著者
松原 聰 宮脇 律郎 横山 一己 清水 正明 今井 裕之
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.124, 2003 (Released:2004-07-26)

東京都奥多摩町にあった白丸鉱山跡は,マンガン鉱物を含む露頭の一部が残存している.この露頭からは,過去にもいろいろな種類の鉱物,特にバリウムやストロンチウムを主成分とするケイ酸塩,炭酸塩鉱物が産出した.また,ガノフィル石のカルシウム置換体,多摩石(Matsubara et al., 2000)は前回の放流の際(1998年)に発見された.露頭は,黒色のブラウン鉱が縞状ないしパッチ状に入った全体的には赤褐色の壁で,周囲は砂岩である.通常このようなマンガン鉱体は石英に富む母岩(チャート)に伴われるが,現在見られる部分には,石英は存在しない.ケイ質放散虫もすべて曹長石化している.今回は,ブラウン鉱がパッチ状に入った部分を重点的に調査した.このような部分にも白色~淡黄褐色脈が無数に貫いている.白色脈は主に,ハイアロフェン,曹長石,方解石からできている.その他には,重晶石もふつうに見られる.やや少ないが,重土長石の場合もあり,稀にはストロンチアン石やキュムリ石の微細結晶集合も含まれる.淡黄褐色脈は,マースチュー石,多摩石,ネオトス石などからできている.やや濃い赤色の細脈や小さなパッチ状の部分はストロンチウム紅簾石である.ブラウン鉱は,ひじょうに細かい結晶の集合体で,結晶粒間には,ハイアロフェン,曹長石,マースチュー石,多摩石,ネオトス石などの極めて微細な鉱物が埋めている.薄片で観察すると,ブラウン鉱密集部の小さな空間を,屈折率が高く,多色性の明瞭な濃赤褐色の粒が満たしていることがわかる.これは,似たような色のストロンチウム紅簾石や赤鉄鉱とは明らかに異なる.薄片から一部を切り出し,ガンドルフィーカメラによってX線粉末回折値をとったところ,既知のガマガラ石(gamagarite)によく類似したパターンであることがわかった.そこで,EDSおよびWDSで化学分析をおこない,その結果からガマガラ石のFeをMnで置換したものに相当することが明らかになった.ガマガラ石は,南アフリカのGamagara Ridgeから1943年に記載されたひじょうに稀な鉱物で,理想化学組成式はBa2 (Fe3+,Mn3+)(VO4)2 (OH),単斜晶系の鉱物である.1987年にイタリアのMolinello mineから二番目の産地が発見されている.いずれもマンガン鉱床から発見されているのだが,MnよりFeの方が卓越している.白丸鉱山産のものは,実験式が(Ba1.92Na0.02Sr0.01Ca0.01)Σ1.96(Mn3+0.81Fe3+0.17Al0.01)Σ0.99[(V1.99Si0.01)O7.92](OH) 1.00(6ヶ所の平均値,水分は計算,V + Si = 2)で,明らかにMnが卓越している.格子定数は,a = 9.10(4) Å, b = 6.13(2) Å, c = 7.89(5) Å, β = 112.2(5)℃である.なお,今のところ見つかっている結晶粒は最大でも15μmであるので,単結晶解析は行っていない.このような組成のものは未知である.
著者
赤井 純治 長峰 崇 山本 玄珠 北垣 俊明 海野 友紀
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.106-106, 2005

深海のマンガンノジュールは、1873年グロマーチャレンジャー号の発見以来多くの研究があり、またその成因も様々に議論されている。最近、ノジュールにみられる縞状構造はミランコビッチサイクルに対応するという解釈もある(Han et al., 2003)。マンガン酸化バクテリアも、ノジュールに付着しているとの報告がある( e.g.,Edenborn, et al., 1985 ) が、詳細な成因についてはわかっていない。淡水性環境でも、様々なマンガン土沈殿、ノジュール状沈殿、温泉性のストロマトライト構造をもつもの(赤井他、1997)等報告がある。山本他(2004)は、青森県尾太鉱山排水路中から、大きさ7cmを越す、マンガン団塊が生成していることを報告した。これによると、このマンガンノジュールの組成は、平均MnO=60%程度で他の金属として、ZnO=4%、CaO=3% 程度を含む。今回、この尾太鉱山産マンガンノジュールの生成過程をしらべる為に、マンガンノジュールの生成の初期段階とノジュールの組織・構造に注目し、電顕鉱物学、バイオミネラリゼーションの視点から検討した。産地と試料:尾太鉱山が閉山(1978年)後の坑内排水溝に茶褐色微生物マットが生成し、その中に0.数mmから数cmの黒色Mnノジュールが生成している。水質は以下のようである:pH= 6.8-7.1 Mn= 20-24 ppm, Ca, 270-290ppm, Mg= 28-31ppm, Zn = 6-8ppm, Cl = 6ppm, NO3= 17ppm, SO4 =529-661ppm. ORP =85-135mV, EC=_から_1270μS。この微生物マットごと、試料を採取し、SEM、TEMで観察した(TEM は JEOL JEM2010、EDSはNoran Inst., Voyager IV )。結果と考察:微生物マットは主に鉄酸化バクテリア、ガリオネラとそれが作りだしたら旋状の水酸化鉄の柄の部分からなる。ガリオネラの水酸化鉄は高倍率のTEM像で、さらにこまかな、ナノサイズのアモルファス鉱物粒子であることが解像される。TEM観察で、ガリオネラのバクテリア部分がみられるが、一部のガリオネラのバクテリア本体がマンガン鉱物に覆われているものが今回見いだされた。このEDS組成分析もあわせ、マンガン鉱物のバイオミネラリゼーションと解釈される。一般には、ガリオネラはMnを酸化しないとされているが、極限的な条件下で、利用できるFeがなくなり、Mnがある場合には、マンガン酸化にガリオネラがかかわってくるか、あるいは何らかのバクテリア表面の化学的性質の変化による沈着であろうことを示唆している。このようなマンガン鉱物集合の形態は、1μmスケールの扁形な形態から、少し大きな球状まで、やや幅がある。また、ガリオネラのつくった水酸化鉄のらせん状の柄にからみつくように、マンガン酸化物がみつかることもあり、これは、ガリオネラが特徴的な鉄水酸化物の柄を出しつつある過程でマンガンを沈殿したようにみえる。これまでの観察では、ガリオネラ自身が、マンガンノジュールの最初の端緒をつくった可能性も考えられる結果といえる。微小ノジュールの形態は、ガリオネラマットに支えられて、球状形態が形成され、成長する。また、イオン研摩試料について観察し、縞状構造の結晶サイズの疎密、によるちがいが観察できた。試料Aのマンガン鉱物は buseriteであり、葉片状の層状構造をなすことが、HRTEMで観察された。成因について、さらに議論する。
著者
間嶋 寛紀 赤井 純治 茅原 一也 中牟田 義博 松原 聡
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.138, 2003 (Released:2004-07-26)

