- 著者
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久保田 将史
小林 琢也
- 出版者
- 岩手医科大学歯学会
- 雑誌
- 岩手医科大学歯学雑誌
- 巻号頁・発行日
- vol.40, no.1, pp.51-68, 2015
高齢者人口の増加に伴い,味覚障害患者が増加している.味覚障害の病態と原因は多岐にわたり,歯科領域では口蓋を被覆する床義歯を装着した患者がしばしば味覚障害を訴えることがある.しかし,その因果関係は未だ明らかでない.本研究で義歯装着による味覚障害の原因を明らかにすることを目的に,従来までの主観的評価による検討ではなく,上位中枢より客観的評価が可能な非侵襲的脳マッピング法の1つであるfunctional Magnetic Resonance Imaging (fMRI)を用いて,口蓋の被覆が味覚応答に及ぼす影響を脳機能応答の観点から検討した.実験は,口蓋単独での味覚応答を脳機能応答として捉えるため,右利き健常有歯顎者15名を対象とし,口蓋に限局した味刺激を与えた.次に,口蓋被覆が味覚応答に及ぼす影響の検討を行うため,右利き健常有歯顎者14名に口蓋を被覆しない状態(コントロール)と口蓋を被覆した状態(口蓋被覆)で味刺激を与えた.両実験は,味刺激試液として各被験者の認知閾値に設定したキニーネ塩酸塩,洗浄用試液として人工唾液(25mM KCl, 25mM NaHCO_3)を用いた.本研究より,口蓋へ限局した苦味刺激により一次味覚野の島と前頭弁蓋部に賦活が認められた.また,口蓋被覆時の刺激では,コントロールと同様に一次味覚野の島と前頭弁蓋部,そしてさらに二次味覚野の眼窩前頭皮質に賦活が認められた.しかし,両条件間の脳活動範囲と脳活動量を比較したところ,口蓋被覆により一次味覚野と二次味覚野での賦活範囲は有意な減少が認められ,脳活動量においても一次味覚野で有意な減少が認められた.以上より,口蓋での味覚刺激応答が上位中枢で行われていることを客観的に捉えることができた.また,義歯による口蓋粘膜の被覆が,脳内の味覚応答を低下させることが明らかとなり,床義歯装着が味覚障害を惹起させることが示唆された.