著者
富田 昌平 久世 彩加 河内 純子 Tomita Shohei Kuze Ayaka Kawachi Junko
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学・教育実践 = Bulletin of the Faculty of Education, Mie University. Natural Science, Humanities, Social Science, Education, Educational Practice (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
no.72, pp.335-350, 2021-02-26

本研究では,幼児はかっぱおやじというローカルな空想上の存在のリアリティをどのように生成し共有するのかについて探った。年中クラスの11月から年長クラスの11月までの1年間,かっぱおやじをめぐる子どもたちの語りや行動を観察とインタビューで詳細に記録し,分析した。その結果,存在のリアリティの生成と共有に関しては,次の5つの特徴が見出された。第1に,その存在は子どもにとって不可解な結果に遭遇した時,その原因を説明しようと動機づけられて生じていた。第2に,その存在は本来的に観察不可能であるが,一瞬の経験(見る,聞く,触れるなど)に関する目撃談が仲間内で共有されることによって,観察可能な確かな存在へと認識が変化した。第3に,その存在は超自然的能力(姿の消失,瞬間移動,固形物の通り抜けなど)を持ち,その能力を使って他者を驚かせたり悪さしたりできると考えられていた。第4に,その存在の超自然的能力に基づく行動は,張り紙(護符)やお守りの活用によって制限できると考えられていた。第5に,その存在を含む集団の中には悪い者だけでなく良い者もおり,コミュニケーション可能であり,付き合い方によっては幸運をもたらしてくれると考えられていた。また,発達と遊びの展開に関しては,年長クラスとは異なり,年中クラスでは保育者の手を借りずに独力でアイデア同士をつなげ,特定のストーリーラインをつくり出し,遊びを展開させることが困難であることが示唆された。最後に,幼児が想像によってつくり出す空想世界の意味について議論された。