新潟県青海・糸魚川地域のヒスイ輝石岩中にはヒスイ輝石岩形成以降に形成された二次的な脈が多く存在し,ここからはSrを主成分とする鉱物が多く産したが,蓮華石もその一つである 蓮華石(rengeite)Sr4ZrTi4 (Si2O7) 2O8は新潟県西部,青海・糸魚川地域の蛇紋岩メランジ中に含まれるヒスイ輝石岩から発見された(Miyajima et al.,2001).蓮華石は単斜晶系に属し,格子定数はa=13.97(1),b=5.675(7),c=11.98(1)Åである. 今回新潟県青海町産白色ヒスイ輝石岩を調べている中で二次的な脈の中から蓮華石様鉱物を見出した。肉眼あるいは双眼実体顕微鏡下では淡灰色から暗青灰色の色を示し長さ1mm以下の脈状集合体または長さ0.2mm以下の短柱状自形結晶をなして産する.共生鉱物は脈を埋めて産するソーダ沸石と,初生的に形成されたジルコンである.ヒスイ輝石は0.5mm以下の自形から半自形で,しばしば脈状に著しい破砕を受けている.この蓮華石様鉱物の短柱状の形態はこの試料以外ではほとんど見られず,他の試料では蓮華石は放射針状の結晶集合体をなすことが多い.本試料は偏光顕微鏡下では濃青色から淡褐色の強い多色性を示すものと,多色性を示さないものとがあり,短柱状の単結晶の柱面に平行にzoningしているものが多い.通常の薄片の厚さではわからないが,イオン研磨により極めて薄くした薄片ではクロスニコルでバンド状の組織が認められることがある.この蓮華石様鉱物は非常に小さいため,イオン研磨にて試料を作り,透過型電子顕微鏡で解析した.EDSによる定量分析では組成はSiO2=23.0,TiO2=28.3,Fe2O3=0.4,SrO=41.3,ZrO2=6.7,Nb2O5=0.4 wt.%という値が得られた.電子線回折では蓮華石のd001周期が2倍の位置に回折スポットを示し,いくつもの回折パターンの特徴から蓮華石の多形,斜方晶系相と解釈される.Auを標準としたEDパターンの解析から,この鉱物の格子定数はa=14.0,b=5.7,c=21.9Åである.この斜方晶系単位格子は,輝石,角閃石等と類似の,単斜晶系単位格子が格子レベルでの双晶を作った格子関係にある.高分解能像では双晶構造に対応する像が解像される.なお,蓮華石の原構造ともいうべきperrierite (Ce,La,Ca,Sr)4FeTi4 (Si2O7) 2O8,chevkinite(Ce,Ca,Th)4(Fe,Mg) (Ti,Mg,Fe) 4(Si2O7)2O8には斜方晶系の報告はされていない.この蓮華石様鉱物については現在ガンドルフィーカメラ,XMA他でさらに検討中である.
著者
渡邉 克晃 北川 隆司
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.77, 2004 (Released:2005-03-10)

はじめに 露出している岩石表面にはしばしば地衣類の生育が観察される。地衣‐岩石接触面では地衣類による物理的・化学的変質作用が起こっており、一次鉱物の微小片や、粘土鉱物および鉄の酸化物・水酸化物などの二次生成鉱物が接触面に沿って保持されることが知られている(Banfield et al., 1999)。そしてこれらの生成物に地衣体の遺骸が加わることで、土壌前駆物質としてのはたらきを有することになり、こうした現象は初生的な土壌生成作用であるとみなすことが出来る(大羽・永塚,1988)。 近年の急速な都市化によって天然の岩石・土壌は様々な人工基物で覆われるようになり、それに伴い人工基物表面にも地衣類の生育が観察されるようになった。ただしその種類数、個体数は著しく貧弱である。代表的な人工基物であるアスファルトおよびコンクリートは、その主成分が破砕岩石片であるにもかかわらず、天然の岩石表面と比べて地衣類の生育が制限されている。人工基物と地衣類との間ではどのような作用が起こっているのか、地衣‐花崗岩接触面での現象と比較した結果を報告する。試料採取および実験方法 人工基物(アスファルトおよびコンクリート)表面に生育する地衣類のサンプルとして、固着地衣類Porpidiaを広島県東広島市の市街地から採取した。また、花崗岩表面に生育する地衣類のサンプルとして、同じく固着地衣類Porpidiaを広島県本郷町から採取した。 採取したそれぞれの試料の薄片試料を作成し、偏光顕微鏡観察とEPMAによる化学分析を実施した。結果 花崗岩‐地衣接触面では、花崗岩構成鉱物である黒雲母と地衣類との間で物理的破壊現象および化学的変質現象が認められた。しかし、他の構成鉱物である石英および長石類との接触面でははっきりとこれらの現象を確認できなかった。一方、人工基物‐地衣接触面では、構成鉱物と地衣類との間に明瞭な相互作用を見出すことができなかった。文献・ 大羽裕・永塚鎮男(1988)土壌生成分類学,122-126.・ Banfield et al. (1999) Biological impact on mineral dissolution. Pro. Natl. Acad. Sci., USA. 96, 3404-3411.
著者
赤井 純治 大藤 弘明 松本 嘉文
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.148, 2005 (Released:2006-09-08)

