著者
丸山 陽子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

歌人兼好周辺の僧侶の歌壇活動に関する研究として、三井寺周辺の和歌活動の考察を進展させた。特に、僧侶の和歌史料に乏しい一三世紀中頃から一四世紀初頭の三井寺周辺の僧侶の和歌を中心に収め、三井寺僧とその周辺のネットワークを知る上で有益な資料となる『新三井和歌集』に着目し、成立と性格を具体的に考察した点に意義がある。昨年度までの研究成果を踏まえ、まずは官位記載や詞書等から成立時期の考証を行い、これを踏まえて人物考証を深め、明らかとなった人物の関係に修正を加えながら系図化した上で、収められた人物や詞書、及び和歌の内容を、より具体的に掘り下げた。その結果、聖護院門跡覚助法親王とその周辺の活発な和歌活動がクローズアップされ、特に覚助はこの時代の有力人物であり、歌人として幅広い活動を行ったことが明らかとなった。一方、三井寺周辺の僧侶の考察と共に、歌人兼好周辺の神官の歌壇活動に関する研究を行った。昨年度までに行ってきた『伊勢新名所絵歌合』の新名所設定の意図や法楽としての歌合の性格等の考察、即ちこれらをまとめた論文及び著書の研究成果を踏まえ、刊行予定の『伊勢新名所絵歌合』の注釈書の執筆を進めた。この歌合には絵と和歌があることから、和歌の注釈に終始せず、今年度は更にフィールドワークを重ねながら、『伊勢新名所絵歌合』の特徴である絵と歌合の関係を視野に入れた学際的な研究を目指した。この研究成果の一部は、「『伊勢新名所絵歌合』-絵と歌合の関係より-」として論文報告する予定である(校正中)。上記神官・僧侶の考察と並行して、『兼好法師』(コレクション日本歌人選・笠間書院)の執筆を行った。兼好の交流やネットワークといった研究成果を踏まえ、どういった歌人と交流し、どういった歌を多く詠んだか、という観点を盛り込み、兼好の和歌の特徴と面白さを引き出すことを目指した。校正中であり、2010年9月に刊行予定である。