- 著者
-
久岡 朋子
- 出版者
- 和歌山県立医科大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2018-04-01
[1]発達過程、及び成獣のKirrel3欠損マウスにおいて、小脳バスケット細胞とプルキンエ細胞間(ピンスー)シナプスのバスケット細胞軸索の分枝に異常があるかを検討するために、NF200の免疫染色を行った結果、野生型マウスと比べてKirrel3欠損マウスでNF200陽性領域と輝度の有意な増加が認められた。さらに、ビルショウスキー染色を用いてバスケット細胞軸索の分枝形態を検討した結果、Kirrel3欠損マウスで過剰な分枝が見られた。[2]オープンフィールドテストにおける多動(ADHD)を伴う常同行動(ASD)の亢進により活性化、または抑制される脳部位を、神経活動依存的に発現するc-fos蛋白を指標として、野生型とKirrel3欠損マウス間で比較した結果、いくつかの領域で異常を見いだしており、現在、個体数を増やして解析中である。[3] Kirrel3欠損マウスにADHD治療薬でドーパミン伝達系の賦活薬であるメタンフェタミンを腹腔内投与し、オープンフィールドテストによりADHD様行動(多動)が改善するかを検討した結果、メタンフェタミン非投与群と比べて多動の有意な亢進が見られた。この結果から、Kirrel3欠損マウスのADHDを伴うASDの病態として、ADHDで報告されているドーパミン伝達系の低下ではなく、ドーパミン伝達系の亢進が関連している可能性が示唆された。[意義・重要性] ADHDを伴うASD様行動を示すKirrel3欠損マウスの小脳において、ピンスーシナプスの形成に異常が見られ、ADHD治療薬であるドーパミン系賦活薬の投与によりADHD様行動の増悪が見られたことから、この疾患の新たな病態を見いだした。これらの知見から、ADHDを伴うASDと小脳やドーパミン伝達神経回路との関連性をさらに解明することで、ADHD単独の病態とは異なるこの疾患の治療法の開発に役立つと考えられる。