炭素質コンドライトのマトリックスは微小な鉱物の集合体で、マトリックス鉱物はフィロシリケート・PCP・硫化鉱物・酸化鉱物・炭酸塩鉱物・硫酸塩鉱物・炭素鉱物・等が含まれる。これらの鉱物種、結晶形態・集合状態・組織は、それら鉱物あるいは隕石自体の生成に関する重要な情報を示唆していることが考えられる。構成鉱物のなかには多くの特徴的あるいは特異な鉱物も含まれるが、生成条件等明確になっていないものも多い。その詳細は電顕鉱物学の視点からの解明されるところも大きい。磁鉄鉱についてはこれまでにもJedwab(1968), Kerrige(1979)、Hua et al., (1998)などが主にSEMによって 記載している.磁鉄鉱には次の種がある。a)よく結晶面が発達した単結晶磁鉄鉱, それらのフランボイド状の集合体、 b)特異な板状(platelets)の形態の積み重なりをもつ磁鉄鉱(plaquettes:Jedwab,1968),c) 球顆状構造をもつ球状晶が,主にみられる.この他に単独でより大きな単結晶のものもあるとされている(Jedwab,1968). それらがどういう条件で生成したのか、生成の場の違いはあるのか、生成の順序はどうか、等成因にからんだ問題がある。今回、とくにフランボイダル形態の磁鉄鉱を中心に検討し、さらに他の2つについても検討した。フランボイド集合は、自己組織化の構造として注目される。地球表層環境中のパイライトではとくに 20面体構造のものを見いだしている(Ohfuji and Akai,2002). 20面体構造を形成する基礎には、マイクロクリスタルのccp、hcpなどの規則配列構造がある。これに対し、ランダムタイプもある。またサイズ的にはフランボイド粒直径とマイクロクリスタルサイズの比も指標となり、核形成条件のちがいが議論される。つまり、これらの生成条件が隕石中のフランボイダル磁鉄鉱の生成条件にかかわって、条件推定に役立つことも期待できる。試料は炭素質コンドライト,Ivuna, Orgueil , Tagish Lakeの三試料を用い、その中の磁鉄鉱に着目して,透過電顕及び走査電顕で観察した.Ivuna 、Orgeil ではあまり大きな違いがみられない。フランボイドを構成するマイクロクリスタルのサイズは、0.2_から_1μm程度の幅がある場合と、そのサイズが揃っている場合とがある。このうち、今回Orgueil から、規則構造が見いだされた。マイクロクリスタルはサイズが約0.5μmで、全体の形態はフランボイド状である。マイクロクリスタルが、直線的に配列し、その間に最密充填状に次列がならぶという、パッキング様式を示す。最密充填構造によるフランボイダルパイライトと同様な組織をもつものが存在する可能性が高い。また、別のグレインで、磁鉄鉱外周に,蛇紋石構造のフィロシリケートがおおうこともある。磁鉄鉱には、ランボイド、plaquettes、球晶の3種が含まれ,このことは3つのことなった生成時期があったこと,または3種の起源の多少ことなった物質の混合,があると考えられ、また結晶面のよく発達したタイプの磁鉄鉱の生成にひきつづいて,フィロシリケートがこれを覆うように成長付加したということを示しており,原始太陽系星雲内での生成プロセス,また炭素質コンドライト母天体上プロセスでの制約条件をあたえている.さらに、生成順、生成のメカニズムについても議論する。
著者
武田 弘 山口 亮 宮本 正道
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.55, 2004

今回新たに発見された集積岩ユークライト中に,小惑星ベスタのような原始惑星の地殻深部で形成されたと思われる転移ピジョン輝石が発見されたので、その鉱物学的研究を行い、固体惑星物質データベース画像中に類似の組織を探し、その形成過程を推論した。Asuka 980318試料は粗粒結晶質の隕石で、転移ピジョン輝石とCaに富む斜長石よりなる。その結晶化年代は45.6億年と古い。輝石は2_から_3mmの粗粒で、もとあったピジョン輝石の(001)方向に離溶した30ミクロンを越える厚さのオージャイト・ラメラ。このラメラの間には、転移した斜方輝石の(100)方向に配列したブレブス状のオージャイトが観察される。もとのピジョン輝石の粒界と、それより転移してできた斜方輝石の粒界は一致しない。このような組織を固体惑星物質データベースの画像に探した結果、同じく集積岩ユークライトのSerra de Mage (SdM) に見出されたものと非常によく似ている。その転移機構は、斜方輝石の核が形成され、それが成長する事で転移が進行し、もとのピジョン輝石の結晶粒界を超えて斜方輝石が大きく成長したと思われる。
著者
工藤 康弘
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.32, 2004

