著者
中野 大三郎 伊澤 邦彦
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.235-241, 1996-09-30
被引用文献数
4

三重県伊賀盆地の上野市大谷と大山田村甲野の2地点で1988年から1991年に, カワニナを採集し, 母貝の殻高と胚数の関係及び殻高25-30 mmの母貝を用い保育嚢にみられる胚の発育段階による胚構成の季節変化から生殖周期, 保育期間, 年産仔数を検討した。年による生殖周期の基本パターンには大きな相違は認められなかった。夏には発生初期の胚が保育嚢に多く認められ, 1腹の平均胚数は大谷では約1000個, 甲野では約700個と最大を示し, 夏以降秋まで産仔による減少を続ける。越冬した胚は春に産出し, この季節の胚数は最小となり, 大谷及び甲野ともに約250個であった。卵は4月下旬から10月中旬までの長期間にわたり保育嚢に継続して供給され, 4月下旬から8月下旬までに供給された卵は6月下旬から10月中旬に稚貝となり産出されると推定された。8月下旬以降の供給された卵は越冬し, 翌春の4月以降6月までに稚貝となり産出されると推定された。温暖期の4月から10月の胚の成長速度に相違がないと仮定した場合, 再生産力として1母貝当り大谷で1550個/年から2100個/年, 甲野で約1200個/年が見積られた。