著者
乾 美浪 乾 久子 菊地 淳一 木村 全邦
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.71, 2011 (Released:2012-02-23)

トガサワラ属には、北米西海岸に広く分布し主要林業樹種であるダグラスファー(Pseudotsuga menziesii)、南カリフォルニアに分布するP. macrocarpaと、日本のトガサワラ(P. japonica)、中国南部のP. sinensisとP. wilsonianaの計5種があり、北アメリカと東アジアに隔離分布している。ダグラスファーについては林業上重要な樹種であり、苗木の育成等の目的から共生菌についての研究も多く,2000種を超える菌根菌と共生するという推定もある。しかし,日本や中国南部に分布するトガサワラ属の樹種についての共生菌の研究は少ない。本研究は日本のトガサワラと共生する外生菌根菌相を明らかにすることを目的として行っており、昨年度の菌学会で報告したものの続きである。2009年の10月より2010年12月にかけて奈良県南部の川上村に自生するトガサワラ成木計49本(胸高直径約15~90 cm)より、直径5 mm以下の側根を各木につき50~100 cm程度採取した.採取にあたっては,側根をトガサワラの幹まで辿り、当該のトガサワラの根系であることを確認した。採取した根はビニール袋に入れて持ち帰り4℃で保管し、実体顕微鏡下で菌根のタイプ分けを行った.タイプ分けに当たっては、できる限り多くのタイプに分けるように努めた.1本の木について8~20弱程度のタイプに分けられ、総計約700タイプとなった。菌根からCTAB法によりDNAを抽出し、NSA3, NLC2のプライマーとITS1F, ITS4のプライマーを用いてネストPCRによりITS領域を増幅し、塩基配列を決定後DDBJのBlast検索を用いて該当する菌種名を検索した.約2割のタイプについて解析が終了しており、52種が同定された。ベニタケ科が2割、フウセンタケ属が1割弱と比較的多かった。また複数の木に同じ種が見られた割合は2割以下、1つのサンプルについて別タイプと分けた物が同じ種に属していたものの割合は約3割であることから、かなり多様性は高いと思われる.未決定のサンプルが多いため,今後配列の決定をさらに行いより詳細な菌根菌相を明らかにする予定である.