著者
工藤 伸一 長澤 栄史
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.4, 2011 (Released:2012-02-23)

青森県内のブナ林および草地で採集された3種類のきのこを調査した結果,それぞれヌメリガサ科のヌメリガサ属(Hygrophorus)およびアカヤマタケ属(Hygrocybe)に所属する新種と考えられたのでここに報告する. 1)Hygrophorus albovenustus (sp. nov., nom. prov.)-オシロイヌメリガサ(新称):子実体は10月にブナ林内に群生.やや小型で全体白色.傘および柄は粘液で覆われる.ひだは白色、古くなると褐変する.胞子は倒卵形~長楕円形,6.5-8.8(-9.5)×3.8-5.2(-6.5)μm,無色,平滑,非アミロイド. 担子器は4胞子性,26-35×6-7.5μm.ひだ実質は散開型.傘表皮は粘毛被.ヨーロッパのH. discoxanthus (Fr.) Rea に類似するが,同種は子実体がより大形で,古くなると傘の縁が赤褐色に変色すること,担子胞子が多少大形であることなどの特徴において異なる. 2)Hygrocybe pallidicarnea (sp. nov., nom. prov.)-ウスハダイロガサ(新称):子実体は10月に草地に群生.やや小型で,傘は中高の平たい丸山形,表面は粘性なく内生繊維状,肌色で乾燥すると淡紅色.ひだおよび柄は白色.胞子は広楕円形~楕円形,6-7.5×4-4.8μm,無色,平滑,非アミロイド.担子器は4胞子性,44-54×5.8-7μm.ひだ実質は錯綜型.傘表皮は平行菌糸被.Cuphohyllus亜属に所属する.H. pratensis (Pers.: Fr.) Murrill に類似するが,同種は傘の色がより濃色で淡紅色とならず,胞子がより大形であることで異なる. 3)Hygrocybe atroviridis (sp. nov., nom. prov.)-フカミドリヤマタケ(新称):子実体は8月に草地に少数群生.小型で,傘は平たい丸山形,表面は濃緑色,粘性はなく多少ささくれる.胞子は卵形~楕円形,7-10×(5-)5.5-6.8(-7.4)×(3.5-)4.5-6(-7)μm,無色,平滑,非アミロイド.担子器は4または2胞子性,30-52×6-12μm.ひだ実質は並列型,菌糸は長さ-500μm,幅10-35μm.傘表皮は平行菌糸被.Hygrocybe亜属に所属する.子実体が緑色で粘性がない特徴において,インドに分布するH. smaragdina Leelav., Manim. & Arnolds,ブラジルで発生が知られているH. viridis Capelari & Maziero およびカリブ海域の小アンチル諸島から報告のあるH. chloochlora Pegler & Fiardなどに類似するが,それらとは胞子の形状および大きさなどの点で異なる.
著者
乾 美浪 乾 久子 菊地 淳一 木村 全邦
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.71, 2011 (Released:2012-02-23)

トガサワラ属には、北米西海岸に広く分布し主要林業樹種であるダグラスファー(Pseudotsuga menziesii)、南カリフォルニアに分布するP. macrocarpaと、日本のトガサワラ(P. japonica)、中国南部のP. sinensisとP. wilsonianaの計5種があり、北アメリカと東アジアに隔離分布している。ダグラスファーについては林業上重要な樹種であり、苗木の育成等の目的から共生菌についての研究も多く,2000種を超える菌根菌と共生するという推定もある。しかし,日本や中国南部に分布するトガサワラ属の樹種についての共生菌の研究は少ない。本研究は日本のトガサワラと共生する外生菌根菌相を明らかにすることを目的として行っており、昨年度の菌学会で報告したものの続きである。2009年の10月より2010年12月にかけて奈良県南部の川上村に自生するトガサワラ成木計49本(胸高直径約15~90 cm)より、直径5 mm以下の側根を各木につき50~100 cm程度採取した.採取にあたっては,側根をトガサワラの幹まで辿り、当該のトガサワラの根系であることを確認した。採取した根はビニール袋に入れて持ち帰り4℃で保管し、実体顕微鏡下で菌根のタイプ分けを行った.タイプ分けに当たっては、できる限り多くのタイプに分けるように努めた.1本の木について8~20弱程度のタイプに分けられ、総計約700タイプとなった。菌根からCTAB法によりDNAを抽出し、NSA3, NLC2のプライマーとITS1F, ITS4のプライマーを用いてネストPCRによりITS領域を増幅し、塩基配列を決定後DDBJのBlast検索を用いて該当する菌種名を検索した.約2割のタイプについて解析が終了しており、52種が同定された。ベニタケ科が2割、フウセンタケ属が1割弱と比較的多かった。また複数の木に同じ種が見られた割合は2割以下、1つのサンプルについて別タイプと分けた物が同じ種に属していたものの割合は約3割であることから、かなり多様性は高いと思われる.未決定のサンプルが多いため,今後配列の決定をさらに行いより詳細な菌根菌相を明らかにする予定である.
著者
佐藤 博俊
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.2, 2011 (Released:2012-02-23)

