著者
中野 加奈子
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.33-44, 2013-03-01

近年,ホームレス支援現場では,ホームレス状態に陥った人のなかに精神障害者や知的障害者が含まれていることが指摘されるようになった。この背景には,非正規労働者が増加するなど雇用条件が悪化し,貧困状態に陥りやすい状況となっていることがある。しかし,雇用問題だけではなく,我が国の知的障害者への教育や福祉においては,軽度の知的障害は見逃されやすかった,という問題もあると思われる。例えば,療育手帳制度は,身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳と比べると法的根拠が曖昧で判断基準も都道府県によって異なっているなど,特殊な状況となっている。そうした制度が抱える課題とともに,貧困の世代間連鎖や家族問題が関連し,より障害が潜在化する傾向があるのではないだろうか。本稿では,実際にホームレス状態に陥った知的障害者のライフコースから,彼らが抱えてきた問題や,彼らをホームレス状態に追いやる社会や制度的課題について検討する。
著者
石坂 誠
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.1-18, 2016-03-01

「日本の社会をより良い社会に変革するには、ソーシャルワークが社会運動の一環として、改めてマクロ的な視野を取り戻さない限りは不可能ではないのか?」上記の言葉は、訓覇法子が述べたものである。本研究では、構造的に拡大・深化する貧困に対して、社会福祉、ソーシャルワークがどう対峙するのか、そしてそのあり方について明らかにしていきたいと考えた。研究方法としては、先行研究や統計資料等からの貧困の現況の把握と2013年に筆者が行った反貧困運動団体や脱貧困に取り組むソーシャルワーカーへのインタビュー調査結果から得たストーリーラインの分析、そして貧困者支援のソーシャルワークに関する先行研究の検討等から行なった。そして、訓覇の言う「社会正義や人間性の回復という価値基盤・原点」にたったソーシャルワーク実践のためには、ソーシャル・アクションや社会運動との協働が重要であるという結論に至った。貧困社会正義マクロ的な視野ソーシャル・アクション社会運動
著者
竹森 美穂
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.47, pp.19-34, 2019-03-01

本稿は,近年の社会福祉に関する政策動向の中で,ソーシャルワークがマネジメントに矮小化される状況に対する危機感から,ソーシャルワーカーの現代的専門職像を考察することを意図したものである。専門職論の系譜を手掛かりに,自律性と管轄権が専門職の鍵概念であること,そしてこの二者は国家との関係性によって影響を受けるものであることを確認した。新自由主義政策の影響を受けた現代ソーシャルワークは本来の多様な機能が十分に発揮されず,マネジメントの比重が重くなっていることを指摘し,同じく現在の我が国の政策によって共助と公助の衰退の上に成り立つ地域共生社会の担い手としての「参加」を求められる人々と,ソーシャルワーカーの向き合い方を手掛かりに現代的なソーシャルワーカー像を考察した。 ソーシャルワーカーは,政策の意図する人々の「参加」を促すのではなく,共同主体的関係性の再構築に協働的志向で参画することが求められる。専門職像ソーシャルワーカー参加協働性共同主体的関係性
著者
中野 加奈子
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.55-70, 2009-03-01

ホームレス問題が社会問題化した1990年代後半以降には,ホームレス問題に取り組む研究者や支援者達によって様々な調査研究がなされ,ホームレス状態におかれる人々の生活実態が明らかになってきた。また2002年には「ホームレスの自立支援等に関する特別措置法」が制定されるなど政策的にも大きな動きがあった。しかし,これまでに生活再建に関わるソーシャルワークの課題として,Iホームレス問題」が取り上げられてきたことは少なかったように思われる。そこで本稿では,ホームレス問題についての先行研究や,制度政策の変遷,また実態調査の結果を振り返りながら,ホームレスの生活実態や,生活問題を捉える視点について考察し,ホームレスの生活史から,「ホームレス問題」を捉える事の重要性を検討する。そして,ホームレスの生活問題の特質と生活が変化していく過程を捉え,生活再建の意味とソーシャルワークに求められる機能を検証していく。
著者
千 恵蘭
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.53-68, 2017-03-01

