著者
山下 勝 金藏 満次 津田 達志 丹下 達也
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.86, no.11, pp.874-879, 1991
被引用文献数
1 2

発酵調味料貯蔵タンクの底に, 冬期白色沈澱物が多量に析出した。これを分離し, 調べたところ, キサントプロテイン反応+, フォリン反応+であり, 薄層クロマトグラフィーのRfがチロシンと一致し, かつ赤外吸収スペクトルからもチロシンであることが確認された。<BR>析出が認められた発酵調味料は, アミノ酸度が7m1以上と高くかつチロシンも400-500ppm含まれていた。この高濃度チロシンが冬期の低温で溶解度が減少し, 沈澱物として析出したものと考えられた。<BR>発酵調味料を活性炭処理すると, チロシンが析出しやすくなった。活性炭処理をした発酵調味料は, チロシン溶解度が減少しており, 活性炭吸着物はチロシン溶解度を向上させた。活性炭に吸着されたアミノ酸を調べたところ, トリプトファン, フェニールアラニン, メチオニン, パリン, プロリン, シスチン, リジン, グルタミン酸, セリン等が多く認められた。これらのアミノ酸のチロシン溶解度向上力を調べたところ, チロシン溶解度を向上させるものが多く, 特に, トリプトファン, リジン, シスチン, グルタミン酸等は溶解度向上が著しかった。これらの結果から, 活性炭処理は, 各種アミノ酸を吸着除去するため, チロシンの溶解度が減少し, その結果, チロシンが析出することがわかった。<BR>アミノ酸以外にチロシンの溶解に関係する成分はないか調べたところ, エチルアルコール濃度が大きくなるとチロシン溶解度が減少することが認められたが, その他のグルコース濃度, 食塩濃度, 乳酸濃度, pH等はチロシン溶解度にはあまり大きく関与しなかった。<BR>チロシン析出防止法としては, チロシン含量を400ppm以下にすること, アミノ酸度を7m1以下にすること (アミノ酸度に比例してチロシン含量が減少するため), あるいはチロシンの溶解度を向上させるようなアミノ酸類 (カザミノ酸, 清酒古粕水抽出液等) を添加することが考えられる。一番簡単なのは, チロシン含量の少ない他の発酵調味料を添加することであるが, あるいは糖液を加えて火入れすることにより, メーラード反応を進行させチロシン含量を減少させるのも現場サイドでの実用的なチロシン析出防止法となり得ると思われる。