著者
丹藤 博文
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.2-9, 2005

森鴎外『高瀬舟』を授業で扱った。私の予想に反して登場人物「喜助」に強く印象づけられている読者が多かった。教室の読者に促されるようにして再読し、このテクストの語りの関係性を検討してみたところ、喜助の超越性に読者の思いが向くように仕掛けられており、そのレベルにこそ批評性があることが明らかになった。喜助という他者を読むことがこのテクストの読みである。メディア社会といわれ自己中心的な言説が横行する今日こそ、<読み方>を問題とし、文学作品を深く読むことによって、他者性の衝撃に撃たれることがいっそう重要になることを論じた。
著者
丹藤 博文
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.10-22, 1998-03-10

最近の「教育改革」なるものの本質は、一部のエリート養成に主眼を置き弱者を切り捨てようとする点にある。定時制高校のように、システムの末端に位置する学校は容易につぶされようとしているのである。しかも、所謂「新自由主義教育論」の言説は、「自由」や「個性」あるいはまた「生きる力」などといった美名のもとに、教育の商品化・複線化・階層化を断行しようとしている点に特徴があるといってよい。授業では、メロスの愛と友情と信実の物語として流通する「走れメロス」をパロディ化し変形することによって、読みを二重化し、そこから深層の意味に迫ることを試みた。