著者
久保 輝一郎 加藤 誠軌 白崎 信一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
工業化学雑誌 (ISSN:00232734)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.1767-1771, 1962-11-05 (Released:2011-09-02)
参考文献数
13
被引用文献数
3

α,β,γ-FeOOHの空気中での熱分解過程を高温X線回折,示差熱分析,熱天秤,電子顕微鏡などによって追跡した結果,三者とも約50~240℃で吸着水が離脱するが,続いておこる1分子の結晶水(2FeOOH=Fe2O3・H2O)の離脱とα-Fe2O3への結晶化過程では,三者でその生起温度範囲と結晶化学的挙動に著しい違いが誌められた。なお,γ-FeOOHの脱水によってはX線的には直接α-Fe2O3に変化し,γ-Fe2O3の生成は認められなかった。高温X線回折図形から計算した粉末の格子面間隔変位は,脱水過程では脱水自体による格子面間隔の縮小あるいは膨張により,また結晶化・焼結過程では格子の熱膨張だけによると考えられ,後者は出発物質のオキシ水和鉄の種類によってその値に多少の差が認められ粉末の構造敏感な性質の一つと考えられる。この際,Tammann,Mansuriらの考えた絶対温度での自己拡散の顕著になる温度と融点との比を0.5(無機化合物の場合)にとると格子の熱膨張および自己拡散の顕著になり始める温度はほぼ一致する。