著者
丸山 千里
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.139, 1964 (Released:2014-08-29)

我々は昭和19年結核症のワクチン療法について研究を開始し,現在もなお続行中である.研究開始当時結核菌より特異抗原性物質を抽出し,これをワクチンとして皮膚結核症の患者に使用したところ好成績を収めることに成功し,昭和21年6月第1回の報告を試みた.その後臨床実験の成績を参考にワクチンの改良に専念し,その成績はすでに20数回にわたつて報告したが,最近協同研究者の参加をえて肺結核症の患者にも使用し予期以上の成績をあげることができた.このように,我々がワクチン療法の研究を続行している間に,結核症の化学療法に関する研究は瞠目に値する進歩をとげた.然しながら,最近化学療法の効果にも限界のあることが次第に明らかになつてきた.また,上記抗結核剤はその副作用或いは菌の耐性化等のため長期にわたる使用が不可能になる場合にしばしば遭遇する.ワクチン療法と化学療法は,その作用機序が全く異なるものと想像されるので,化学療法が限界に達した場合,すなわち病状の好転が期待できないような場合,作用機序を異にするワクチン療法を試みることは,確に一つの方法であるに違いない.このような考えのもとに,我々は化学療法によつて病状の好転しない結核症患者に対しワクチンを使用したところ,予期以上に好転した症例を多数経験することができた.すなわち,我々のワクチン療法は,最初よりワクチンを使用した場合(初回治療)は勿論,化学療法が限界に達した場合に使用しても奏効するということがいえるのであつて,これらの事実は結核症の治療に対してきわめて大きな意味を持つものと思う.我々のワクチン療法に関する研究は上述の通りかなりの年数に達しているので,ここに現在迄の研究経過の概略を述べ,大方のご批判を仰ぎたいと思う.