障害者は社会生活上の様々な場面で差別の対象となっており,雇用は,その差別が最も発生しやすい場面である。国際社会は,障害を理由とする差別の排除に向けての取り組みを積極的に行っており,特に,ILOは1955年に「ILO99号勧告」を示し,保護雇用制度など障害者の労働を支援するための方策を明らかにしている。障害のある人の基本的人権を明らかにし,積極的に保障していくことへの必要性がより強くなり,2006年の国連総会では,「障害者の権利に関する条約」が採択された。本研究論文は,誰もが社会に参加できる「排除しない社会」「包摂する社会」の実現と障害者権利条約の「合理的配慮」の精神に基づく障害者の就労に関する社会的支援のあり方について取り組むことを課題としている。福祉的な支援と一般的な就労が同時に実現できる制度の確立に向けて,つまり,福祉と労働の融合をめざすことができる障害者雇用全般に関する具体的な場のあり方を示していく必要がある。障害者権利条約合理的配慮福祉と労働の融合社会的支援
著者
隅河内 司
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.1-17, 2015-03-01

障害者相談支援により,市町村の障害者福祉事業を充実させるためには,社会資源の改善・開発を推進する実践として,生活問題を把握し,地域課題を明確化するとともに,それを解決する計画化・事業化に取り組む「実践課題の政策化」が必要である。本研究では,障害者相談支援システムにおける「実践課題の政策化」の現状について,そのシステムの中核となる基幹相談支援センターを対象にした調査をもとに探求した。結果としては,「一般的な相談」を含めた安定的な相談支援体制の構築,相談支援事業所等関係機関の緊密な連携のための環境づくりや技術向上に対する福祉専門職の意識と行動,自立支援協議会の活性化などの必要性が課題として明らかになった。今後,「実践課題の政策化」に向け,基幹相談支援センターの充実・強化が求められる。
著者
石坂 誠
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.81-98, 2018-03-01

現在も貧困は拡大し,深刻化し続けている。それに対して貧困・社会的排除に対する制度・政策とソーシャルワークは機能しているとは言えない状況がある。例えば生活保護受給を窓口で制限する等,「制度からの排除」が日常化しており,制度を利用する権利の擁護等,権利擁護の実践がソーシャルワークに求められている。こうした状況の中,ソーシャルワークは貧困・社会的排除にどう対峙していくのか,貧困・社会的排除に対峙するためのソーシャルワークの理論や方法とは何かについて論じた。研究の方法は,先行研究の検討,生活保護をめぐる2つの事件の分析と筆者が行ったグループインタビューの分析から行った。 結論として,貧困・社会的排除に対峙するためのアセスメントの不足,不十分な権利擁護等が明らかになった。そしてソーシャルワークにおいては,ケアではなくコントロールへの偏重があり,反抑圧主義の実践が重要であることが明らかになった。制度からの排除社会的排除権利擁護反抑圧主義の実践
著者
奥野 啓子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.42, pp.17-33, 2014-03-01

高齢社会に伴う社会問題を発端として介護の社会化が進んでいる。高齢化による福祉ニーズの多様化に伴い,「量の確保」に加え「質の確保」が新たな課題として取り上げられ,介護の専門性が新たな問題として,問われ出している。本研究の目的は,組織としてとりくんでいるグループ会議と,個人の経験をインタビュー調査をすることで,実践場面におけるケアワーカーの専門性を明らかにすることである。調査は介護老人福祉施設に勤務するケアワーカーを対象に実施した。取材し得られたデータは,KJ 法を用いて統合し,その構造を明らかにした。介護の専門性は「ケアに潜む5 つの罠」「空転する思い」といった2 つの〈不全〉に流されることなく,価値に根拠をおき,そこに知識や理論が加わり,総体としての介護過程を実践し,「経験の質」「共有の質」があがり,その結果としてよい評価ややりがいといったケアワーカーにとっての強みと独自性が発揮されることまでを含むことが,本研究によって明らかになった。ケアワーカー専門性実践場面
著者
石坂 誠
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.44, pp.1-18, 2016-03-01

