著者
大西 守 澤田 拓士 原田 和記 江嵜 英剛 志村 圭子 丸茂 健治 高橋 敏雄
出版者
獣医疫学会
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.142-147, 2012
被引用文献数
2

本研究の目的は日本の乳牛における乳房炎に関与するCTX-M型 <I>β</I>-ラクタマーゼ(CTX-M)産生<I>Enterobacteriaceae</I>の存在を明らかにすることと,その乳房炎罹患牛の臨床経過を調査することである。2006年の8月から2007年1月に北海道根室支庁の1,000酪農場で発生した20,194頭の乳房炎牛の30,237検体の分房乳から分離した51株のセファゾリン耐性のオキシダーゼ陰性・グラム陰性桿菌株をClinical Laboratory Standards Institute(CLSI)標準のコンビネーションディスク法による基質拡張型 <I>β</I>-ラクタマーゼ (ESBLs) 確認テストを用いてスクリーニングした。ESBLs確認テスト陽性株はPCRとDNAシークエンスによりCTX-M-,TEM-,SHV-型 <I>β</I>-ラクタマーゼの遺伝子型別を行った。また21の抗菌薬の最小発育阻止濃度(MIC)を測定した。2農場における2頭の乳房炎罹患牛の3つの分房から3株のCTX-M-2産生<I>Klebsiella pneumoniae</I>を分離同定した。1頭の乳牛は全身症状のない軽症の急性臨床型乳房炎(ブツを含む軽症の水様乳汁,分房の軽度の腫脹と熱感・硬結)を表し,診断後4週間で軽快した。他の1頭の乳牛は全身症状を伴う重症の急性臨床型乳房炎を表し,診断後10週間で軽快した。これらの分離株はアンピシリ,セファゾリン,セフロキシム,セフォタキシム,セフトリアキソン,セフポドキシム,セフチオフル,セフキノム,カナマイシン,オキシテトラサイクリンには耐性を表した。一方,セフタジジム,セフメタゾール,モクサラクタム,イミペネム,アズトレオナム,ゲンタマイシン,トリメトプリム/スルファメトキサゾール,エンロフロキサシンには感性であった。本研究は日本における牛乳房炎に関与するCTX-M産生<I>K. pneumoniae</I>分離株についての初報告である。