪化による離職者が多いと予測される。この介護者の離職問題にふれる場合、「利用者・家族の介護職員に対する暴力」の問題もその関連する要因の一つに考えられる。本研究では、高齢者施設の介護現場において利用者・家族の暴力が関連してどのような問題が生じているのかを把握するために介護職員を対象とした実態調査をおこない、高齢者福祉施設における介護職員の心身に関連した労働環境について考察した。 その結果、施設内で利用者から介護職員が何らかの暴力を振るわれている実態が明らかで、他国をみても特異な結果ではないことが明らかとなった。また何らかの暴力を受けている介護職員は、それを個人的要因あるいは、利用者の疾病に起因するものや自分の中の問題として内包してしまう傾向が強い。内面の自己の価値基準を抑圧することにより、自己の感情を操作し、介護業務を行っている実態があり、感情労働との関連が深かった。またそのことは、離職問題へと発展することが予測された。 今後は、介護業務を感情労働と位置づける研究の蓄積、さらなる実態調査からの結果蓄積による「施設内暴力」の定義・指針作りが急務であると示唆された。
著者
中野 一茂
出版者
共栄学園短期大学
雑誌
共栄学園短期大学研究紀要 (ISSN:1348060X)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.29-38, 2010-03-31
被引用文献数
1 1

高齢者は筋力、知覚、精神機能の低下等によって予期せぬ事故に遭遇する。それらの中でも転倒・転落は生命の危険、骨折等の障害をもたらす。またその治療の過程において容易に筋力低下や関節拘縮などの廃用症候群と呼ばれる2 次障害や合併症などを引き起こし、生活機能の自立度低下につながったりする。 そのため介護現場では、転倒・転落を防止するリスクマネジメントへの取り組みがなされるようになった。リスクマネジメントにおいて事故の内容やその要因についての調査・分析が重要な課題であることは明らかであるが、高齢者の安全を守りつつ転倒・転落事故発生の対策を考えていくには、発生の傾向と要因の検討は必要不可欠である。 特別養護老人ホーム内(以下、施設と略する)の転倒・転落の特徴、事故発生に関連する諸要因の分析は、国内の先行研究においても充分に行われているとはいい難い。そこで本研究では、A 市内の特別養護老人ホーム4 施設の過去2 年間の事故報告書を用いて、先行研究を参考にして集計を行った。そのデータを基にデータベースを作成して転倒・転落事故の特徴や、事故発生に関連する要因の分析を行った。今回筆者は、その調査結果の中から高齢者本人の直接的な行動、特に排泄時の転倒・転落事故が多いということに着目し、考察を加えることにした。