「日本の社会をより良い社会に変革するには、ソーシャルワークが社会運動の一環として、改めてマクロ的な視野を取り戻さない限りは不可能ではないのか?」上記の言葉は、訓覇法子が述べたものである。本研究では、構造的に拡大・深化する貧困に対して、社会福祉、ソーシャルワークがどう対峙するのか、そしてそのあり方について明らかにしていきたいと考えた。研究方法としては、先行研究や統計資料等からの貧困の現況の把握と2013年に筆者が行った反貧困運動団体や脱貧困に取り組むソーシャルワーカーへのインタビュー調査結果から得たストーリーラインの分析、そして貧困者支援のソーシャルワークに関する先行研究の検討等から行なった。そして、訓覇の言う「社会正義や人間性の回復という価値基盤・原点」にたったソーシャルワーク実践のためには、ソーシャル・アクションや社会運動との協働が重要であるという結論に至った。貧困社会正義マクロ的な視野ソーシャル・アクション社会運動
著者
奥野 啓子
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.17-33, 2014-03-01

高齢社会に伴う社会問題を発端として介護の社会化が進んでいる。高齢化による福祉ニーズの多様化に伴い,「量の確保」に加え「質の確保」が新たな課題として取り上げられ,介護の専門性が新たな問題として,問われ出している。本研究の目的は,組織としてとりくんでいるグループ会議と,個人の経験をインタビュー調査をすることで,実践場面におけるケアワーカーの専門性を明らかにすることである。調査は介護老人福祉施設に勤務するケアワーカーを対象に実施した。取材し得られたデータは,KJ 法を用いて統合し,その構造を明らかにした。介護の専門性は「ケアに潜む5 つの罠」「空転する思い」といった2 つの〈不全〉に流されることなく,価値に根拠をおき,そこに知識や理論が加わり,総体としての介護過程を実践し,「経験の質」「共有の質」があがり,その結果としてよい評価ややりがいといったケアワーカーにとっての強みと独自性が発揮されることまでを含むことが,本研究によって明らかになった。
著者
髙橋 利博
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.48, pp.1-18, 2020-03-01

本研究の目的は,岐阜市の繊維産業と高齢者の貧困を縫製加工業に従事してきた高齢者の実態から分析し,その要因を明らかにすることにある。戦後の岐阜市は,縫製加工業が基幹的産業として発達してきた。しかし,グローバル化や安価な製品の輸入により縫製加工業は衰退の危機にあり,これらの事業所に携わる高齢者の生活は,不安定な収入による貧困を伴う。『国民生活基礎調査』は高齢者の貧困層の広がりを示しており,岐阜市の生活保護世帯と国民保険料滞納世帯も増加している。これらの貧困層に対する社会保障が機能しておらず,逆に高い公的保険料が市民生活の困難性をもたらす。このように産業構造の転換と社会保障の後退が労働者層への貧困の要因を作っているが,求められるのは生活に困っている国民を救う社会保障の充実である。高齢者の貧困産業構造国民健康保険生活保護国家責任
著者
松田 尚子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.48, pp.53-70, 2020-03-01

本研究では,介護現場における人手不足について,その要因と現在展開されている人材確保政策とを対比した上で,人手不足を改善するための方策について検討した。人手不足の根本的な要因は,介護労働の担い手として劣悪な労働条件でも確保し得る人材(女性,若年層,ボランティア等)を充ててきたことと,介護保険法の施行により付加された「営利性」が労働条件のさらなる悪化と介護労働の変容を招いたことにある。ところが,人材確保政策の主軸は「新たな担い手の創出」であり,さらには,介護労働者の労働条件と介護サービスの利便性とが天秤にかけられており,実態に即した対策とは言い難い状況にある。 介護保険制度は国民への介護保障の柱であり,人材確保はそのための手段に過ぎない。このことを踏まえ,まずは,労働環境の改善を図るとともに,それらとサービス利用とを完全に切り離し,「ケア」という一貫した概念を取り入れる必要がある。介護保険制度人手不足人材確保
著者
松田 尚子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.49, pp.127-144, 2021-03-01