菌類は、地下部において膨大なバイオマスをもち、しばしば他の生物と密接な共生関係を結んでいる生物群であり、森林生態系の中で中核的な存在となりうる生物群である。その中でも、菌根菌は植物と密接な相利共生関係を結んでいることが知られており、とりわけ重要な機能群である。しかしながら、菌根菌がどういった植物種と共生するのかということ(宿主特異性)については、先行研究では十分に正確な情報が得られていなかった。菌根菌の宿主特異性の解明の妨げとなっている要因の一つは、菌類における隠蔽種の問題が挙げられる。菌類は形態形質に乏しく、人工交配実験を行うのも必ずしも容易ではないため、形態的には識別ができないが生殖的に隔離されている種、すなわち隠蔽種が存在する可能性が高い。従来の研究では、隠蔽種識別のための解析が適切に行われていなかったため、異種混同することによって、宿主特異性が正確に評価できていない可能性があった。宿主特異性の研究でもう一つ重要な課題は、いかに宿主植物を正確な同定するかということであった。先行研究では、菌根菌の宿主植物はその菌の近くにに生育している(優占している)植物種と考える場合が多かったが、この方法では宿主樹種を正確に同定できていない可能性があった。そこで、本研究では、近年発達してきた DNA 解析技術を用いることで、これらの問題を解決し、菌根菌の正確な宿主特性を調べることを目的として研究を進めた。本研究では、菌根菌の中でも、いわゆるキノコ類が多く含まれる外生菌根菌に焦点を絞り解析を行った。研究材料としては外生菌根菌であることが知られているオニイグチ属菌(Strobilomyces, Boletaceae)を用いた。 最初に、オニイグチ属菌に実際にどれほどの隠蔽種が存在しているかを調べた。国内と台湾の森林からオニイグチ属の形態種 4 種の子実体を集め、そこから核 DNA(RPB1, ITS2)・ミトコンドリア DNA(atp6)の塩基配列を解読し、別々に分子系統樹を構築した。その結果、これまでオニイグチ(S. strobilaceus)、オニイグチモドキ(S. confusus)、コオニイグチ(S. seminudus)、トライグチ(S. mirandus)という 4 つの記載種が知られていたオニイグチ属菌で、核 DNA とミトコンドリア DNA の塩基配列で共通する DNA タイプが合計で 14 個識別された。それぞれの形態種ごとでは、オニイグチモドキとコオニイグチの複合種は 4 つのDNA タイプに、オニイグチは 7 つの DNA タイプに、形態形質が顕著に他の 3 種と異なるトライグチは 1 つの DNA タイプに、それぞれ分けられることが分かった。また、2 つの DNA タイプはいずれの形態種とも合致しない特殊な形態をもっていた。これらの DNA タイプは、独立の遺伝様式をもつ 2 つの DNA 情報で支持されたことから、オニイグチ属菌では、互いに生殖的に隔離された隠蔽種が多数存在している可能性が強く示唆された。
著者
升屋 勇人 岡部 貴美子 神崎 菜摘
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.53, 2011 (Released:2012-02-23)