地球の上部マントルの主要構成鉱物であるforsterite,Mg2SiO4は上部マントル下部でwadsleyite,Mg2SiO4,そして ringwoodite,Mg2SiO4へと相転移する.従来無水と考えられていたマントル鉱物に極微量のOHが存在する可能性を最初に指摘したのはMartin and Donnay (1972)である.深さ400km-550kmのマントル遷移層に安定領域をもつwadsleyite,Mg2SiO4については,Smyth(1987)がPaulingのbond strength sumの結果から, Siに配位していない唯一の酸素であるO1サイトがOHとして水素を取り込み得ると最初に指摘した.Inoue (1994)は3.1 wt% のH2Oを含む含水wadsleyiteの合成に成功し,結晶構造中のO1サイトが全て OHのとき,Mg2SiO4の組成について計算するとH2Oの量が 3.3 wt%となることから,含水wadsleyiteの最大含水量を3.3 wt%と推定した.これがwadsleyiteの最大含水量についての最初の推定であり,実験結果ともよく一致していることから一般に受け入れられている.一方,forsterite,Mg2SiO4とringwoodite,Mg2SiO4については, Siに配位していない酸素原子のサイトが結晶構造中に存在しないので,wadsleyiteと同じ論理は適用できず,現在までその含水量の上限を推定する方法は見出されていなかった.実験的には,forsteriteには,wadsleyite やringwooditeにくらべ僅かしかH2Oが含まれず,ringwooditeには wadsleyiteと同じか僅かに少ない量のH2Oが含まれると考えられている(Yang et al., 1993).最近の研究結果では, forsterite中にKohlstedt et al. (1996)は1500 wt ppm (0.15 wt%)のH2O,Chen et al. (2003)は 7600 wt ppm (0.76 wt%)のH2Oを報告している.RingwooditeにはKohlstedt et al. (1996)は2.7 wt%のH2O,Yusa et al. (2000) は2.8 wt%のH2Oを報告している.本研究では,Mgが2Hで置換されるとして,forsteriteとringwoodite における最大含水量についての結晶学的制約条件を考察した.Siが 4Hで置換されるモデルは,Mgを2Hで置換し,しかる後にSiを 2Mgで置換する(Siを取り出し2Mgを戻し,Hの位置を変える)とすれば同じであるから,最大含水量についての結晶学的制約条件の考察にはMgが2Hで置換されるモデルのみで十分である.本研究の結晶学的制約条件は,Mgが2Hで置換されHが配位すれば酸素原子がわずかに位置を変え歪みが生じるが,そのようなunoccupied Mg siteの歪みが三次元的にバランスをとり,かつunoccupied Mg site同士が最も接近し得る限界が最大含水量を与えるとして得た.その結果,ringwoodite における最大含水量はwadsleyiteと同じく3.3 wt%,forsteriteの最大含水量はwadsleyite の1/4の0.78 wt%という結果を得た.
著者
山中 高光 永井 隆哉 福田 智男 橘高 弘一
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.39, 2003

酸化物Mn<sub>2</sub>O<sub>3</sub>のうち多くの物質はコランダム型構造R c(M:Al,Ti,Cr,Fe等)であり,酸素と金属のイオン半径比がr(M)/r(O)>0.87の物質は希土類A型 P m (M:ランタニド), 0.60< r(M)/r(O)<0.87では希土類B型(M:Sm),希土類C型Ia (M:Mn, Pu, Sc, In)の構造をとる.(Mn,Fe)<sub>2</sub>O<sub>3</sub> (bixbyte) は立方晶(Ia3 , Z=16)であり,純粋なMn<sub>2</sub>O<sub>3</sub>は少し歪んだ斜方晶(Pbca, Z=16)構造を示す.Mn<sup>3+</sup>のd電子軌道(high spin状態)からJahn-Teller 効果により,単純なイオンのサイズ効果から想像されるコランダム構造と異なる.高圧状態での格子系の圧力変化は興味がもたれて来た. Prewitt et at., (1969) は Mn<sub>2</sub>O<sub>3</sub> はC型構造から高圧下でコランダム構造に転移することを提案した.またShono et al., (1997)は20GPa以上でコランダム構造と異なる未知の高圧相の存在を報告した.<br> 高圧単結晶構造解析実験<br> 本実験ではbixbyite(USA Uta)(Mn0.4035Fe0.5485Ti0.0175Al0.0305)<sub>2</sub>O<sub>3</sub>についてダイヤモンドアンビル(DAC)を用いて0.0001, 4.7, 7.0GPaでは研究室のRIGAKU AFC-5を使用し,5.47,8.82,9.64, 11.0GPaは Spring-8(BL02B2), PF(BL-10A)で放射光を用いた高圧単結晶構造解析を行い,構造変化について調べた.等方性温度因子で最小二乗法の解析結果は総べてR=0.05以内に収束した.立方晶のbixbyiteには六配位の2つの陽イオンサイトM1( (8a))とM2(.2. (24d))がある.M1-Oの原子間距離は全て等しい.一方M2サイトはMn2-O(1), Mn2-O(2)とMn2-O(3)各2本ずつありM2-O(1)が著しく伸長している.M1は一様に圧力に対して体積収縮し,M2は著しく8面体の歪みを解消する方向に圧縮される.M2八面体の方が対称性の高いM1八面体より圧縮率が高い Mn<sup>3+</sup>による顕著なJahn-Teller効果は両サイトにおいて見いだせなかった.<br> SR粉末回折による高圧構造相転移と体積弾性率<br> PF(BL-18C)で加熱装置を設置したレバー式DACを用いて40GPaまでの加熱高圧粉末回折実験を行った.20GPa以上では希土類C型構造と異なる高圧相が確認された.降圧するとC型構造に戻ることからこの転移は可逆的であり,高圧相は常圧では維持できないことが明らかになった.32GPaまでC型構造の回折線が確認されたがDACの非静水圧性か転移の運動論かは判明しない.格子体積のP-V-TカーブからBirch-Murnagham のEOS式を用いて得られた体積弾性率はKo=176.5(4.8) GPa and Ko=7.56(0.67) でありAl<sub>2</sub>O<sub>3</sub>, V<sub>2</sub>O<sub>3</sub> , Cr<sub>2</sub>O<sub>3</sub>, Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub> と比較してほぼ同等であった.<br> 高圧相の解析<br> 新しく見い出された高圧相はPrewitt et at., (1969)が提唱したコランダム構造やM<sub>2</sub>O<sub>3</sub>から想像されるイルメナイト,LiNbO<sub>3</sub>型構造などの菱面体晶ではない単斜晶系の結晶である.現在電荷移動(2Mn<sup>3+</sup>=Mn<sup>2+</sup>+ Mn<sup>4+</sup>)について解析中である.高圧下でのスピンモーメントを測定中である.
著者
三浦 保範
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.138, 2004