本研究では,2007(平成19)年に示された「新人材確保指針」に基づく介護現場における人材確保政策と,A市内の介護保険関係の事業所に対して行なったアンケート調査により把握した人手不足の実態との整合性について検討した。その結果,労働環境改善の必要性や潜在的有資格者の再就業促進など,部分的には整合性が認められる施策が展開されている。しかし,給与水準の引き上げや労働負担を軽減するための施策については再考の余地があり,人手不足の根本的な要因を解決するという点では,現在の人材確保政策が十分であるとは言えない。人手不足の現状への対策を事業所の企業努力に委ねることは,各事業所の経営状況等を鑑みても,もはや限界である。特に,賃金水準の引き上げを含む介護現場の労働環境の改善や有資格者が離職した要因への根本的な解決策については,関係団体等や行政による取り組みの強化が必要である。介護保険制度人手不足人材確保
著者
小林 美津江
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.45, pp.19-35, 2017-03-01

本研究は,障害者の「知る権利」について,世界の主な差別禁止法と障害者権利条約の内容を検討し法理を明らかにすることを目指す。その理由は,知的障害者,自閉スペクトラム症,高齢者,外国人等一般の情報提供では理解できない人達の「知る権利」が充足されていないとの問題意識を持っているためである。「知る権利」は,憲法第21条の表現の自由から派生する権利だが,それだけでなく憲法第13条幸福追求権や第25条生存権など基本的人権と関わりを持つ重要な権利であると考えるからである。アメリカ公民権法の法理はADA法に適用され,その後,障害者権利条約に反映されている。「合理的配慮」は,直接差別禁止,間接差別禁止を目的としており,イギリスMCA法は自律支援の観点から重度障害者,認知症高齢者等に意思決定能力があるとしている。人としての「知る権利」の保障はどうあるべきで,社会の中でどう根ざすか課題である。知る権利公民権非差別平等合理的配慮障害者権利条約
著者
野口 さやか
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.48, pp.35-52, 2020-03-01

エンド・オブ・ライフ[ ターミナル期] に,在宅生活を希望するがん患者は多い。しかし,在宅での看取りは1割程度しかない。重度で死期が間近であるほど,家族の在宅介護の意思がターミナルでは揺らぎがちで,在宅生活を支え切れないとされている。重度要介護者の在宅生活の限界点を上げるために,看護小規模多機能型居宅介護(以下,看多機)は創設された。そのような看多機であれば,病状の変化や医療の内容決定によって生じる本人や家族の意思の揺らぎに対してもケアしやすく,利用者の意思決定支援にも有用ではないかと問いを立て,6事業所でインタビュー調査を行った。その結果,本人や家族の持つ様々な【心の揺れへの配慮】を行い,【"本人の意思を最優先"】にした【主体的な自己選択と自己決定】ができるように寄り添う【小回りのきく看多機】であれば,エンド・オブ・ライフの在宅がん患者の意思決定支援に有効な手段となりうる可能性が示唆された。意思決定支援エンド・オブ・ライフケア看護小規模多機能型居宅介護在宅看取り訪問看護師
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.48, pp.85-101, 2020-03-01

「自立支援」を打ち出した介護保険制度,そのスローガンであった「介護の社会化」は「介護予防重視」「自助・互助」へと国民に責任を押しつけ,信頼・期待を失いつつある。特に介護予防・日常生活支援総合事業の導入以降は,サービス利用からの強制的終了(卒業の押し付け)事例が起こり,これが介護予防ケアマネジメントの自立支援かのように評価される危機にある。 介護予防ケアマネジメントにおける「高齢者の自立・自立支援」について,居宅ケアマネジャーに対し調査を実施した。狭義のKJ法の結果,ケアマネジャーは「精神的自立」がカギであり,サービス等利用による継続支援は自立と考えていること,また制度と高齢者間の「かみ合わなさと困難さ」,現場での自立支援の実践と自身の専門性に葛藤を抱えていることが明らかになった。持続可能な制度という国の目標は,本来めざす高齢者の自立支援とケアマネジャーの専門性を揺るがしている。高齢者の自立支援介護保険制度介護予防ケアマネジメントサービス卒業専門性
著者
出口 博久
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.37-54, 2016-03-01

