著者
山田 隆 滝沢 実 丹下 一夫
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.123, 2003 (Released:2004-07-26)

埼玉県秩父市浦山の旧マンガン鉱山から本邦で初めて確認されたメタスウィッツァー石(metaswitzerite)について、その鉱物学的性質と共出鉱物に関し報告する。 メタスウィッツァー石;(Mn,Fe)3(PO4)2・4H2Oは1967年に初めてスウィッツァー石(switzerite)として記載されたが、その後の研究で7水和物;Mn3(PO4)2・7H2Oの脱水したものと確認されたため、1986年に7水和物をswitzerite、4水和物をmetaswitzeriteと再定義された。いずれも、North Carolina州、Kings Mountain近郊のFoote Mineral Company spodumene mineの石英-長石-リチア輝石ペグマタイトの割れ目より産した。スウィッツァー石は短時間で不可逆的に脱水しメタスウィッツァー石に変化するため新鮮な標本はまれである。鉱物名は、スミソニアン博物館の鉱物科学部門の名誉部長であるGeorge Switzer博士にちなんでswitzeriteが、その変化型としてmetaswitzeriteが名付けられた。 浦山の変成層状マンガン鉱床から産するメタスウィッツアァー石は、菱マンガン鉱やばら輝石からなる低品位のマンガン鉱石の割れ目に、長さ数ミリ以下のガラス光沢白色半透明の長板状結晶あるいは絹糸光沢半透明針状結晶として産する。いずれも若干の黄色から桃色味を呈する。劈開は板の方向に完全で脆く、硬度は2以下である。 化学組成は、Mn,Fe,Pを主成分としZnやAsは含まない。 X線粉末回折(XRD)パターンd(Å),(相対強度):8.54(100), 7.14(34), 6.77(29), 6.38(21), 5.01(16), 4.87(22), 4.25(26), 3.63(13), 3.15(10), 2.84(12), 2.77(12), 2.13(14), 2.11 (12) となり原産地のデータとよい一致を示す。 本鉱物は、母岩の割れ目から空気中にさらされた後一定時間が経過しており、もともとスウィッツァー石であった可能性も否定できない。新たな新鮮な標本の獲得がまたれる。