1. はじめに:中間型斜長石は離溶ラメラ組織と光の干渉色を示す (Miura et al., 1975)。その斜長石ラメラ組織の形成は、高温マグマからの均一溶液からの固体状態の離溶反応(スピノーダル分解)で理解されている。今回は、衝突ガラスからの形成を解明するのが目的である。2. 形成の問題点:下記の問題点がある。a)地球での高温マグマに関係して形成された古期岩石でラメラ組織を示す斜長石鉱物の産出が限られる、b)マグマからの直接固体晶出であるが不均質な組織を保持する、c)鉄の鉱物が広く組織内に分布する、d)月は高温マグマが形成初期に関与したが衝突で形成された古い月の試料にはラブラドライト斜長石が形成されない、e)火星起源の隕石からは衝突ガラス(マスケリナイト)が発見される。これらの問題点を、統一的に解明してみる。3. 地球上の試料の産出場所の特徴:地球上でイリデッセンスを示すラブラドライト斜長石は、一定の古期岩石の分布する地域(カナダ、マダガスカル、フィンランド、米国、ロシアなど)に限られて産出し、20億から30億年前の古い岩石から産出しているのが特徴である。4.月・火星試料の特徴:アポロ月面・月隕石試料は中間型斜長石組成の鉱物が形成されていない。火星には、火星起源隕石中にマスケリナイト(中間型斜長石鉱物)という衝突で不均質にガラス化している斜長石があるが、ラメラ構造は火星の隕石からは発見されていない。5.衝突後高温化形成の解釈:これら問題点を全て説明する考えとして、ラメラ組織を持つラブラドライト斜長石が、衝突ガラス形成の後、地下での高温マグマ加熱結晶化から形成したと考える。その証拠として、中間型斜長石に不均質な組織が残り、鉄などの鉱物が再結晶して多く含まれており、また、古期の大陸の分裂割れ目に相当する場所ラメラ組織を持つラブラドライト斜長石が多く産出していることなどが挙げられる。6.まとめ:次のようにまとめられる。地球惑星が形成された後、十数億年から二十数億年の間に中間型斜長石組成の衝突破砕ガラス形成記録がマグマ加熱で消失して固体晶出後ラメラ組織が形成されたと考えられる。ただし、火星などに、破砕斜長石が高温状態での持続できる場所周辺があれば、中間型斜長石鉱物ラメラ組織が形成されている可能性がある。Keywords: Intermediate plagioclases, Iridescence, Lamellar texture, Impact glass, Martian plagioclases.Corresponding author: Yasunori Miura (Inst. Earth Sci., Fac. Sci., Yamaguchi Univ.; E-mail:yasmiura@yamaguchi-u.ac.jp)
著者
三浦 保範
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.58, 2003

1.電子顕微鏡組織の直接観察:<br> 100nmオーダーの鉱物(長石)のサブミクロメータースケールの離溶ラメラ組織は,これまで真空中で(走査)電子顕微鏡で透過像か、レプリカ像で観察をしていた。しかし,レーザー光源の使用とコンピューター画像処理により、直接空気中で固体表面が観察できることが分かってきた。<br> 2.レーザー顕微鏡による離溶ラメラ組織の観察:<br> ラブラドライト斜長石(カナダ産、青色イリデッセンス)の(010)面観察で,繰り返し周期組織が観察された。フッ酸処理した双晶表面のエッチング部分は、いずれも離溶ラメラ組織が見られるが、白く散乱してみえる部分は不規則な凹凸組織をしているが、エッチングされていない平坦面部分はきれいに観察できる。いずれも離溶ラメラ組織に特徴的な枝分かれの波状組織が見られる。ラブラドライト斜長石(カナダ産、黄褐色イリデッセンス)の表面観察では,繰り返し周期組織が観察された。この試料も離溶ラメラ組織に特徴的な、枝分かれの波状組織が見られる。<br> 3.考察とまとめ:<br> レーザー顕微鏡により、直接ラブラドライト斜長石(カナダ産、青色~黄褐色イリデッセンス)の繰り返し周期組織の組成差が大きい2種類斜長石の結晶質固体なのでよく観察された。しかし組成差の少なく、ガラスと結晶組織で、サイズが大きな組織である(離溶ラメラの10~100倍程度の幅)衝撃変成石英組織は、離溶ラメラ組織のような明確なほぼ規則的な繰り返し組織が観察できなかった。
著者
赤井 純治 中牟田 義博
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.139, 2004

