著者
中野 加奈子
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.33-44, 2013-03-01

近年,ホームレス支援現場では,ホームレス状態に陥った人のなかに精神障害者や知的障害者が含まれていることが指摘されるようになった。この背景には,非正規労働者が増加するなど雇用条件が悪化し,貧困状態に陥りやすい状況となっていることがある。しかし,雇用問題だけではなく,我が国の知的障害者への教育や福祉においては,軽度の知的障害は見逃されやすかった,という問題もあると思われる。例えば,療育手帳制度は,身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳と比べると法的根拠が曖昧で判断基準も都道府県によって異なっているなど,特殊な状況となっている。そうした制度が抱える課題とともに,貧困の世代間連鎖や家族問題が関連し,より障害が潜在化する傾向があるのではないだろうか。本稿では,実際にホームレス状態に陥った知的障害者のライフコースから,彼らが抱えてきた問題や,彼らをホームレス状態に追いやる社会や制度的課題について検討する。
著者
中野 加奈子
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.55-70, 2009-03-01

ホームレス問題が社会問題化した1990年代後半以降には,ホームレス問題に取り組む研究者や支援者達によって様々な調査研究がなされ,ホームレス状態におかれる人々の生活実態が明らかになってきた。また2002年には「ホームレスの自立支援等に関する特別措置法」が制定されるなど政策的にも大きな動きがあった。しかし,これまでに生活再建に関わるソーシャルワークの課題として,Iホームレス問題」が取り上げられてきたことは少なかったように思われる。そこで本稿では,ホームレス問題についての先行研究や,制度政策の変遷,また実態調査の結果を振り返りながら,ホームレスの生活実態や,生活問題を捉える視点について考察し,ホームレスの生活史から,「ホームレス問題」を捉える事の重要性を検討する。そして,ホームレスの生活問題の特質と生活が変化していく過程を捉え,生活再建の意味とソーシャルワークに求められる機能を検証していく。
著者
中野 加奈子
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大學大學院紀要 (ISSN:13442422)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.221-235, 2007-03-01

退院援助は、日本に医療ソーシャルワークが導入されて以来取り組まれてきた医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)の主要な業務の一つである。これまでの歴史の中で、MSWは、社会問題としての生活問題の解決に取り組む実践を積み重ね、実践の中から退院援助の理論を構築してきた。しかし一方で、これまで「退院問題」「退院計画」「退院援助」という用語は曖昧な使われ方をしており、さらに、医療制度の様々な「改正」によって、医療ソーシャルワークが機能し得ない状況が起こりつつある。本論では、上記の用語の概念整理を行い、「退院援助」において、MSWが患者・家族の様々な生活問題を捉え、それらの解決・調整をしながら、患者・家族の主体形成にも関わる援助を行っていることを明らかにした。さらに、今後は、生活全体を捉える視点からの生活問題のアセスメントや、退院援助対象者のスクリーニングの「標準化」が必要であり、さらに退院後のフォローアップが必要となることを考察していくものである。