著者
真鍋 和夫 御手洗 征明 久保 輝一郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
工業化学雑誌 (ISSN:00232734)
巻号頁・発行日
vol.71, no.11, pp.1828-1835, 1968-11-05 (Released:2011-09-02)
参考文献数
18
被引用文献数
6

酢酸ビスマス(III)(Bi(CH3COO)3)の熱分解の機構を,熱重量分析,示差熱分析,X線分析,質量分析および化学分析の方法で追跡した。結果はっぎの通りである。酢酸ビスマス(III)は,50~200℃ で酢酸を放出して分解し,酢酸ビスムチル(BiOCH3COO)を生成する。酢酸ビスムチルは,280~320℃ でアセトン,炭酸ガス,水などを放出して分解し金属ビスマスとなる。金属ビスマスは空気中の酸素により酸化されて酸化ビスマス(III)となるが,分解温度370℃ 以下では酸化ビスマス(III)の新結晶変態を生成し,分解温度390℃ 以上ではα-酸化ビスマス(III)となる。この結晶転移は, 370~390℃ で生起し, 非可逆的であり, 発熱反応である。この新酸化ビスマス(III)は,酢酸ビスマス(III)の空気中の熱分解で, 分解温度320℃ で純粋なものとして生成する。そして,それはX線回折図形から考えて,歪んだ三二酸化マンガン型の結晶構造(正方晶系)をもつ。
著者
久保 輝一郎 加藤 誠軌 白崎 信一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
工業化学雑誌 (ISSN:00232734)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.1767-1771, 1962-11-05 (Released:2011-09-02)
参考文献数
13
被引用文献数
3

α,β,γ-FeOOHの空気中での熱分解過程を高温X線回折,示差熱分析,熱天秤,電子顕微鏡などによって追跡した結果,三者とも約50~240℃で吸着水が離脱するが,続いておこる1分子の結晶水(2FeOOH=Fe2O3・H2O)の離脱とα-Fe2O3への結晶化過程では,三者でその生起温度範囲と結晶化学的挙動に著しい違いが誌められた。なお,γ-FeOOHの脱水によってはX線的には直接α-Fe2O3に変化し,γ-Fe2O3の生成は認められなかった。高温X線回折図形から計算した粉末の格子面間隔変位は,脱水過程では脱水自体による格子面間隔の縮小あるいは膨張により,また結晶化・焼結過程では格子の熱膨張だけによると考えられ,後者は出発物質のオキシ水和鉄の種類によってその値に多少の差が認められ粉末の構造敏感な性質の一つと考えられる。この際,Tammann,Mansuriらの考えた絶対温度での自己拡散の顕著になる温度と融点との比を0.5(無機化合物の場合)にとると格子の熱膨張および自己拡散の顕著になり始める温度はほぼ一致する。