ユレイライト中のダイヤモンドの起源については、ショックによることが指摘され ている(Nakamuta and Aoki, 2000)。南極隕石であるユレイライトY-74130の中に含 まれる炭素鉱物についてガンドルフィカメラで検討すると、ダイヤモンド、グラファ イト、コンプレストグラファイトが確認された(Nakamuta and Aoki, 2001)。炭素鉱物以 外ではカマサイト、マグヘマイト、トロイライト、シュライバーサイト等が少量含ま れる。このガンドルフィカメラで検討された試料について、高分解能電顕観察を行 い、それらの相互関係、それらの生成過程について推定を試みた。 試料は100μm程度のグレインであったが、混合物であった為に、そのまま超硬合 金で圧砕して粉砕し、エタノールで軽く分散し、金のみを蒸着グして補強して作った マイクログリッド上に滴下、乾燥させて試料調整を行った。粉砕はしたが、混合物は 局所的な組織は残していると考えられる。用いた電顕はJEM2010、200kVで観察 した。得られた高分解能写真では、1)それほど分散化してない粒子で、極めて多種の鉱物が混在分布することがわかった。2)ダイヤモンドはこれらの粒のうちでは比較的大きな粒子として存在した。3)グラファイトだけが濃集している部分もみられた。グラファイトはかなり厚みの ある比較的結晶度のよいものの他に、積層数が少なく結晶度があまりよくないものも 存在する。また、板状のグラファイトのなかでも積層状態があまりよくないものもみ られ、多様な状態があることが観察された。4)ダイヤモンドのグレインで、ダイヤモンドの3方向の{111}格子像が広く見られ る (2Å)。2Åの{111}面の格子像のごく一部、この2Åの倍周期にコントラスト を示す部分が存在する。5)このダイヤモンド{111}格子像にほぼ平行にグラファイト(001)格子(3.4Å) が並び、ダイヤモンド{111}格子像に移化するようにみえる部分が存在した。これ は、グラファイトからダイヤモンドへの構造変化の過程をみているものと解釈でき る。 6)移化の途中でも約4Å周期に対応する格子が見られる(これがコンプレストグラフ ァイトに近い構造かと推定される)。以上から、このダイヤモンドはショックにより、グラファイトから転移して生成した ものであること、その転移の途中が、ごく一部のこされていること、一部ダイヤモン ドは、{111}面の2倍周期つまり、六方構造に近い構造をとっているの可能性がしめ された。これらの結果は、コンプレストグラファイトの非常にブロードな回折線、プリズム反 射のダイヤモンド回折線等.X線的特徴(Nakamuta and Aoki, 2001)と調和的であ る。Ref. Nakamuta and Aoki (2001) Meteor. & Planet. Sci., 36, A146 (abstract).
著者
西山 忠男 宮崎 一博 伊東 和彦 佐藤 博樹 金澤 英樹 玉田 攻 北澤 恒男 小池 正義
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.47, 2004 (Released:2005-03-10)

Ito et al.(2003)において合成されたカンラン石単結晶中に見られる波動累帯構造の詳細を報告し,成因を考察する.これまで2成分系において成長速度の濃度依存性を組み込んだ拡散境界層モデルが提唱されているが,われわれの場合組成変動幅が小さいので問題にならず,既存のモデルでは説明不可能である.ここではメルト中の拡散が2成分系ではなく3成分系で起こると考え,FeOとMgOの拡散係数の大きさが有意に異なる場合はSiO2のアップヒル拡散が生じることを示す.カンラン石の成長によりこのようなアップヒル拡散が生じると,拡散境界層におけるメルト組成は,カンラン石のバルク組成から外れることになり,それにより成長が阻害される.SiO2の濃度勾配が解消され,拡散境界層のバルク組成が再びカンラン石のそれに近くなると成長が再開する.このようなフィードバック機構により波動累帯構造が形成されると考えられる.
著者
沼子 千弥 山口 力也 箕村 知子 小藤 吉郎
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.107, 2003 (Released:2004-07-26)

軟体動物の貝殻には、構成する炭酸カルシウム結晶の形態により、稜柱構造(prismatic structure)、交差板構造(crossed lamellar structure)、葉状構造(foliated structure)、真珠構造(nacreous structure)などのように分類される殻体構造(shell structure)が存在する。また、炭酸カルシウムにはカルサイト、アラゴナイトのように様々な多形が存在するが、その存在比は非生物系と生物系で大きく異なっていることが、いわゆる生体鉱物におけるカルサイトーアラゴナイト問題として知られている。生物が鉱物種、結晶形態、殻体の中での分布の全てを制御しながら生体鉱物として炭酸カルシウム結晶を形成してゆくメカニズムには新規材料開発を考える上で模倣すべき点を多く含まれると考えられ興味深い。そこで本研究ではそのメカニズム解明の第一歩として、現生の軟体動物数種について実際にそれらの生物が持っている殻体構造の軟体動物の種類による存在量や分布違い、そして殻を構成する炭酸カルシウム鉱物の種類とその量比について記載を行った。 軟体動物はクロアワビ、マガキなど日本近海で採集可能なものを海水棲・淡水棲、二枚貝類・腹足類・多板綱などを網羅するようにおよそ10種類選択し、軟体部と貝殻を分離した。貝殻は風乾・粉砕後、光学顕微鏡下で殻体構造の異なるものを分類し、それぞれ走査型電子顕微鏡で観察を行った。さらに粉末X線回折計を用いて貝殻を構成する鉱物種の同定と量比の算出を試みた。またいくつかの試料について、単色ラウエ法やプリセッション写真法により、結晶の方位や状態についてさらに詳細な検討を加えた。 実験の結果、軟体動物の種類が異なると、同じ殻体構造を持っていても構成する鉱物種の種類と量に差があり、殻体構造の結晶の形状の決定要因は構成鉱物種の結晶の自形のみではないことが明らかとなった。また同一殻体構造に複数の鉱物種が存在する場合でも、異方性や結晶粒の大きさなどにも鉱物種ごとに差違が生じていることが分かった。今後より多くの種類の生物について硬組織の構造と構成鉱物種の関連を調べてゆく必要があると考えられた。
著者
鳥海 淳 三河内 岳 宮本 正道
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.146, 2003 (Released:2004-07-26)

