著者
丹羽 節
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

銀(II)錯体は古くからその合成例が知られ、酸化剤として有機合成への利用が試みられていた。通常官能基化が困難な炭素-水素結合の酸化など特徴的な反応性が見いだされてきた一方で、実際の合成に用いられることはほとんどなかった。その要因として、銀(II)錯体を大過剰量必要とする点、またほとんどの有機溶媒に不溶な点が挙げられる。申請者が当該年度に研究を行ったハーバード大学Ritter教授のグループでは、銀(II)錯体が中間体として示唆される興味深い芳香族フッ素化反応を見いだしている。本反応では強力な酸化剤である求電子的フッ素化剤により銀(II)二核錯体を経由し、さらに他の遷移金属では進行しにくいとされる炭素-フッ素結合の還元的脱離を経ていると考えられている。これらの知見より、適切な配位子と酸化剤を用いることで、銀(II)錯体特有の反応性を活かした触媒的酸化反応の開発を行えると考え研究を行った。その結果、3座ピリジン配位子を有する銀(I)錯体に酸化剤を組み合わせることで、芳香族化合物のベンジル位の酸化反応、ベンジルアルコールの酸化反応、またスチレン化合物の二量化反応が触媒的に進行することを見いだした。今後これらの反応の反応機構解析を行うことで、本反応の最適化、実際的な応用を行う。炭素-水素結合の官能基化など、銀(II)錯体の反応性は他の遷移金属と比べ一線を画しており、従来多用されてきたパラジウム錯体などで実現困難だった変換を開発できる可能性があり期待される。