著者
久木田 洋児
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

改良型NOIR-SeqSの臨床検体における性能評価を行うため、膵癌検体解析用に設計した遺伝子パネルの標的領域について、膵癌患者/健常者集団(第1コホート.膵癌57人、健常12人.)から抽出した血漿DNAを解析した。その結果、膵癌患者31人(54%)、健常者5人(42%)から変異を検出した。最近、癌に特異的な変異以外に、試料の保存中に生じたDNA損傷に由来する塩基変化や正常細胞中に生じた癌に関与しない体細胞変異の存在が指摘されており、健常者で見つかった変異はそれらに該当すると考えられた。癌に特異的ではない変異は癌患者検体の変異検出解析の障害になるので区別して除く必要があり、それを可能にする情報学的なフィルターの開発に取り組んだ。第1コホートを学習データとして扱い、癌体細胞変異を網羅しているCOSMICデータベースから独自基準に従って癌特異的変異を選択し、癌に特異的ではない変異を除くCV78フィルターを考案した。CV78フィルターを使って再解析すると、変異が検出された人数は、膵癌患者19人(33%)、健常者0人となり、癌と関係のない変異を除くことが出来た。この結果を検証するために、前出集団とは別の第2コホート(膵癌患者86人と良性の膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)患者20人)を解析した。改良型NOIR-SeqS単独解析では、膵癌患者62人(72%)、IPMN患者10人(50%)で変異が検出されたが、CV78フィルターを用いると、32人(37%)、1人(5%)になり、CV78フィルター後の変異検出率は独立した上記2集団で同様になった。また、膵癌患者のKRAS変異検出率は他方法を用いた他グループからの報告と同等であったことから、今回開発した改良型NOIR-SeqSとCV78フィルターを組み合わせた変異検出システムが臨床検体の解析に有用であることを確認することが出来た。