著者
中野 賢太郎
巻号頁・発行日
2012

科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書:若手研究(B)2010-2011
著者
中野 賢太郎
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

多くの細胞の機能発現においては、細胞の極性情報が重要である。例えば、神経軸索では方向性を伴った細胞の極性成長が、その活動に不可欠である。また細胞極性情報をもとに上皮細胞は組織を形成することができる。本研究では、細胞形態が最もシンプルでよく調べられている分裂酵母Schizosaccharomyces pombeを研究対象に用いて、細胞極性情報の発信と、その下流での細胞形態の形成機構について研究を行った。これまでに私たちは分裂酵母の低分子量Gタンパク質Rhoとその活性制御因子について解析してきた。それらのうち、Rga4がCdc42のGTP加水分解活性を促進することに着目した。米国カルフォルニア大学の塩崎研究室の建部恒博士らとの共同研究により、Cdc42は極性成長をしている細胞端に強く集積することが確かめられた。同時に、Rga4は細胞の胴体部分に集積し、細胞端への局在性が排除されていることが観察された。このRga4の局在様式にはPom1キナーゼが関わる可能性が示唆されている。以前から、pom1遺伝子変異株では分裂酵母の両極性の成長が単極生成長に置き換わることが知られていたが、この原因は不明であった。興味深いことに、今回の建部博士との研究により、pom1遺伝子変異株においてRga4の活性を抑制するとCdc42の局在が単極性から両極性に回復することが判明した。つまり、Pom1はRga4の局在性を制御することでCdc42の細胞端への局在様式を調節していたと考えられた。Pom1は微小管細胞骨格系の支配下でその局在様式が決定されること、Cdc42はアクチン細胞骨格の形成制御に中心的な役割を果たすことを併せると、本研究成果は微小管からアクチン細胞骨格へ、細胞内の空間的構造を配置化する分子機構の一端を解明した点で重要である。