ラブルベニア目菌類におけるダニ類寄生菌は,同じラブルベニア綱のピキシディオフォラ目との繋がりを考える上で重要であるが、その実体についてはあまり知られていない.ダニ類への寄生が報告されているラブルベニア目は約64種であるが,その多くはRickia属である.一方、その生活史の中でクワガタに完全に便乗した生活を営んでいる便乗ダニの1群、クワガタナカセというグループには,以前からDimeromyces japonicusが知られていた.演者らはダニ類に便乗する菌類の調査の過程で,Dimeromyces属2種と所属不明の便乗菌1種を見出した.Dimeromyces japonicusはコクワガタ体表に生息するクワガタナカセHaitlingeria longilobataの体表に寄生していた.菌体は無色で部分的に褐色,雌個体は3層からなる托を持ち,それぞれの上端から1個の子嚢殻,1本の付属枝を生じ,基部に足を生じる.托の枝は根棒状で,先端に向かって太くなり,約10個の縦1列の細胞から成る.子嚢殻は先端部直下に彎曲した褐色の角状突起を有する.雄個体は長短2本の付属枝と造精器を有する.長い方の付属枝は雌個体のものと類似し,短い付属枝は数個の細胞から成る.Dimeromyces sp.はヒメオオクワガタムシ体表のコウチュウダニ科Canestriniidaeのダニ体表に寄生しており,D. japonicusと形態的に類似しているが,角状突起が短く,付属枝を生じる托が短い点で区別できる.所属不明種はサンゴ樹状に分枝した枝が発達した形態を有し,アルケスツヤクワガタ体表に便乗するCanestrinia spの後部に付着していた.形態的にはラブルベニア目の付属肢に類似するが,他に分類群を特定する手がかりとなる形態は認められず,場合によってはラブルベニア目ですらないかもしれない.いずれにしてもクワガタに便乗するダニ類には様々なラブルベニア目菌類が寄生することが明らかとなった.これらの便乗ダニは未記載種が多く,未だ十分に探索されていないため,同様に潜在的に様々なラブルベニア目菌類が節足動物便乗ダニ上で見つかる可能性が高い.
著者
遠藤 直樹 山田 明義
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.81, 2011 (Released:2012-02-23)

テングタケ属タマゴタケ節(Oda and Tanaka 1999)には,A. caesarea,タマゴタケ(A.hemibapha),キタマゴタケ(A.javanica)など食用価値の高い種が含まれる.しかし,これら菌種では,純粋培養の困難さから菌根苗を用いた人工栽培研究は殆ど行われていない.演者らは昨年の本大会においてタマゴタケ節菌種の菌根合成を報告した.本研究では,タマゴタケ節菌種を定着させたアカマツ菌根苗の順化について検討するとともに,供試菌株の分子系統解析を行うことを目的とした. 菌根合成によりタマゴタケ節菌種を定着させたアカマツ菌根苗を作出した:タマゴタケEN-3株(山梨県鳴沢村産)で8苗,同EN-31株(長野県伊那市産)で3苗,同Asahikawa2-2株(北海道旭川市産)で4苗,キタマゴタケEN-4株(長野県松川町産)で1苗,ドウシンタケEN-29株(長野県南箕輪村産)で1苗.EN-3株とEN-4株を定着させた菌根苗は,滅菌したA層B層混合土壌を詰めた素焼き鉢に植え付け,ガラス温室内の地面に埋設し,最大350日間養苗した.EN-31株,Asahikawa2-2株,EN-29株を定着させた菌根苗は,滅菌したA層B層混合土壌を詰めた250ml容のポリカーボネートポットに植え付け,インキュベータ内の20℃,8000ルクス連続照明下で,最大180日間の養苗した.温室順化の結果,EN-3株を定着させた菌根苗では8苗中6苗で菌根が生残し,菌根量はいずれも顕著に増加していた.EN-4株を定着させた菌根苗では,菌根の生残は認められたが,菌根量の増加は殆ど見られなかった.インキュベータ内での順化の結果,供試した全ての苗で菌根の生残が認められたが,菌根量の増加は必ずしも顕著ではなかった.順化後の菌根の形態観察では,タマゴタケとキタマゴタケの菌鞘構造が酷似していたが,ドウシンタケでは異なっていた.ITS領域の塩基配列をもとにNJ法により系統解析した結果,タマゴタケ3株はいずれも同一クレードを形成した.キタマゴタケでは,EN-4株とEN-62株(大分県産)が同一クレードを形成したが,茨城県産標本は異なるクレードを形成した.
著者
竹内 嘉江
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.80, 2011 (Released:2012-02-23)