サハラ砂漠では近年大量の隕石が発見されているが、その中には火星隕石や月隕石といった珍しい種類の隕石が比較的多く含まれているのが特徴である。本研究では、このような最近新しく見つかった隕石の1つで、外観的特徴から月隕石の可能性があるものを分析・分類した。さらに、その鉱物学的・岩石学的特徴から、この隕石の起源、および他の隕石との関係について考察を行った。 この隕石はミリメートルサイズの岩片とそれよりやや小さい鉱物破片が黒灰色の石基に埋まっている角レキ化した組織を示し、主要構成鉱物は斜長石、輝石、カンラン石である。岩片には、いくつかの種類のものが見られるが、特徴的なものとしては、オフィティックな玄武岩質のものやインターサータルな組織を示すもの(インパクトメルト)が含まれる。輝石の組成は、非常に幅広く、En81Fs16Wo3からEn2Fs78Wo20を経由して、En34Fs34Wo32に及んでいる。特に、オフィティックな玄武岩質の岩片中に見られる輝石は著しい化学的ゾーニングを示している。輝石のFe/Mn(重量%比)は、60から70である。カンラン石の組成は、Fa14からFa61の範囲であるが、大部分のものは、Fa16-40である。斜長石は、An成分に富んでおり、An91からAn98となっている。他に少量であるが、アパタイト、シリカ、鉄ニッケルのメタルなども含まれている。また、その他の鉱物学的特徴としては、輝石中に幅最大数マイクロメートルの離溶ラメラが観察された。 以上の鉱物学的・岩石学的研究の結果(特に輝石のFe/Mn比より)、この隕石は月起源だと考えられ、しかも月の高地の部分の物質と海の部分の物質の両方を含んでいることが分かった。分類としては、月起源角レキ岩である。また、他の月隕石との比較の結果によると、この隕石はYamato793274/981031、EET87521/96008、QUE94281と最もよく似ており、同じ月の部分からきた可能性がある。しかし、これらは、いずれも南極隕石であり、この隕石と地球への落下がペアとは考えられない。また、その他のサハラ砂漠産の月隕石に、この隕石とペアととなるものもこれまで見つかっていない。この隕石はまだ正式名が付いていないために、現在その作業を進めているところである。
著者
山田 隆 滝沢 実 丹下 一夫
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.123, 2003 (Released:2004-07-26)

埼玉県秩父市浦山の旧マンガン鉱山から本邦で初めて確認されたメタスウィッツァー石(metaswitzerite)について、その鉱物学的性質と共出鉱物に関し報告する。 メタスウィッツァー石;(Mn,Fe)3(PO4)2・4H2Oは1967年に初めてスウィッツァー石(switzerite)として記載されたが、その後の研究で7水和物;Mn3(PO4)2・7H2Oの脱水したものと確認されたため、1986年に7水和物をswitzerite、4水和物をmetaswitzeriteと再定義された。いずれも、North Carolina州、Kings Mountain近郊のFoote Mineral Company spodumene mineの石英-長石-リチア輝石ペグマタイトの割れ目より産した。スウィッツァー石は短時間で不可逆的に脱水しメタスウィッツァー石に変化するため新鮮な標本はまれである。鉱物名は、スミソニアン博物館の鉱物科学部門の名誉部長であるGeorge Switzer博士にちなんでswitzeriteが、その変化型としてmetaswitzeriteが名付けられた。 浦山の変成層状マンガン鉱床から産するメタスウィッツアァー石は、菱マンガン鉱やばら輝石からなる低品位のマンガン鉱石の割れ目に、長さ数ミリ以下のガラス光沢白色半透明の長板状結晶あるいは絹糸光沢半透明針状結晶として産する。いずれも若干の黄色から桃色味を呈する。劈開は板の方向に完全で脆く、硬度は2以下である。 化学組成は、Mn,Fe,Pを主成分としZnやAsは含まない。 X線粉末回折(XRD)パターンd(Å),(相対強度):8.54(100), 7.14(34), 6.77(29), 6.38(21), 5.01(16), 4.87(22), 4.25(26), 3.63(13), 3.15(10), 2.84(12), 2.77(12), 2.13(14), 2.11 (12) となり原産地のデータとよい一致を示す。 本鉱物は、母岩の割れ目から空気中にさらされた後一定時間が経過しており、もともとスウィッツァー石であった可能性も否定できない。新たな新鮮な標本の獲得がまたれる。
著者
宮島 宏 松原 聰 宮脇 律郎 三石 喬
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.125, 2003

ミャンマー産ひすい輝石岩から、ストロナルシ石成分を最大48 mol%含むSrに富むバナルシ石(以下、Sr-Bnl)が発見された。バナルシ石はNa<SUB>2</SUB> Ba Al<SUB>4</SUB> Si<SUB>4</SUB> O<SUB>16</SUB>なる組成を持つ長石族鉱物で、イギリス・WalesのBenallt鉱山が原産地である(Smith et al., 1944)。原産地以外には、スウェーデン (Welin, 1968)、東京都白丸鉱山(加藤ら, 1987)、ミャンマー(Harlow and Olds, 1987)、ロシア(Koneva, 1996)、南アフリカから報告がある。本報告のSr-Bnlは淡緑色半透明緻密堅硬のひすい輝石岩中に、無色透明ガラス光沢、最大1.5cm×0.7cmの不規則形で偏在していた。Benalltや白丸のバナルシ石と同様、短波長紫外線で赤色蛍光を発する。青紫色異常干渉色と不規則な消光を示し、明瞭な劈開はない。ひすい輝石岩の空隙を充填したような産状を示すが、(1) Sr-Bnlと接するひすい輝石は半自形結晶で破断されていないこと、(2) Sr-Bnlに包有される自形から半自形のひすい輝石があること、(3) Sr-Bnlの外形が丸みを帯びた不規則形であることから、Sr-Bnlはひすい輝石岩が脆性破壊を被って生じた割れ目に後から晶出したものではなく、ひすい輝石岩生成の晩期にひすい輝石とともに熱水条件下で生じたものと考えられる。<br> EDSによる代表的分析値は、SiO<SUB>2</SUB> 37.79, Al<SUB>2</SUB>O<SUB>3</SUB>31.81, BaO 14.66, SrO 6.52, Na<SUB>2</SUB>O 9.34, Total 100.12 wt%で、これからNa<SUB>1.92</SUB> (Ba<SUB>0.61</SUB> Sr<SUB>0.41</SUB>) <SUB>Σ1.02</SUB> Al<SUB>3.98</SUB> Si<SUB>4.01</SUB> O<SUB>16</SUB>という実験式(O=16)を得る。BSE-imageでは、Ba/(Ba+Sr)=0.67-0.52の組成変動に対応する若干の濃淡が認められるが、大半はBa/(Ba+Sr)=0.6前後の組成である。バナルシ石のSr置換体がストロナルシ石(stronalsite Na<SUB>2</SUB> Sr Al<SUB>4</SUB> Si<SUB>4</SUB> O<SUB>16</SUB>)で、Hori et al., (1987)が高知市蓮台の変塩基性凝灰岩中の脈から報告した。他に岡山県大佐町のひすい輝石岩(Kobayashi et al., 1987)、ロシアZhidoisky massifの輝岩中の脈(Koneva, 1996)、糸魚川・青海地域と兵庫県大屋町のひすい輝石岩(宮島ら, 1998)から産出報告がある。<br> Harlow and Olds (1987)のミャンマー産バナルシ石は端成分に近い組成で、母岩はコスモクロア輝石、クロム鉄鉱、ニーベ閃石、エッケルマン閃石などを含む特異な岩石でひすい輝石岩ではない。本報告のようにバナルシ石とストロナルシ石の中間的な組成ものはKoneva (1996)による報告が唯一である。<br> 蓮華帯のひすい輝石岩からは、その生成晩期に熱水条件下で生じたSrやBaを主成分とする鉱物が報告されている(例えば、Miyajima et al., 1998による糸魚川石)。しかし、ミャンマー産ひすい輝石岩からは未発見だった。今回、Sr-Bnlが発見されたことで、ひすい輝石岩にSrやBaを主成分とする鉱物が出現することが蓮華帯のひすい輝石岩に限られた特異な現象ではないことが明らかになった。日本やミャンマーのひすい輝石岩にSrやBa鉱物が共通して産することは、その生成機構と密接に関係したことであろう。
著者
湊 淳一 キム ワイージェイ 山田 裕久 渡辺 雄二郎 田村 堅志 横山 信吾 チョー エスービィ 小松 優 スティーブンス ジィーダブリュー
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.102, 2004

