著者
平井 裕子 井上 敏江 中野 美満子 大瀧 一夫 児玉 喜明 中村 典
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.147, 2009

広島の原爆被爆者より提供された大臼歯のエナメル質を用いて、電子スピン共鳴法(ESR)により、放射線被曝線量を推定している。今回、歯の提供者で末梢血リンパ球の染色体異常頻度を測定した92人(FISH法とギムザ法の両方またはいずれか一方の方法で測定)について、ESRによる測定を行い、両者を比較した。ESR信号強度はコバルトガンマ線量の検量線を用いて線量に換算した。染色体異常検査はギムザ法とFISH法を用いた。前者はギムザ染色した100個の分裂像を、後者は染色体1,2,4をFISH により蛍光染色して500個の分裂像を観察し、得られた頻度から年齢ならびに中性子の影響を差し引いてガンマ線量に換算した。調査した被爆者の中で、両方の方法で染色体異常頻度を調べた37人については得られた結果は互いによく一致していた。これらの被爆者のデーターとしてはFISH線量を用いることとし、その他のギムザ染色法によるデーターしかない35人とFISH染色法によるデーターしかない20人計92人について、ESR線量と染色体線量を比較したところ良い相関が得られた。しかし、染色体線量は高いのにESR線量が低い例が7例あった。これらは1例を除いては知歯や被爆時年齢が5歳以下であったので、測定した歯が被爆時に十分発達していなかったと解釈される。他方ESR線量が染色体線量よりもかなり高い例が9例あった。これらについては医療被曝の可能性を調査したが、現在までのところ医療被曝の情報は得られていない。以上の生物学的線量評価の結果を被爆時の爆心地からの距離と遮蔽条件を基に計算したDS02線量に対してプロットすると分布の幅が大きくなることが分かった。今回、92名という少ない対象数ではあるが、全く異なる方法(ESR法 とFISH法)を用いて推定した個人線量が良い相関を示したことは、既に4000人もの被爆者から情報を得ている染色体異常頻度から推定した個人線量を、DS02線量と比較すれば、個人線量の偏りの程度と方向を推定できる可能性がある。