ツガ・コメツガとマツタケ菌との共生関係 竹内嘉江1)・松下範久2)・(1)長野県林総セ・2)東大院農) symbiosis relation between tsuga sieboldii ,t.diversifolia and tricholoma matsutake by y.takeuchi,n.matsushita.(1)nagano pref.for.res.ins.;2)the univ.of tokyo) マツタケ菌が,ツガ・コメツガの根に共生するのかを明らかにするために,野外のマツタケのシロに苗木を植栽して,マツタケの菌根が形成されるのかを調査した.長野県下伊那郡松川町のマツタケが発生する59~66年生アカマツ林において,林内に植栽した31年生ツガと,マツタケのシロ前線に植栽した6年生コメツガ幼木の根を採集し,実体顕微鏡下で観察した.その結果,両樹種ともに,アカマツのマツタケ菌根と形態的に類似した菌根が観察された.これらの菌根からDNAを抽出し,菌類のrDNA-ITS領域の塩基配列を決定した.得られた塩基配列をDNAデータベース登録配列と比較した結果,両樹種の菌根から得られた配列は,マツタケの登録配列と99%以上一致した.これらの結果から,人工植栽したマツ科ツガ属の2樹種ともに,自然条件下でマツタケ菌が菌根を形成することが実証された.このことによりマツノザイセンチュウによるアカマツ被害の多い地域では,ツガ・コメツガを植栽することによりマツタケのシロを保持できる可能性のあることが明らかになった.
著者
藤原 恵利子 三川 隆 矢口 貴志 長谷川 美幸 池田 文昭
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.36, 2011 (Released:2012-02-23)

Conidiobolus属菌は主に土壌,腐植などに生息する腐生菌であるが,一部の菌はヒト,動物に感染症を起こすことが知られ,特に熱帯圏では本菌による播種性感染症が報告されている.本属菌は接合菌類のトリモチカビ亜門,キクセラ亜門と系統関係にあることが示唆されており,接合菌類の系統進化を論じる上で鍵となる系統的位置にある菌群であると考えられている.本属菌の分類・同定は形態や生理学的性状に基づいた研究により現在32種以上知られているが,本属菌の系統分類は未だ確立されていない.我々は本邦産の本属菌の種相互の系統関係の解明を目的とし,土壌,腐植などから本属菌を分離し系統分類学的な研究を行っている.本属菌は15℃~35℃で生育する中温性菌が研究の対象となっており40℃以上で生育する菌に関する研究は殆どない.今回は高温条件下で発育する本属菌の分離法および系統的位置関係を検討した. 土壌,腐植など530サンプルを用いて40℃および25℃で5日間培養し,40℃のみで発育した菌株を分離した.参照株としてヒトから分離された高温性菌(IFM58391、IFM55973)を用いた.これらの菌株の18S rDNAの塩基配列を決定し系統解析を行った.高温性菌は4株(F325,F328,F329,F330)検出された.系統解析の結果,分離菌株4株およびIFM株は4つの系統群に大別された.今回分離した高温性菌およびIFM株は相互に類似した形態学的特徴を示すが,18S rDNAでは多様な系統関係にあり,形態,生理特性,遺伝子などの多相的な方面からの分類が必要であると思われた.
著者
阿部 淳一 保坂 健太郎 大村 嘉人 糟谷 大河 松本 宏 柿嶌 眞
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.18, 2011 (Released:2012-02-23)

2011年3月の福島第一原子力発電所の事故により,多量の放射性物質が環境中に放出され,広い地域に拡散した.3月15日には,当該発電所から167 kmに位置する筑波大学構内でも,最大放射線量2.5 µSv/hが大気中で測定された.野生きのこ類および地衣類の放射性物質濃度を調査するため,構内およびその周辺で発生していたきのこ類8種および地衣類2種を4月26日に採取し,本学アイソトープ総合センターで放射性セシウム(137Cs, 134Cs) およびヨウ素(131I)濃度を測定した.その結果,きのこ類ではスエヒロタケ (木材腐朽菌)>ツチグリ(外生菌根菌),チャカイガラタケ(木材腐朽菌)>Psathyrella sp.1,Psathyrella sp.2 (地上生腐生菌)の順に,それぞれの核種で濃度が高かった.スエヒロタケでは137Cs:5720,134Cs:5506,131I:2301 (Bq/kg wet)であり,これは,2004年に構内で採取した標本と比較しても極めて高い値であった.なお,アミガサタケ,カシタケ(外生菌根菌),ヒトクチタケ(木材腐朽菌)では,放射能物質濃度は比較的低かった.一方,地衣類では,放射性物質の濃度が極めて高く,コンクリート上で採取したクロムカデゴケ属の一種では137Cs:12641,134Cs:12413,131I:8436 (Bq/kg wet),樹幹から採取したコフキメダルチイでは137Cs:3558,134Cs:3219,131I:3438 (Bq/kg wet)であった.これまでの報告で,きのこ類や地衣類は放射性物質を蓄積することが報告されているが,今回の調査でも,そのことが認められた.現在,継続的に調査を行っているが,その結果も加えて報告する.
著者
大前 宗之 折原 貴道 白水 貴 前川 二太郎
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.7, 2011 (Released:2012-02-23)