産業・生活廃水中のアンモニウムイオンは、河川や湖に富養化をもたらしている。その吸着・除去剤として安価な天然ゼオライトが注目されている。天然ゼオライトのアンモニウムイオン吸着効率は、ゼオライト種、交換性陽イオン容量、長石やイライトなどの不純物量などによって決定される。本研究では、クリノプチロナイトとモルデナイトを主成分とする韓国産の天然ゼオライトを空気分級法を用いて、異なる粒径の試料に調整した。空気分級されたそれぞれの試料は、XRD、粒径測定、SEM-EDS、ICP-MSを用いて特徴付けた。さらにそれぞれのアンモニウム吸着量の粒径依存性について明らかにしたので報告する
著者
柳澤 教雄
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.87, 2004

地熱発電所や実験・開発プラントにおいては、アモルファスシリカや炭酸カルシウム、硫化鉱物や鉄鉱物など、さまざまな地熱水由来のスケール鉱物が沈殿する。そのスケールの種類は、熱水の温度、pH、共存成分などに依存する。 ところで、日本の地熱発電所では生産熱水を地下に還元しており、それらが地下で加熱され、一部は再び生産に寄与する。そのプロセスをきわめて早くし、地上から河川水等を注入することで熱を取り出すのが高温岩体発電の考え方で2002年まで日本では肘折などで実験が行われ、現在ではオーストラリアなどで実用化にむけての開発が行われている。また、既存の地下貯留層の多くは、雨水や地下水が、断層亀裂などを通して、長時間かけて地下深部に到達することで形成されている。このような地下還元プロセスの時間の差もスケールの生成に関与している。以下、事例を示す。1)高温岩体システムのように、数時間_から_数日で地上から注入された水が加熱されて地上に戻ってくる場合、地下に到達した時点で100℃以下の低温であるため、その周辺の硬石膏を溶解する。硬石膏は高温で溶解度が低いため、地下の加熱の間に析出される。その際、地下でCa濃度が高いまま地上に達すると今度は、地上の二酸化炭素と反応しカルサイトやアラゴナイトを析出させる。 スケール生成状況は、注入井から生産井までの距離や貯留層の滞在時間にも左右される。その距離が70m前後で数時間の滞在であるHDR-2の場合、熱水ラインのスケールは、循環当初は50-70%がアモルファスシリカであったが、井戸の急速な温度低下がおこって以後は、カルサイトやアラゴナイトが増加し、シリカは1%程度の少量となった。また、3ヶ月のスケール沈積量は40mmと厚いものであった。地上でのSO4濃度は700ppm程度であるが、Ca濃度は140ppm前後であることも、地上でのCaとCO3の反応を示している。 一方、距離が130m以上で数日の滞在であるHDR-3の場合、熱水ラインのスケールは循環期間を通してアモルファスシリカ(70%程度)と磁鉄鉱(10%程度)が主でありで炭酸カルシウムは5%以下であった。また、沈積量も1mm以下と少なかった。これは、HDR2に比べ貯留層内の滞在時間が長く、温度も高いので、貯留層内や坑内での硬石膏の再沈殿がおこり、坑内のCa,SO4濃度はHDR2に比べて1/5程度となり、地上部でCaCO3が沈殿する条件にはならなかったと考えられる。そして、地上部での熱水中のSiO2濃度は、高温のためHDR-2の2倍程度あり、相対的にシリカスケールが主成分となったと考えられる。2)従来型の地熱発電所においても地下還元の影響で温度が逆転する箇所があると、そこに硬石膏が析出する。たとえば、澄川では、半月から1月程度で還元熱水が生産井に達するが、そのような井戸の深度2000m以上で、温度が逆転する箇所への硬石膏の付着が報告されている(加藤ほか(2000))3)地熱発電所の生産が継続する過程で、貯留層の圧力低下に伴い、より浅い部分の熱水や地下水の影響を受けることがある。たとえば、葛根田では、マグマ活動起源の金属元素を含むスケールが沈積する。初期のpHは4程度であったが、生産を継続するうちに、pHが上昇し、温度が低下するとともに、スケールの種類もひ鉄鉱、斑銅鉱から四面銅鉱に変化していくこと、シリカスケールの減少が示されている。