著者
久岡 朋子 森川 吉博 北村 俊雄 小森 忠祐
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

自閉症リスク遺伝子として知られているKirrel3遺伝子の欠損マウスを作成し、その行動解析を行った結果、自閉症様の行動に加えて、多動(ADHD様行動)を伴うことを見いだした。さらにKirrel3欠損マウスにおいて、小脳や副嗅球のシナプス部の構造異常を見いだした。これらの結果から、Kirrel3遺伝子欠損による小脳や嗅覚神経回路・シナプス回路の形成異常は、ADHDを伴う自閉症様行動の発現に関与している可能性が考えられた。ADHDを伴う治療抵抗性の自閉症患者で異常となる脳領域・神経回路に関しては不明であり、本研究結果はADHDを伴う自閉症の病態解明につながる重要な知見を提供すると考えられる。
著者
久岡 朋子
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

[1]発達過程、及び成獣のKirrel3欠損マウスにおいて、小脳バスケット細胞とプルキンエ細胞間(ピンスー)シナプスのバスケット細胞軸索の分枝に異常があるかを検討するために、NF200の免疫染色を行った結果、野生型マウスと比べてKirrel3欠損マウスでNF200陽性領域と輝度の有意な増加が認められた。さらに、ビルショウスキー染色を用いてバスケット細胞軸索の分枝形態を検討した結果、Kirrel3欠損マウスで過剰な分枝が見られた。[2]オープンフィールドテストにおける多動(ADHD)を伴う常同行動(ASD)の亢進により活性化、または抑制される脳部位を、神経活動依存的に発現するc-fos蛋白を指標として、野生型とKirrel3欠損マウス間で比較した結果、いくつかの領域で異常を見いだしており、現在、個体数を増やして解析中である。[3] Kirrel3欠損マウスにADHD治療薬でドーパミン伝達系の賦活薬であるメタンフェタミンを腹腔内投与し、オープンフィールドテストによりADHD様行動(多動)が改善するかを検討した結果、メタンフェタミン非投与群と比べて多動の有意な亢進が見られた。この結果から、Kirrel3欠損マウスのADHDを伴うASDの病態として、ADHDで報告されているドーパミン伝達系の低下ではなく、ドーパミン伝達系の亢進が関連している可能性が示唆された。[意義・重要性] ADHDを伴うASD様行動を示すKirrel3欠損マウスの小脳において、ピンスーシナプスの形成に異常が見られ、ADHD治療薬であるドーパミン系賦活薬の投与によりADHD様行動の増悪が見られたことから、この疾患の新たな病態を見いだした。これらの知見から、ADHDを伴うASDと小脳やドーパミン伝達神経回路との関連性をさらに解明することで、ADHD単独の病態とは異なるこの疾患の治療法の開発に役立つと考えられる。