平成12年に介護保険制度がスタートし、介護老人福祉施設は身体拘束が全面禁止となったが、一定の条件を満たし家族等の同意を得た場合は、「緊急やむを得ない場合」の身体拘束として認められている。「緊急やむを得ない場合」の身体拘束であっても、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援に関する法律」の中に示された虐待に関する5つの定義の1つであり、身体的虐待である。そこで、「緊急やむを得ない場合」の身体拘束の実態調査はもとより、無くす為に必要な項目として抽出した「職員の意識」「研修・知識・介護技術」「施設組織・体制、連携」「利用者の理解」「家族の理解・協力」の5つの項目が、「緊急やむを得ない場合」の身体拘束を無くすことに成功した施設の取り組み実績と比較検証し、身体拘束をしない介護を重視した「質の高いサービス」を提供する為の組織や体制の整備に必要なことについての手がかりを得ることができた。高齢者施設身体拘束虐待施設介護質の高いサービス
著者
小林 美津江
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.19-35, 2017-03-01

本研究は,障害者の「知る権利」について,世界の主な差別禁止法と障害者権利条約の内容を検討し法理を明らかにすることを目指す。その理由は,知的障害者,自閉スペクトラム症,高齢者,外国人等一般の情報提供では理解できない人達の「知る権利」が充足されていないとの問題意識を持っているためである。「知る権利」は,憲法第21条の表現の自由から派生する権利だが,それだけでなく憲法第13条幸福追求権や第25条生存権など基本的人権と関わりを持つ重要な権利であると考えるからである。アメリカ公民権法の法理はADA法に適用され,その後,障害者権利条約に反映されている。「合理的配慮」は,直接差別禁止,間接差別禁止を目的としており,イギリスMCA法は自律支援の観点から重度障害者,認知症高齢者等に意思決定能力があるとしている。人としての「知る権利」の保障はどうあるべきで,社会の中でどう根ざすか課題である。知る権利公民権非差別平等合理的配慮障害者権利条約
著者
小堀 智恵子
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.1-18, 2010-03-01

次世代育成支援地域行動計画によって,保育現場は様々な事業を担いながら,一方で人材や空間などの保育条件が充分に保障されないという矛盾を抱えて,日々実践していると考えられる。本論は,前期行動計画が保育現場にどのような影響をもたらしたのか,その現状と課題について明らかにするために,統計資料を中心に分析をした。その結果,待機児童対策と特別保育事業は量的に拡大しているが,その中心は民間保育所であること,公立でも民間でも非正規職員が増加していることがうかがえた。さらに,一時保育と地域子育て支援センターは,困難な条件の下での実践を余儀なくし,全市的に見て充分機能しているとは言えない状況がみられた。公的保育制度を後退させながら数値目標を追う行動計画は「保育の質」を担保できず,保育現場においては,子どもの発達要求と保護者の保育要求を軸に,実践を組み立てていくことが課題であることを述べた。
著者
上田 純子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.49, pp.19-36, 2021-03-01

医療技術が進歩し,障害の重い子どもたちも就学するようになってきた。彼らを支える養育者の支援という視点からの研究は見られるようになった。しかし本人が直面している課題に焦点をあてた研究は,該当する子どもの数の相対的な少なさや本人による明確な意思表示の難しさ,生命の脆弱さなどの背景から,まだ少ない。そこで本稿では,学童期にある重度障害児本人及び家族が直面している課題の実態を,本人にとって生活の中心的な部分を占める学校生活を軸としながら,ある母へのインタビューをもとに明らかにすることを試みた。登校したい,家族と離れて過ごしたい,放課後は友だちと過ごしたい。そんな思いを実現すること,それを支えることがなぜ困難なのか。不平等及び多様性という観点を糸口として,彼らが直面している様々な課題に対する考察を試みた。超重症児家族不平等多様性