著者
中野 治房
出版者
The Botanical Society of Japan
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.654, pp.281-287, 1941

予ハ昭和十二年七月札幌ニ於ケル日本植物學會大會ノ折, 此問題ニ就イテ少シク講述スル所ガアツタガ, 今ヤ予ノ知見モ増進シ稍完備ニ近ヅイタト思バレルノデ此篇ニ纒メテ見タ次第デアル。<br>偖前囘ハ荒川沿岸ノをぎ-のからまつ基群叢ニ就イテノ統計ニ基イタノデアルガ, 今囘ハ更ニ之レニ加フルニ信州霧ケ峯ノすすき-みつばつちぐり基群叢ニ就イテノ研究ヲ以テシタノデアル。ソシテ前囘ハ一々個體ヲ數ヘタガ, 今囘ノモノハ頻度ノ統計カラ個體密度ヲ概算ニ依リ算出シテ見タノデアル。爰ニ斷ラネバナラナイコトハ個體ト云ツテモよし, をぎノ樣ナ各莖個々ニ分離シテ居ルモノハタトヒ地下莖デ結合シテ居ルトハ云へ個個ノ莖ヲ一個體ト見做シタノデアルガ, 之ニ反シすすきノ樣ナ束状植物ハ其一束ヲ一個體ト見做スノデアル。<br>本報告ノ主目的ハ<b>ヅリエー</b>ノ恆存種ナルモノノ新定義ノ當, 不當ニ對スル批判ニアルガ, 研究ノ結果新定義モ亦舊定義ト同ジク完全ナモノデナク, 要スルニ恆存種ナルモノハ植物群落學上其儘デハ存立スルコトガ出來ナイト云フ結論ニナルノデアル。今其理由ノ主ナルモノヲ云フト同氏ノ新定義ニ依ル「恆存種」ナルモノハ, 基群叢内ニ規則正ク出現スル種類ト定メラレテ居ルガ, 頻度 (恆存度) ノ非常ニ小イ種類ガ規則正ク, 換言スルト「正常的分散」ヲシテ居ルコトガアルカラ, 氏ノ「規則正ク」ヲ此「正常分散」ノ意味ニ解釋スルト恆存種ハ種々ノ個體密度ノモノニ相當シ又氏ノ定義ヲ好意的ニ解釋シテ特ニ頻度ノ傑レタノニ當テルト, 之ハ優占種ト略同ジ意味ニナリ, 何レニシテモ恆存種ナルモノハ不可解ナモノニナルト云フニ歸着スルノデアル。
著者
中野 治房
出版者
The Botanical Society of Japan
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.911, pp.159-167, 1964
被引用文献数
8 1

1. 本論交は1913年ドイツ国の植物雑誌(Bot.Jahrb.<b>50</b>(4)440)に公表された研究の追加補足を目的とするものであるが, また訂正を志すものでもある. 研究方法は前著におけるように培養試験により, 諸器官の発生を調べ, また特に果実の遺伝性を観察したが, さらに諸外国の博物館や膳葉館における該当種の標本との比較研究にもよった.<br>2. 前論文においてはヒメビシ (<i>Trapa incisa</i> S.et Z.) にふたつの形(Formen)(小形と大形)を含むとしたが, その後の研究によると小形が実はヒメビシで, 大形はオニビシの変種 <i>Trapa natans</i> var. <i>pumila</i> auct. (コオニビシ) であることがわかった. この二形の間には推移はなく葉も異なり, また果実の大きさも違うほか, ヒメビシの果実の竪角にはほとんど逆刺が認められない. 培養の結果ではこれが全く認められなかったが, 自然の場合では2~3% くらい,しかも不完全の逆刺 (前後の竪角のうち1本だけにあったり,また1本の逆刺で代表されるという不完全さ) が認められるにすぎない.<br>3. 2本角のヒシの場合2本の横角 (lateral) の存在がその特徴であるが,まれに前後の面 (transversal sides) に角状の突起が成立することが特にvar. <i>Jinumai</i> に見られ奇異の感にうたれるが, これはよく見ると決して逆刺を具えず, また4本角のもののようにとがってもいないのでこれを擬角と命名した. 実にこの擬角はがく片から発生する四角ヒシの竪角とは発生が異なり, がく片脱落後そのこんせきから生ずる特殊の突起にすぎない. 著者の経験によれば二角ビシの5形が見られるが, この角の反曲性(recurving)のコウモリビシ(<i>T</i>. <i>bicornis</i> L.f.)が代表種と認められ, 他の4形はその変種と認めるのを妥当とするのである.<br>4. 4本角の外国種 <i>T. natans</i> L. の標本を種種しらべたが, これにもいろいろ変化があるとはいえ, 邦産のオニビシ' <i>T. quadrispinosa</i> Roxb. とシノニマスであることがわかった. また邦産のオニビシの三角のものが間々現われるが, これは子の代に皆四角に返えり安定性を持たないことを明らかにした. すべて四角性のヒシ, すなわち, オニビシ, コオニビシ, ヒメビシはがく全部が角を構成するが, ヒメビシの竪角には逆刺の発達が不完全で二角性のヒシに, ある連関性があるように見える.<br>5. がく片の全部が脱落して,無角のヒシが形成されることが中国上海附近嘉興南湖産のもので証明され, これを <i>T.acornis</i> Nakanoとした.<br>6. 不連続ながら長年の研究で本邦および隣接地域のヒシ属には少なくとも4種, 5変種が存在することが明らかにされた.