地中に子実体を形成する菌類,いわゆる地下生菌の大部分は外生菌根菌であり,これらは外生菌根性の樹木が分布する地域を潜在的な分布域とする.日本には,様々な外生菌根性の樹木が広く優占しているため,これら地下生菌の多様性も高いことが推察される.しかし,日本における地下生菌の分類学的な研究は著しく遅れており,その多様性の全貌把握には至っていない.HydnotryaはPezizales,Discinaceaeに含まれる地下生菌であり,日本ではこれまでH. tulasnei(クルミタケ)の一種しか報告されていない.しかし,菌根由来のDNAを用いた系統解析により,日本にはより多くの系統群が分布している可能性が示されている.そこで,演者らは,日本におけるHydnotrya属菌の多様性を明らかにすることを目的とし,採集した子嚢果及びGenBankのデータを用い,核rDNAのITS領域,及び28S領域の分子系統解析を行った.その結果,日本におけるHydnotrya属菌は大きく3つのクレード(クレードA, B, C)に分かれた.クレードAはアジア,北アメリカ,ヨーロッパの種から構成され,その中で,日本産標本は,韓国の外生菌根から検出されたHydnotrya属菌と単系統群を形成した.クレードBは日本産標本のみから構成され,クレードAの姉妹群となった.クレードCは日本産の標本とヨーロッパ産H. cubisporaから構成された.
著者
佐藤 大樹
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.38, 2011 (Released:2012-02-23)

2011年4月から5月にかけて筑波山中腹の3箇所の沢でフタバコカゲロウ(Baetiella japonica)を採集した.このカゲロウは大きめの石や岩盤の表面にしがみついており,左手で水をよけ,現れた幼虫を鋭利なピンセットでつまみとり氷冷して研究室に持ち帰った.採集された複数の個体において,肛門から伸び出た菌糸が観察された.5月23日に採集された個体では,21頭中4頭が肛門から菌糸を伸ばしていた.菌体の基部は半球形に寄主の後腸クチクラに食い込んでおり,周囲は褐色を呈していた.菌体は主軸があり,肛門から伸び出した後に隔壁部分から一箇所あたり2-3本に分枝し,これを繰り返した.菌糸先端付近は,6-14μm間隔で隔壁に区切られた胞子形成細胞を形成し,続いて斜めにトリコスポア(trichospore:離脱生の胞子嚢)を形成した.トリコスポアは細長い円筒形でカラーはなく,長さ50-62.4μm幅4.0-4.6μmであった.同様の菌体基部,分枝様式を持った菌体において,菌糸の先端部分が癒合し,中間に紡錘形の接合子の形成が認められた(高さ8.0-9.4μm幅38.0-42.0μm).水生昆虫の肛門から菌体が伸び出すトリコミケテス類は,レゲリオミケス科(Legeriomycetaceae) のOrphella, Pteromaktron, Zygopolarisの3属である.Orphella属とは,トリコスポアの形態が異なり,Pteromaktronとは分枝のタイプが異なる.Zygoporarisとは,トリコスポア形成様式が似ているが,接合子の形態が異なる.従って,本属を新属と判断した.トリコミケテス類は観察に適した良い状態の標本を採集することが困難である場合が多いが,今回は,胞子形成が始まったばかりの菌体をスライドガラス上に1滴の沢の水とともに5℃で追培養を行い,トリコスポアの形成過程を約10日間連続観察できた.レゲリオミケス科のように分枝する菌体を持つトリコミケテス類は,分離培養までは達成できなくても,追培養による形態形成観察は有用な手段であると考えられた.