著者
中野 治房
出版者
The Botanical Society of Japan
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.911, pp.159-167, 1964
被引用文献数
8 1

1. 本論交は1913年ドイツ国の植物雑誌(Bot.Jahrb.<b>50</b>(4)440)に公表された研究の追加補足を目的とするものであるが, また訂正を志すものでもある. 研究方法は前著におけるように培養試験により, 諸器官の発生を調べ, また特に果実の遺伝性を観察したが, さらに諸外国の博物館や膳葉館における該当種の標本との比較研究にもよった.<br>2. 前論文においてはヒメビシ (<i>Trapa incisa</i> S.et Z.) にふたつの形(Formen)(小形と大形)を含むとしたが, その後の研究によると小形が実はヒメビシで, 大形はオニビシの変種 <i>Trapa natans</i> var. <i>pumila</i> auct. (コオニビシ) であることがわかった. この二形の間には推移はなく葉も異なり, また果実の大きさも違うほか, ヒメビシの果実の竪角にはほとんど逆刺が認められない. 培養の結果ではこれが全く認められなかったが, 自然の場合では2~3% くらい,しかも不完全の逆刺 (前後の竪角のうち1本だけにあったり,また1本の逆刺で代表されるという不完全さ) が認められるにすぎない.<br>3. 2本角のヒシの場合2本の横角 (lateral) の存在がその特徴であるが,まれに前後の面 (transversal sides) に角状の突起が成立することが特にvar. <i>Jinumai</i> に見られ奇異の感にうたれるが, これはよく見ると決して逆刺を具えず, また4本角のもののようにとがってもいないのでこれを擬角と命名した. 実にこの擬角はがく片から発生する四角ヒシの竪角とは発生が異なり, がく片脱落後そのこんせきから生ずる特殊の突起にすぎない. 著者の経験によれば二角ビシの5形が見られるが, この角の反曲性(recurving)のコウモリビシ(<i>T</i>. <i>bicornis</i> L.f.)が代表種と認められ, 他の4形はその変種と認めるのを妥当とするのである.<br>4. 4本角の外国種 <i>T. natans</i> L. の標本を種種しらべたが, これにもいろいろ変化があるとはいえ, 邦産のオニビシ' <i>T. quadrispinosa</i> Roxb. とシノニマスであることがわかった. また邦産のオニビシの三角のものが間々現われるが, これは子の代に皆四角に返えり安定性を持たないことを明らかにした. すべて四角性のヒシ, すなわち, オニビシ, コオニビシ, ヒメビシはがく全部が角を構成するが, ヒメビシの竪角には逆刺の発達が不完全で二角性のヒシに, ある連関性があるように見える.<br>5. がく片の全部が脱落して,無角のヒシが形成されることが中国上海附近嘉興南湖産のもので証明され, これを <i>T.acornis</i> Nakanoとした.<br>6. 不連続ながら長年の研究で本邦および隣接地域のヒシ属には少なくとも4種, 5変種が存在することが明らかにされた.

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民博に展示してあったイラタカ数珠には中国産のコウモリビシ(https://t.co/3qGvO6GPXf これに詳し)の実が使われていて、どういうルートで東北の巫女の手に渡ったのか何とも不思議。動物の牙の類型物として使われているのかしらん? RT

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